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建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

単身赴任・辞令

2025-03-03 07:58:37 | 建設現場

            ―――現場決定―――

 朝、少し早めに出社しロビーで時間調整をしている。
「お早ようございます。所長、次はどちらですか?」 
 と狭いエレベーターの中で各階停止しながら、人の行き来する度毎に訊(たず)ねられる。
「聞いてないのよ、手近な所であって欲しいよ、家から通勤範囲ならいいけどねェ・・・」

仕事開始のチャイムが鳴り終る頃、Y部長から次の現場の行き先を簡単に告げられた。
「今度はE市でマンション付きZビルだ。また頑張ってくれよ、ナ・・・」
「えっ⁉E市、E市ですか――――」

仕事場が与えられたもののE市では通勤不可能である。
サラリーマン風に勤務時間が9時から17時30分迄ならば、自宅から通勤も出来るだろう
が、この業界は早出・残業が当然の如く、又、土休もないのが慣習となってしまっている。

建設業という商売柄、単身赴任は仕方がないとあきらめてはいるが、やはり遠隔地の現
場は好きではない。 

しかし、何の事前情報もないまま、あっさりと
〈次はE市で・・・〉
と言われて、単身赴任になるかも知れないものを、すんなり「ハイッ」と答えられるもの
だろうか。

いつものことながら
《人を動かす基準》
というものを教えて頂きたいものだと思う。

E市に近い人なら喜ぶ現場だろうが、何で私が遠方へ出向かねばならないのか・・・。
『会社の方針』という言葉に従ってどこにでも動くのも、建築現場員の《定め》であろう。

取り敢(あえ)ず家に連絡を入れた。 
「今度の現場はE市だってヨ。また、単身赴任だナ・・・」 
「いつも急なのネ。で、何を創るの?・・・で、いつから行くの?」 
我家は《建築屋家業と云うものはこんなもの》とトウの昔から割り切ってはいるものの、
現場が決まって
「良かったネ」
という言葉は全く出て来なかった。

ぶら下って来た仕事に「エイッ!」と元気良く飛び付けない分だけ、意欲が足りない
(湧かない)のも単身赴任がチラついているからかも知れない。

まア〈海外へ転勤だ〉から思えばまだましかァと考え、一件落着。
現場が遠隔地というだけで、手配するものの動き方も変って来る。 
これからまた、一から物を築くというのに、一にたどりつく前迄になにやら疲労感を感じ
そうである。 
 もう朝から頭はパニック状態であり、ドッカーンと爆発している。 

「エーイッ!何とかなるさ、何とかするさ
と背伸びをして、大きく息を吸って、さァこれからだ。

                ――――――――― 《現 場 下 見》

先日、現場が決定した後、まず第一に現状がどうなっているのかを営業部に聞いてみた。

設計図をボンと出されたものの、現在は木造2階建てを数軒解体して、基礎迄撤去して
から7階建てのZビルを創るという事だった。

「それで今は――――どんな状態なの?」
解体は別途業者(当社とは関係ない)が解体中でもう直(じき)終る頃だと云う。

昔、Aマンションの時は(つり堀)の撤去後マンションを建てたし、Kビルは盛土の撤去
をしてからの工事であったけれども、今回も又、条件としては何もない〈サラ地〉ではない
事は確かだ。 

(とにかく工事計画をするにしても、現場を見てから判断すべき事だから、まずは現地確認
をしてからだ・・・)

現場のE市に向かって高速道路を走っている。
今朝6時に家を出て、もう8時を廻っているのにまだE市に入れない。
(遠いなァ、単身赴任は決定だなァ・・・) 

9時少し前に解体中の現場に到着し、他人事(ひとごと)の様な顔をして下見を行なって
いる。

  敷地はかなリ有る(広い)様だが、解体中とは言え飛散防止のシートを部分的にしてある
だけで、近隣へ舞い上がっている粉塵にはゴメンナサイで済ましているかの如く、堂々と
ブッ壊している姿にボーゼンとする私は、気が小さいのであろう。 

(今日の時点では俺には関係ない事だから・・・) 
とも行かず、複雑な心境でたたずんでしまった。

それにしても市街地の住宅街にマンションを建てる工事は多々あるものの、敷地が狭く
て周辺道路が狭いのはいかんともしがたいものだ。 

資材搬入のトラックも10㌧車はまず無理だろうと、計画時から要注意である。
10㌧車が現場に到着してその荷物を取り込む間に、後続の車は何分待たされる事か・・・
4㌧車で搬入する事を徹底する様に通知したとしても、レッカー車・生コン車・生コン
ポンプ車の作業時は道路使用許可を申請するしかない。 

またまた警察に出向く事が幾度となく出て来ると思うが、路上駐車の苦情、駐車禁止の
取締り等でも呼び出されるかも知れない。 

敷地とその周辺を見渡しながら、早急に警察署へ工事着手前としての挨拶に出向く事に
しようと決めた。

そうそう、アパートを捜して賃貸契約の稟議(りんぎ)を申請せねば・・・とN駅前の
不動産屋さんに飛び込んだ。 

「お仕事で単身ですか・・・この辺りは1DKは無いからねえ―――3LDKでN町に
築後2年のアパートが半年前から空いていますが、如何ですか?・・・」 

N町がどっちに向いているやら分からないが、現場の住所を告げるとそんなに離れては
いない所だった。

台所は不要だが自炊と言うよりお湯くらいは沸かせて、インスタントにせよラーメンを
作ったり・コーヒー等を煎れる事もあろう。
配属員によって寝泊りする準備(共同生活)も必要である。

建物や室内を見る迄も無く、借りるつもりで契約用の書類を頂き、後は支店で決裁を
上申する様に、事務担当の山下君に手続きをお願いした。

それにしてもE市は遠い。冬は雪に悩まされる所だ。 
(まァここで来春の桜が散る頃迄仕事が有るのだから、気長に考えよう・・・。何から
手を付けて行けば良いのやら・・・) 
とアレコレ思案しながら、再び高速道路をひた走りして、支店に帰った。

本日の走行距離187㎞。通勤は不可能ではないが、単身赴任の覚悟をする事となった。

                           (続く)

 


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