Cigarman

僕は、学生のころCigarmanだった。毎晩、首から10種類ほどの葉巻の入った木箱をぶら下げて、バー、クラブ、レストランと売り歩いていた。当時、5人ぐらいのCigarmanがケープタウンにおり、20時に事務所に集合しそれぞれ葉巻の箱を担いで自分の持ち場へ散っていく。僕は、街が担当だった。初日はトレーニングで、先輩CigarmanのMichaelについて行き、クラブ、バーで門番、マネージャに僕を新たなシガーマンと紹介してくれた。

あの頃の僕は、英語もろくに話せず、しかもどこにいっても音楽で相手が何をいっているかわからずただ笑顔でいた。もう一人の街担当でドレッドロックのRodgerにも笑顔だとよく言われた。それぞれの葉巻のうんちくだけ丸覚えして必死に説明していた。夜の始めはいいが、12時近くになると皆さん酔っ払い、中にはあまり親切じゃない人も出てくるがそういうのは気にせずに次ぎへと進んでいった。英語もろくに話せない奴が夜の街で葉巻売り。いろんな奴がいるこの町では、それほど異様でもなかったのだろう。

売り上げの20%が収入源なので、夜によってポケットに入る金はかなり違った。一番よかった夜で350ランドほど、それが毎日ならいいが、普通は4時間働いて100ランド稼げれば万万歳としていた。数々のバイトをしたが、シガーマンが最も自分の糧になったのではないだろうか。夜の街で働いている人とは皆顔見知りになれたし、門番達とはうなずきあいお互いに敬意を示していた。街のストリートチルドレンにはシガーマンと遠くからでも親しみをこめて呼びかけられた。

休憩したいときにはいつでも休憩し、酒を飲み、タバコを吸っていた。また、どんなクラブにも当然カバーチャージを払わずに入れたので、どのクラブがどんな音楽でどんな客層か全て把握していた。働く気なしの時は、バーテンダーに葉巻を預かってもらい踊ったものだ。一晩、2本の葉巻を無料でやっていいようになっており、新しい場所を開拓するときや、門番の機嫌をとるために使っていた。

12時近くになると他のシガーマンが街に戻ってき、通りやクラブで再開していた。彼らが余りに早く街に戻ってくると、僕の持ち場があらされることになるので、それぞれの縄張りを尊重し、自分の持ち場で十分仕事をして事務所がある街に戻ってくるのであった。12時を過ぎればいつでも事務所に戻って精算してよかったが、週末などは遅く頑張った。通りで再開したときに、お互いの夜の出来を確かめ合い情報交換し、たまには「もう今夜はこれで精算して遊びにいこうや」と、その日の稼ぎをそのまま酒に次ぎこむこともよくあった。

服装はなんでもよかったがブルージーンズだけは禁止とされていた。これは、シガーマンのボスであるTimのポリシーで、あまりにカジュアルだと営業に響くと信じていた。夜の始まりは「葉巻はいかがですか？」とくり出していたが、夜もふけお客も酒帯、こっちも疲れてくると「誰か葉巻いるヤツーーー？」と叫んでいた。満員のクラブなどではとても首からさげてはおれず頭の上に箱を上げて踊っている人たちの間を抜けながら「葉巻ーーー!!」と。

チップの割合も大きかった。高級なレストランなどでは50ランドなどのチップをもらいポーカーフェイスで礼を言い、内ではラッキー!と雄たけびを上げた。もうかれこれ数年も前の話である。その頃のシガーマンが今何をいるかしらない。しかし、世代は変われど葉巻売りはいるようだが、ほとんど見かけない。今でもあの頃を懐かしく思い出すことがある。シガーマンであることは自分のケープタウン初期生活に重要な役割を果たした。今でも、これからでもシガーマンの心を忘れずにいたい。