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白鳥のブログ - 日々の世界を徒然と

狼と羊皮紙 第5巻 感想: まさかシリーズの原点である「月を狩る熊」の話がこんな世界を揺るがす話に発展するとは!?

2020-08-10 09:52:02 | 狼と香辛料/羊皮紙
『狼と香辛料』の延長線上で、なんとなく惰性で読んできたコルとミューリの物語。

正直なところ、4巻まではとりたてて事件としてもキャラとしても面白いところがなく、やっぱり惰性だなぁ、でもまぁ、世界観はそんなに嫌いじゃないんだよなぁ、という感じで読んでたくらい。

多分、『狼と香辛料』の面白さって、ホロとロレンスの間で交わされる洒脱な会話と、あとは最後の方で問題になった、人ならざるものと人とのあいだの愛情はいかなるものか、というテーマにあったと思っていて。

なので、そもそもコルとミューリという「お子様」のコンビでは、ただやいのやいのしてるだけで、会話に何の含みもなくてつまらないなぁと感じていた。

あと、コルが最初から聖職者だからコルの方から恋愛感情は起こりにくいよな、そもそも恩人夫妻の、年の離れた娘だからなぁ、とも感じていた。

要するに、設定に無理があった。

だいたい、4巻でちょっと面白いかも、と思えたのも、ロレンスの商人としてライバルだったエーブが再登場したからで。

なんだ、結局、旧シリーズのキャラに頼るのか?情けないなぁ、と思っていた。

そうしたら、今度は黄金羊の化身のハスキンズが登場、ということで、あー、やっぱり!、って思ったのだけど・・・


いやー、でもちょっと、ひっくり返してきたね。

その中心にあるのが「月を狩る熊」の逸話。

例の、ホロのいた村を滅ぼした「月を狩る熊」の話。

黄金羊のハスキンズにしても対処に苦慮した「月を狩る熊」の話。

要するに、「狼と香辛料」から続くホロやミューリたちの住む世界の原点であり、起源となった「月を狩る熊」の秘密に切り込んでいくのが、この「狼と羊皮紙」のメインテーマになった。

その上で、これはまだミューリの仮説でしかないけれど、その「月を狩る熊」が作ったのが、この世界の信仰の中心である「教会」だったという話。

つまり、「月を狩る熊」こそが「神」であるという仮説。

で、仮にそれが正しいとすると、コルが求める信仰や、あるいは彼の聖職者という立場もゆるぎかねなくなるわけで、となると、もしかしたら、最終的にコルは聖職者の立場を捨てて、ただ人になり、ミューリと結ばれる、という展開もあるのかもしれない、ということ。

少なくとも、ここまでのところ、コルはいわば宗教改革者として教会の不正や腐敗を正そうとする立場を取り、それが一定の成果を挙げた結果「薄明の枢機卿」なんて二つ名まで得ていたのだから、その流れとも矛盾しない。

ただ、そのような改革の果てに、聖職者も妻帯者になれるような「信仰」が待っているのかもしれない。

その意味で「神=月を狩る熊」仮説は、この世界の成立の前提からして覆す。


その上で、もちろん「月を狩る熊」は、ホロにとってはいわば仇敵であって、その存在の核心に迫りたいと思うもの。

実は『狼と香辛料』の新作で、ホロとロレンスも、コルとミューリに後を追う形で旅にでているので、このミューリの仮説をホロが知ったなら、ホロはホロの理屈で、ミューリたちと同じゴールを目指そうとするかもしれない。

そういう意味では、今回、ミューリが「月を狩る熊」仮説に行き当たるアシストをしたのがハスキンズだった、というのもあとあと、効いてきそう。

ホロとロレンスが、旧知の仲のハスキンズを訪ねていった時に、この話題が出るのは必至だから。


・・・ということで、シリーズの原点たる「月を狩る熊」のテーマを全面展開させてきたこの第5巻は、物語の転回点だった。

そういう意味では、あいまいだったコルとミューリの関係も、さしあたって「聖職としての主君と騎士」の関係にしたのも上手いかも。

『狼と香辛料』は、中世の世界を商人であるロレンスの目から見る、ということで、そこには、いわゆる中世騎士物語とは異なる市井の視点があって、あと、経済の視点があって、そこが魅力だったのだけど、その魅力がコルでは再現できなかった。

一応、エーブを再登場させることで、商人の悪巧み、というプロットは復活はしたのだけど、とはいえ、その中心にコルがなることはない。

けれども、教会の刷新という点から、より大きな「悪巧み」をするポジションにコルはいるわけで、今回、それがはっきりした。

幸い、コルの人徳で、エーブやハスキンズという、全シリーズの重鎮も協力者たりえるわけで。

そこで、ミューリを、そうした教会改革者を守護する「騎士」と位置づけたのは、苦しくはあるけれど、二人の曖昧な関係を清算するものとしてうまかったと思う。


ということで、俄然、『狼と羊皮紙』、面白くなってきたw

この勢いで「月を狩る熊」に迫るストーリーを是非とも展開してほしいな。

多分、最後は、教会の頂点たる教皇様のような存在に謁見することになるのだろうけど、その教皇の正体が、実は「月を狩る熊」本人であったりするのだろうな。

で、彼を支える枢機卿たちもまた、熊の化身。


あるいは、「月を狩る熊」たちは、教会運営は信頼の置ける「化身」の一族に委ねて、新天地に「化身」の住む楽園を作っているのかもしれない。

まぁ、妖精郷みたいなものだけど、俄然、ファンタジーっぽいじゃん!

そもそも「熊」って、キリスト教が来る前の、ドイツとか北欧のゲルマン民族の神様、というか王様として崇められていた存在だからね。

なので、そのゲルマンの土着信仰の頂点である熊が、実はキリスト教を作った、というのは、歴史改変としても結構皮肉が効いてて面白いなぁ、と思うしw

ということで、俄然、次巻が気になってきたw

いやー、ビックリだよ、惰性でも読み続けてみるものだねぇw

一つ気がかりがあるとすれば、こういう純然たるファンタジーっぽい話は、なろう全盛の今だと、なかなか手にとってもらないかも、ってことかなぁ。

実際、『狼と香辛料』は相当稀有な存在だったからなぁ。

打ち切られない程度には多くの人に読まれることを期待したいところ。
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