美容室のメニューに、「花嫁仕度」、「振り袖着付け」というものがあります。
昭和の時代ぐらいまでは、多くの美容室が行っていたメニューです。
が、時代の流れの中で、美容室の営業の形も変化してきました。
カット中心、カラー中心、男性中心の美容室、など、専門分野に特化したお店が増え、総合的なサービスを行うお店は、激減しています。
とくに、和装の「花嫁仕度」、「振り袖着付け」は、お客様の需要が激減してきたため、その分野の技術をもち、そのレベルを維持し続けられる美容師は少なくなってきています。
そんな状況のなかで、ストイックなまでに、この分野の技術の研鑽に励む美容師の集団(技術研究会/一門)があります。
松本市に本部を置く「嶺美会」です。
「和装のカリスマ」田中文代先生によって、開設されたこの会は、
和装花嫁の全国コンテストの最高峰といわれる「千葉益子賞」、
そして、もう一方の頂「山野芸術祭・最優秀賞」の常連であり、その受賞者を驚くほど多数輩出しています。
そのことだけでも、この会の技術水準の高さは、明らかです。
その「嶺美会」の30周年記念イベントが、去る12月2日 ホテルブエナビスタで盛大に行われました。
かつて、嶺美会25周年のアカデミック・セミナーで、
ゲスト出演された「アップヘアの巨匠」谷口愛子先生が、引き合いに出された、歌舞伎の名優・故中村勘三郎さんの座右の銘は、
「型破り」と「型なし」論。
嶺美会現会長 田中寿恵先生は、常々この「型」の大切さを話されています。
「型」は、当然、一朝一夕にできるものではありません。
だれの目にも美しく映る花嫁姿。その背景には、美容師さんの研鑽の歴史が垣間見えます。
当店の伊藤明美は、田中寿恵先生に師事して、嶺美会で勉強させていただいています。
また、当店の本店店主・鈴木文子は、田中文代先生に師事して以来、25年間にわたって、嶺美会で勉強させていただきました。
お客様の価値観や結婚式のシステムが多様化した現在、
美容師が、結婚式のスタイルを決めるお手伝いをさせていただく機会は、明らかに減っています。
同時に、一般のお客様が、最上級の和装花嫁をご覧になる機会も、残念ながら少なくなっています。
私たち嶺美会で学んだ美容室は、結婚式の重要な要素として、改めて、
「美容師の技術力」が必要である、とお考えいただけるよう、
磨き上げたその能力をアピールする積極的な取り組みが必要であると痛感しています。
さて、今回のメインイベントですが、
日本の時代劇を見るかのような、時代衣装のファッションショーから始まり、
オリエンタル風無国籍調の結婚衣装のショーに移り。
トリは、ドレスとも、打ち掛けともイメージできる衣装のブロンドモデルによるダンスショーでした。
嶺美会としては、30周年記念でありながら、
タレント・ゲストの起用などはせず、このショーに全精力を費やされただけに、ド迫力の大スペクタクルでした。
ラストのハウスミュージック全開のダンスショーは、東京の大ホールで上演してもよいようなスケールです。
ショーのテイストも、日本調からインターナショナル・モードに推移していくあたりに、嶺美会の将来を見据えた野心的な目標が感じられました。
また、それと同時に、
嶺美会が今、トップランナーとして求められるものの大きさが、
(「花嫁ファッションの将来像」という答えの出ないテーマへの回答の難しさ)
見ている側にもひしひしと伝わってきたイベントでした。
若い女の子が晴れ着を着る機会も減ってきている昨今です。
いま、若い美容師さんにとって、和装の技術・知識の習得にかける時間とコストは、割に合わないかもしれません。
しかし、
たとえば、「自分のお友達、ご家族から、成人式の仕度を頼まれたのに・・・受けられない。」
さらには、「和装の知識も技術もないのに受けてしまって×××…」なんていう、もっと悲しい美容師さんの話も耳にします。
きっかけは、それでもよいかと思います。が、美容師さんには、是非、和装の習得を目指していただきたいと思います。
和装の世界は、まさに歌舞伎界同様、型の世界です。
技術の上達までには時間がかかるかもしれませんが、身につけた技術は、きっと役に立つ時が来るでしょうし、美容師としてプライドを持ったお仕事ができるようになるはずです。
嶺美会は、コンテストが目標の方ばかりではありません。
お稽古は厳しいですが、和装の技術・知識をえる最高の場所ではないでしょうか。