前シリーズのテーマでもあった、「着物のある暮らし」
と、簡単に言っても・・・
いま、私たちの日常生活の中で、着物姿をイメージすることは、とてもむずかしいことです。
なんとか、着物ライフのイメージソースを探そうにも、
「着物のファッション誌」のモデルさんは、生活感とは無縁のポーズを決めて、写真に納まってしまっています。
となると、あとは映像に頼るしかありません。
そう、映画のフィルムの中には、いきいきと着物姿で生活をしている人間のシーンが、たくさん焼き付けられています。
ここでは、
そんな映画(時代劇は除く)の中から、現在の私たちの着物ライフの参考になりそうなものをいくつか、ピックアップしてみたいと思います。
そして、着物を通して、いつもと違う角度から映画を見る、というささやかな楽しみ方をご紹介できたら、と思います。
<「シネマきもの手帳/森恵子著」 ★この本を、今回の連載の「テーマ設定の」参考文献とさせていただきました>
◆着物という一つのテーマにフォーカスして、日本映画を楽しむ◆
着物のみに注目して、今までに見た映画を見直してみる。
すると、一度観た映画でも、今まで気付かなかった、見落としていた映画のこだわり、魅力を発見することができるような気がします。
では、まずはこの作品から、
① 映画 「紀ノ川」 原作 有吉佐和子 監督 中村登
◆この映画は、明治時代、まだ特権階級だった、地主の旧家に嫁いだ、主人公(司葉子さん)の一生を、その娘(岩下志麻さん)との葛藤を軸にして描く、まさに大河ドラマと呼ぶにふさわしい大作です。
「旅の着物に・・・」の連載の最初のスタイリングである、夏物の白い着物。
そのイメージソースにさせていただいたのは、次のワンシーンです。
◆主人公の司葉子さんが、夏の炎天下、紀ノ川の河原で、夏休みに帰省した息子と、将来について語り合うシーン。
真っ白な着物姿が、とても印象的です。
<「旅の着物に・・・/「風立ちぬ」八ヶ岳編」より>
映画「紀ノ川」は、このほかにも、着物ファッションの歴史を知るうえで、見どころが大変多い映画です。
例えば、
◆映画の冒頭での、紀ノ川を下る「嫁入り行列」の場面と、旧家同士の豪勢な「祝言」の場面は、
「古典的な結婚式」の再現映像としても、興味深く、見ごたえがあります。
スズキ美容室主催、「ウェディング・ファッションショー」の際には、白無垢の花嫁の重要な映像資料として、擦り切れるほど、再生して、研究させていただきました。
② 映画 「夏の終り」 原作 瀬戸内寂聴 監督 熊切和嘉
◆この映画は、男女の3角関係を描いた、瀬戸内寂聴さんの私小説ともいわれるベストセラーの、何度目かの映画化。
◆こちらの映画でも、主人公を演じる満島ひかりさんが着る、夏の真っ白な着物が印象的。
満島さんが着こなす着物の数々は、昭和の中期頃の時代設定のものなのですが、「現在の感覚で、その時代の着物を表現した」と形容するにふさわしい、ハイセンスな感性に満ちています。
◆まだ着物が日常着として切られていた時代の、この物語。
満島さんと小林薫さんの着物姿での日常生活が、こだわりぬいた映像表現で綴られています。
男性の日常着としての着物の着こなしについても、参考になる映画です。
つづく。