気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

豊旗雲 秋山佐和子 砂子屋書房

2020-06-28 00:42:32 | 歌集
キャラメルを渡しくれたる夫の手へ銀紙もどす差し出だす手に

まんじゆさげ末枯れ立つ野を過ぎんとし老醜詠みし阿佐緒思ほゆ

こつてりと煮つめし金目鯛のうまきことほめてくれたり初めてのこと

枇杷の花の下枝(しづえ)ひきよせ夫を呼びあるかなきかの香りかぎあふ 

香の高き柚子を刻みてみちのくの白身の魚の椀に散らしぬ

インターフォンに夫の顔の映りゐる頰のこけたる夕暮れのかほ

隠元の胡麻和へ懐かし母の摺る鉢を押へし厨辺もまた 

茗荷青紫蘇生姜あさつきそれぞれに刻みて小皿に供す幸あり 

紅(かう)ふかく水引草の咲くほとり秋の素(さ)水(みず)の通ふ音聴く 

わたつみの豊旗雲に入日さし くちずさむとき胸処ひらけり 

(秋山佐和子 豊旗雲 砂子屋書房)
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第八歌集。夫を見送った一年間の歌を収める。短歌も人生も王道を行く。
評伝『歌ひつくさばゆるされむかも』を愛読しているわたしには一層こころ惹かれる一冊。
こんな見事な夫婦もいるのだと、舌を巻いた。料理の歌が丁寧に作られていて、美味しそうだ。