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QT Lab.品質・技術研究室

技術者のための品質工学、品質管理、統計学、機械設計、信号処理を
解説します。

カイ2乗分布とは

2014-11-22 09:15:29 | 品質工学

 現在、趣味としてMT法における損失関数の研究をしています。
 MT法では ”マハラノビス距離” が判別のための評価指標として使われます。
 同属とみなせる集団で、その集団を表現するであろういろいろな項目についてデータを
収集して、それを数学的に処理してマハラノビス距離を求めるための情報(相関行列の
逆行列)を作ります。

 同属とみなせる集団を単位空間と呼び、単位空間を表現する複数の項目間の関係を
相関行列の逆行列で定義するわけです。

 新しく採集したサンプルが単位空間と同属か否か、をこの逆行列を使って
マハラノビス距離を計算して、あるしきい値を超えた場合、異質と判定します。

 さて、このしきい値ですが、単純に ”4” と指導する先生もいますが、私は、項目の数を
自由度とするカイ2乗の有意水準5%、または、1%となる値を使うことを薦めています。

 この理由は、マハラノビス距離は項目数を自由度とするカイ2乗分布にしたがうからです。

 ある特性について多数のサンプルを集めて統計処理をすると、多くの場合、正規分布に
したがいます。これは、偶然誤差が正規分布にしたがうことに由来しています。

 誤差を2乗した情報が ”分散” ですから、正規分布を2乗すれば ”分散” の分布が
わかるんじゃないか?と考えたのだと思いますが、標準正規分布を2乗したものが
自由度1のカイ2乗分布になります。2乗しているので、当然正(プラス)の領域のみの
存在となります。

 さらに、ある特性を構成する複数の項目がそれぞれ正規分布にしたがう場合、
その特性の誤差は複数の正規分布から取りだした値の足し算になります。

分散は複数の正規分布から取りだした値を2乗して足した値になるはずです。

 この作業を多数回くりかえし、多数の分散を求めます。

 そして、その出現度の分布を調べたものが項目数を自由度としたカイ2乗分布の
正体です。

 自由度;kのカイ2乗分布には、おもしろい特性があります。分布の平均はkになり
分散は2k になるというものです。

 マハラノビス距離は逆行列で処理した直後は2乗情報ですから、その項目数を自由度と
するカイ2乗分布にしたがうわけです。

 品質工学では、マハラノビス距離の平均が項目数;kになるので、最後に距離をkで
割って平均を1になるようにします。これにより、項目数に関係なく、単位空間の
マハラノビス距離の平均を求めて検算したり、項目が異なる単位空間同志の比較が
できるようになるのです。

 マハラノビス距離やMT法については、拙書
試して究める品質工学 MTシステム解析法入門』 で解説していますので、勉強したい
方は、ぜひ、買ってください! MT法によるマハラノビス距離を計算するExcel VBAも
無料でダウンロードできますよ。


戦国時代の品質工学

2014-11-19 21:29:35 | 品質工学

歴史的エピソードにも品質工学的な事例が散見されます。

これはある先生から聞いた話ですが、戦国時代の織田家のはなしです。

織田信秀は、家督を相続させる候補であるふたりの息子、信長と信行を育てるとき、
両者をまったく異なる条件のもとで生活・教育させたそうです。つまり、N1、N2の
条件をかえて実験を行ったともいえるし、生存戦略として、変化が激しくおこる
戦国時代という環境のもと、織田家という種が淘汰されないように“多様性の獲得”を
めざしたとも考えられます。進化論の活用です。

また、信秀の死後、信長と信行は家督を争うことになるのですが、信長は、織田家に
仕える武将のうち、誰が味方についてくれて誰が敵になるのか、を見つけるために
ある奇行をおこします。

それは、信秀の位牌に、焼香炉の抹香の灰をぶちまける、というものでした。

それにおどろき、怒りの表情をあらわした武将は自分の敵になる、という評価を
行ったのです。
これは、刺激(ノイズ)をあたえて応答を観察する、という品質工学の実験手法
そのものです。


山梨県品質工学研究会

2014-11-15 09:43:00 | 品質工学

 昨日、山梨県品質工学研究会さんからご招待をうけ、参加させていただき、2件の
発表をさせていただきました。

 ひとつめの『MT法とFFT重心監視による信号監視システム』でしたが、同じような処理を
2回おこなうところの説明が下手だったため、理解していただくのに時間がかかってしまいました。
 また、ふたつめの『進化論と品質工学』は共感していただけたようです。

 今回の研究会には、品質工学会の斉藤会長もご出席されて、学会の新しい運営についてのお話を伺うことができました。

 山梨県品質工学研究会さんの議題の討論にも参加させていただきとても楽しい時間を
すごすことができました。

 山梨県品質工学研究会の皆様、大変ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。


 

 


9月の浜松品質工学研究会

2014-10-01 20:34:50 | 品質工学

 9月26日、浜松品質工学研究会が開催され、ゲストとして産業革新研究所
熊坂氏にお越しいただき講演をしていただきました。
  とても有意義なお話で、会員の皆様にとって、とてもよい刺激になったものと
思います。

 私は、紀元元年(つまり2014年前)からの世界地域のGDPの変遷についての
お話がとても興味深かったです。熊坂氏の調査力はすごいです。
  熊坂氏の産業革新研究所 「ものづくり革新ナビ」はとても有意義なサイトですので、
ぜひ、検索してみてください。

 今回、私も2件報告しました。ひとつは、「異常信号検出システム」、もうひとつは
「回帰寄与率型SN比の計算シート」 です。「異常信号検出システム」 は、本当に
びっくりするほどわずかな信号発生系の変質やノイズ混入量の変化をとらえることが
できます。論文として学会に提出しました。

 さて、今週もラーメン三昧です。まず、研究会の日に浜松の有楽街にある老舗
「みやひろ」さんでチャーシューワンタン麺をいただきました。

 シンプルでとてもおいしい、中華そばです。

 翌土曜日は末廣家さんで先週とおなじチャーシューメンとニラからし、そして、日曜日は
東神奈川「夢(ムー)」さんでチャーシューワンタンメンをいただきました。


  
  バラチャーシュー3枚、モモチャーシューと鳥チャーシューが1枚、肉包みワンタンが5個
という豪華版です。レンゲのよこの注射器には煮干しオイル(3cc)がはいっています。
これを巧みに使い味を変化させ、全く飽きることなく最後までおいしくいただけます。

  品質管理検定の問題解説は次回、かならずしますのでおゆるしください。


ISO16336

2014-09-17 21:14:21 | 品質工学
 品質工学のパラメータ設計がISOの規格となりました。
ISO 16336 というカテゴリです。今月1日に公開されたようです。
品質工学会の長年の希望がかなえられたことになります。
 
 今回の規格内容は、パラメータ設計の計画、手順、計算方法に
絞られているようです。
 
 さて、その内容とは・・・邦文はまだありませんので英語版の前文主旨を
訳してみました。

 なお、”robustness” という英単語は、品質工学では、「頑健性」と
訳す場合が多いのですが、私は、「抗たん性」と訳しています。

抗たん性【こうたんせい】 システムに対して、そのシステムに期待されている
機能をの発揮を妨害する攻撃をうけても、機能を発揮し続けることができる能力

という意味です。

 損失関数とSN比がパラメータ設計の基本原理であることが強調されています。

ISO16336主旨

《イントロダクション》
パラメータ設計とよばれている設計手法は、製品設計段階において、
製品機能の抗たん性を獲得することを目的とした最適な設計諸元を
きめるために使います。抗たん性の評価は、製品が出荷されてから
ユーザーに使用され、廃棄されるまでの全期間において発生する
であろう経費と損失のすべてを考慮して実施します。

もし、製品の抗たん性が低ければ、出荷後の輸送からユーザーもとで
の使用を経て、最終的に廃棄されるまでの間、その品質の悪さがゆえに
環境問題や社会的、経済的な損失を生産者やユーザーにあたえます。
したがって、製品を供給する企業は、これらの損失を低減するべく、
抗たん性の高い製品を供給する責任と義務があります。

製品設計にパラメータ設計を導入する目的は、その製品が使用されるであろう
期間において、不良、不具合などの品質問題の発生を低減することです。
パラメータ設計による成果物である抗たん性の高い製品は、その品質に
由来したユーザーにあたえる損失を最小にすることでしょう。

脆弱(抗たん性が低い)な製品は、その製品に期待されている機能が
ばらつきやすく不良不具合などの品質問題の原因となることに注意しましょう。

製品において、設計者が選択・決定できる設計諸元(制御因子)の
最適解(水準)は、ノイズ因子をあたえた環境化での評価を行なうことで
きめることができます。

開発や設計段階でのパラメータ設計の活用は市場において抗たん性の高い
最適設計がなされた製品と仕様をきめることができます。
製造段階では仕様に合致した製品を製造することが目的であり、そのために
製造工程が最適化されるべきです。また、製品が使われる環境や使用に
ともなう劣化に対処する設計がされるべきです。それらを実現できるのが
パラメータ設計であり、社会的損失の低減のための方策となります。

ノイズ、つまり、環境の変化や悪化にともない製品はそれに期待されている
機能が目標値からずれたり、ばらつきが大きくなったりします。ノイズに
よって起因される製品機能のばらつきが機能の抗たん性を評価するための
指標となります。
というのは市場で生起する損失は、機能のばらつきと比例関係にあるからです。
SN比という指標はばらつきの大きさの逆数という概念であるため、抗たん性の
指標となり、その値が大きければ大きいほど抗たん性が高いことを意味しています。
パラメータ設計の実験計画では、製品の部品、要素、材質などの諸元(制御因子)は
直交表の内側に、それ以外の因子(ノイズ因子や信号因子)は直交表の外側に
割りつけます。

抗たん性を高めるという視点から、直交表の内側に割りつけられた制御因子と
外側に割りつけられたノイズ因子の交互作用を利用してSN比を指標として使い、
制御因子の最適水準をみつけだします。そのために使用する直交表はL18を推奨します。
国際標準としてのパラメータ設計手法は、出荷後の総損失の低減を目的としています。