前回、前々回と中心極限定理とそれを使った分散の計算式の導出について説明しました。
中心極限定理は実体験しないとなかなか理解が進まないと思います。いずれ、体験ツールの公開をします。
さて、いよいよ、問3の解説をします。まず、問題の概要は、
ある会社で製品の原料をロットで購入し、その原料の特性xが製品品質に大きく寄与している。いままで、xの母平均;μは8.0であったが、xが小さくなったのでは、という指摘があったので、ランダムに9ロット選びxを計測した結果、その平均は mx=7.0、偏差平方和;S=12.0 となった。以下3通りの条件のもとで検証を行った。
という主題であり、以下①~③の設問があります。今回は①について解説します。
① H0:μ=μ0(=8.0) H1:μ<μ0 の検定を行いたい。前回調査では原料のばらつきは安定していて母分散はσ^2=1.1^2 であった。今回も母分散はかわらないものとして、有意水準5%で検定した場合、検定統計量の値は(1)となり、棄却限界値は(2)であり、その結果、この検定結果は有意(3)である。
という問で、(1)~(3)を選択肢から選ぶものです。
この問題のかぎは、「今回も母分散はかわらないものとして」という一文です。現実の品質管理では、このような前提をたてるのはいかがなものか、と思います。もし、母分散がかわってしまっていたとしたら、せっかく検定をやって得た結論も意味がないものとなってしまいます。 まぁ、今回はこれはおいておき・・・
帰無仮説H0は 「今までの平均と今回の平均がかわらない。」というもので、これが否定されると「今までの平均と今回の平均はちがう」ことになり、今回の平均が今までの平均よりも小さければ、「今回の平均は今までの平均より小さい」ということになります。
今までの原料の母分散;σ^2=1.1^2(つまり標準偏差が1.1ということです) で、これは平均群の分散ではありません。
さて、今回無作為抽出した9ロットの原料で計測したxの平均;mxが7.0だったわけです。そして、その偏差平方和;Sは12.0です。偏差平方和;S(=12.0) とサンプル数;n (=9)ですから、その分散;s^2 は、s^2=S/(n-1)=12/(9-1)=1.5になります。なお、①の問では、s^2は使いません。
前提として、ばらつきは過去と変わらないので、z検定を行います。サンプル平均;mx と母平均;μ0 母分散;σ^2 そして、サンプル数;n を使った式が存在します。
z=(mx-μ0)/ (σ^2 / n)^0.5 という式です。本当は分母をルート記号でくくったものが一般的な記述になります。
そして、この分母の式こそ、中心極限定理の利用になります。
前回のブログ 「なぜ、不偏分散の計算では( n-1 )で割るのか?」に
(mx-μ)^2の期待値から( mx-μ )^2 =σ^2/n という式を導いていますが、この式より、
(mx-μ)^2 / (σ^2/n)=1 になります。そして、当然
(mx-μ0)/ (σ^2 / n)^0.5=1でもあります。
つまり、先ほどの zの式は
(mx-μ0)が (σ^2 / n)^0.5の何倍か?を求めているのです。zが1に近ければ、新たに抽出したサンプル平均 mx とμが違っていても、新たに抽出したサンプルを含む母集団は前回までとおなじであり変質していない、と判断できるのです。
そして、zがある値のとき、変質していないという確率が決まり、それが5%になるzの値を 「有意水準5%の棄却限界」といいます。その値は標準正規分布表からみつけることができます。
今回はmx<μ0という片側検定ですから、標準正規分布表で値が0.05になる z の値が5%有意水準の棄却限界です。標準正規分布表では、z=1.64で0.0505 z=1.65で
0.0495 ですから、z=1.645くらいで0.05になりそうです。
実は、これが(2)の答になります。しかし、mx-μ0<0ですから、zは負の値になります。選択肢には、(カ)-1.645があるため、(2)の答は(カ)です。
(1)はz=(mx-μ0)/(σ^2/n)^0.5=(7-8)/(1.1^2/9)^0.5=-2.727 になり選択肢には(ア)-2.727があるため、(1)の答は(ア)になります。
そして、この値は棄却限界の-1.645よりも大きいので、有意となりH0の仮説は否定されます。したがって、(3)は(キ)”である” になります。
(σ^2/n)^0.5 で割る理由が 『中心極限定理』 に基づいているのですが、多くの品質管理の教科書では十分な解説がされていません。難解だから割愛しているのでしょうが、やはり、参考程度でもよいので、中心極限定理を紹介し、それがもとになっていることを紹介するべきだと思います。
次回、②の解説をします。