Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

あのムーアが、まさかの美少女に!(笑)

2009年12月19日 | アラン・ムーア関連
大森望氏のTwitterを読んでいて、衝撃のつぶやきを発見。
なにがどうなったのかよくわかんないけど、冬コミでムーアの同人誌を出す方がいるそうです。

作者の濱元隆輔(RyuMoto)氏はプロ作家で『ぷちえう゛ぁ』などを手がけてた人。
本のタイトルは『ムーアはご機嫌斜め』、表紙はこんなんなるみたい

うわぁ、この不機嫌な三白眼にもしゃもしゃの髪、そして悪趣味な指のリングに
だらーとしたタンクトップは、確かにムーアっぽい。
(意外にマツ毛が長くて目がパッチリしてるんですよね、ムーア本人も)
しかも頭のてっぺんには太めのアホ毛まで装備してるという最恐っぷり。

でもさすがに「美少女キャラ」ってのはアリなのか?という疑問はありますが、
本物のムーア先生も『トップ10』でかなーりやりたい放題カマしていたので、
これに文句を言われることはないでしょう、たぶん(^^;。
少なくとも例の『ウォッチメン・ベイビーズ』よりは、中身に愛がありそうだし(笑)。

あと濱元氏本人がこのイラストにつけたコメントに
「ゲストでムーアちゃんを描いてくださる方大募集締め切りは21日まで(`ω´) 」
とあるので、そちらがどうなるのかも気になります。
これに手を挙げる人は、相当なムーアファンであって欲しいもの。
愛のない描き手にムーアをイジられるのは、ファンとして耐え難いですからね。

うーむ、久々にコミケ行くかな・・・でもこういうのって同好の士が集まっちゃうワリに
部数はめっちゃ少ないんだよな、きっと。
もし行くとしても午後になっちゃう私には、たぶん入手はムリだ。
ということで、いまから通販か書店委託を切望します。

そしてもしこれが売れたら、今後新たに出るムーア本の版元さんには
「購入特典描きおろしムーアちゃんグッズ」をご検討いただきたい(^^;。
さらに特典のつく本が『Lost Girls』だったりしたら、もう最高でしょう。

編集さんががんばってるみすず書房あたりで、これを実現してくれないだろうか。
(といきなり言われても、あちらさんも困るでしょうけどね・・・。)

●ムーア本続報(12/21)
表紙のカラー版本編の冒頭らしきものが公表されてます。

ロッカーの中のグライコン神がイカしてるけど、そもそもこのデザインでいいのだろうか・・・。
と思って海外のWikipediaで探してみたら、正解なのが判明。濱元さんさすがだ!
そのワリにイギリスの学校のデザインが完全に適当なのが、またご愛嬌ですが。

●さらに続報(12/22)
どうやらネット経由でゲイマンに漏れたらしい・・・。
これでムーア先生の耳に入るのも時間の問題かな(^^;。

ここまできたら、続編ではボーイフレンドの美少年・ゲイマン君とかも
出しちゃえばいいじゃん!なーんて。(無責任な発言)

しかし“ゲイマン”ていろいろ想像させる名前だ・・・むしろBL向きなのか?
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公式ブログに『フロム・ヘル』対談のレポートが掲載されました

2009年11月03日 | アラン・ムーア関連
すでに『フロム・ヘル』にハマってる方にはお知らせするまでもないと思いますが、
みすず書房の公式ブログ《アラン・ムーア『フロム・ヘル』 Infomation》
ジュンク堂新宿店での対談をまとめた記事が掲載されました。

《アラン・ムーア『フロム・ヘル』 Infomation 柳下さん×宇多丸さんの刊行記念イベント報告》

ブログ記事としては異例のボリュームに、これを書いた方の苦労が偲ばれます。

記事内には「一部」と書いてありますが、『フロム・ヘル』本編に関する部分については
この前半部分のレポートにほぼ全部が網羅されています。
進行や発言内容もそのまま記録しているようなので、たぶん録音したものを聞きながら
正確に書き起こしたのでしょう。
会場に行けなかった方はもちろん、内容がうろ覚えの私にもありがたい労作でした。

しかもブログのほうには、対談の内容を補完する形で本編のカットなども加えられていて
ある意味では会場で聞くよりわかりやすい内容になってるという大サービス(笑)。
記事をまとめた編集担当さんのがんばりにも、並々ならぬ『フロム・ヘル』への思い入れが
ひしひしと感じられます。
当方の記事も含め、それぞれ聞き手の主観が加わった他のレポートと読み比べてみると、
その違いから何か新しい発見があるかも…?

そして記事の最後に置かれた読者への呼びかけは、ある意味で一番刺激的な部分にも思えます。
ここらへんに編集者としての本音というか、作品を手にした人への真摯な願いといったものが
生々しく透けて見える気がしたものですから。
担当さんがこれだけ作品に入れ込んでるんだから、今後もブログ上やその他いろんなところで
いろいろと面白いことをやってくれるのでは・・・と、つい勝手に期待したりして。

もちろん我々ムーアファンが最も期待しているのは、新たなムーア作品の翻訳。
ということで、みすず書房さんにはぜひ『Lost Girls』の出版に挑んで欲しいものです。
あれは内容といい作画といい、もはやコミックというよりは“文学・芸術”の表現形式に
より近づいているみたいなので、いわゆるアメコミ系の版元から出すのは難しそうだし。
難しいとは思いますが、編集さんの熱意でなんとか企画だけでも出して欲しいですね。
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『フロム・ヘル』トークショーatジュンク堂新宿店

2009年10月25日 | アラン・ムーア関連
『フロム・ヘル』読了の興奮も冷めやらぬ10月23日、ジュンク堂書店新宿店で行われた
『コミックで世界を解く-魔術師アラン・ムーアの世界』に行ってまいりました。

内容はムーア&『フロム・ヘル』を語るトークイベント。
特殊翻訳家の柳下毅一郎氏とライムスターの宇多丸氏がムーアの世界と『フロム・ヘル』を
語りつくすというものです。

会場の喫茶スペースは様々なタイプの来場者で満員御礼。
Promethiaの話をしている一群がいるかと思えば、その後方ではトップ10の番外編について
情報交換が行われているという濃い会場へ、いよいよ柳下&宇多丸の両名が入場してきました。

柳下氏はいろんなイベントで見慣れてるのですが、初めて見る宇多丸氏はすごく好印象。
コワモテな外見とは裏腹にエレガントな言葉遣い、柳下氏のサポートに徹する事も厭わない姿勢、
それでいて的確かつ時機を得た質問&ツッコミと、知性派ラッパーにして鋭敏な評論家としての姿を
深く印象付けてくれました。
個人的には、新たな名コンビ誕生か?とも思ったりして。

まず参加者に配られたのは、柳下トークの名物ともいえるおまけレジュメ。
今回は作画のエディ・キャンベルが自身のブログに掲載した、ムーアにより与えられたシノプシスを
翻訳したリーフレット(第5章の序盤にあたる部分)が用意されました。
これを読みながら、PCからの映像による該当シーンとの対比について柳下氏が説明を加え
宇多丸氏がそれに質問を返していくというやりとりで、トークの序盤戦が始まりました。

まずはヒトラーの父母によるSEXシーン。ここではムーアの指示に不足した部分をキャンベルが補い、
それが実際の作品になったことが説明されます。
一方でシノプシスを読むと、ムーアが視点の位置や光源の配置、室内の様子に至るまでを
細かく指示していたこともわかります。
V様やウォッチメンの頃から有名だったムーアの“指示癖”、作画家に対する偏執狂的な
コントロールぶりが、この資料によって証明されました。

このコントロール癖に応える作画家の苦労たるや、想像に難くありません。
ムーアの要求に応え続けるのは、画を描くほうにとっても一苦労じゃないかと思ってましたが、
どうやらその程度では済まなかったみたい。
柳下氏によると、ムーアと『Big Numbers』で組んだビル・シェンケヴィッチ(ニュー・ミュータンツや
エレクトラなどを手がけた売れっ子作画家)に至っては、ムーアによる執拗な指示によって
精神のバランスを崩してしまい、結局は作品そのものが未完となってしまったそうです。

『フロム・ヘル』のコマ割りは原則として1p9分割ですが、これは動きを見せたり
特定のコマを強調しようとする日本的なマンガの作法とは別モノであり、全てのコマに
同等の意味と役割を持たせようという考えに基づいているようです。
(わたしはてっきり、コマ割りで魔方陣をつくろうとしてるのかと思ってました。)
また作中でガルが語る時空間の認識については、ヒントンの著書で実際に書かれており
彼の『第4の次元とは何か?』は当時結構な評判を呼んだとか、ムーアがネタ本にした
『切り裂きジャック最終結論』は相当なクズ本だけど、そこから『フロム・ヘル』という傑作をひねり出したのは
ムーアの功績であるとか、作品を深く知る上で興味深い情報がぽんぽん飛び出してました。

ちなみに第14章の謎については、宇多丸氏の求めに応じて柳下氏による見解が示されましたが、
その際に序文を引用しながら、ムーアの「優しさ」について語っていたところが、強く心に残りました。

やがて話は柳下氏による「聖地巡礼」、ホワイトチャペル連続殺人ゆかりの地を訪ねた
写真つきレポートになりました。
今も実在する酒場「テン・ベルズ」、犯行現場付近に貼られていた謎の萌えステッカー
(でも内容は反イスラムキャンペーンという怪しいシロモノ)、そして全ての鍵となる
ホークスムアの教会建築など、レア映像の数々に場内は大興奮でした。
(これらの写真は、柳下氏のブログ「映画評論家緊張日記」経由でも見られます。)

続いて柳下氏によるムーアコレクションのお披露目。
Lost GirlsやらPrometheaやらMiraclemanやら、ムーアファン垂涎の品々が続々と登場し、
さらにムーアのサイン入り『V for Vendetta』のじゃんけんプレゼントも行われました。
(残念ながら私は一発目で負けましたが・・・。)
どの作品も邦訳が望まれる傑作ばかりと見受けましたが、中でも特に凄いと思ったのは
『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』の番外編にあたる第3作、
The Black Dossierの異常なまでに凝りまくった造本ですね。
書簡の断片やら3D印刷(とそれを見るための3Dメガネ)までを綴じあわせたあの本は
確かに日本では出せそうもありません。
せめてトップ10の番外編であるフォーティナイナーズとスマックスくらいは、なんとか
邦訳されて欲しいものですが・・・。

そしてこれら以上にレアかもしれないのが、その後に流されたアニメ『シンプソンズ』の
日本未放映エピソードに柳下氏が字幕をつけたバージョン。
この回ではムーアが自分自身の役で声の出演を果たしており、さらに低音の渋い歌声まで
聞かせてくれるというサービスぶりです。

こんな茶目っ気とサービス精神のあるムーア先生なら、うまく頼めば来日してくれるかも。
みすず書房でもヴィレッジブックスでも小学館集英社プロでもいいから、ぜひムーアを
日本に招いていただきたい!と切に願ってます。

それにしても、『ウォッチメン』に乗っかって出版社が勝手に作ったと思われる番外編
『ウォッチメン・ベイビーズのVフォーバケーション』をファンから見せられたムーア(と会場の我々)の
ガッカリ感たるや、もはや言葉では表現できません(笑)。



なんて最低な商売・・・しかしこれを出すほうもヒドいけど、買うほうもヒドいよなぁ。
でもこれがアメコミに限らず、出版業界における現実の姿なのですが。
それを実際にこんな思惑の中で翻弄され続けてきたムーアに引っ掛けてくるあたり
シンプソンズ恐るべし!という気もしますけどね。
ひょっとして会場で話が出ていたように、ムーア自身が脚本まで書いてたりして・・・!
「絶望した!商業主義と人気取りのために何でもやろうとするアメコミ界に絶望した!」

・・・これではムーア先生というより、むしろ絶望先生になっちゃいますか(^^;。
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切り裂きジャックで世界を解く-『フロム・ヘル』読了

2009年10月22日 | アラン・ムーア関連
“象徴には力があるのだ、ネトリー・・・・・・おまえの胃袋をもひっくり返す力がな・・・・・・
 ・・・・・・あるいはこの星に住まう者半分を奴隷にする力が。”
(上巻第四章23p ガル博士の台詞より)



アラン・ムーア作/エディ・キャンベル画『フロム・ヘル』を読了。

これまで『ウォッチメン』こそアラン・ムーアの頂点と思ってたけど、その認識は
本書によって書き換えられてしまいました。

『ウォッチメン』がある意味で“究極の正義とは何か?”を考察した作品とするなら、
『フロム・ヘル』のほうは“究極の悪とは何か?”を追求した作品とも言えるでしょう。
どっちが上かということにさほど意味はないけれど、少なくとも『ウォッチメン』にガツンと
打ちのめされた人なら、『フロム・ヘル』に失望させられることはないと思います。
ただし語り口の重層性や世界観の複雑さ、そして舞台の馴染みのなさは前者以上。
読者は自らが物語を解剖するかのように作品の中へと分け入り、目指すお宝となる
物語のキモを掴み取らなくてはなりません。

実際はいくつもの登場人物の視点が絡み合う複雑な物語なのですが、本作の主題と
なっている「ホワイトチャペル連続殺人」に沿って物語を要約すると、こんな感じになります。

“一人の王子の軽はずみな《お遊び》が、母である英国女王ヴィクトリアの介入を招いた。
 彼女の意を受けた英国フリーメイソンのメンバーである王室付き医師、サー・ウィリアム・ガルは、
 闇夜にまぎれて王子の過ちを知る娼婦たちを次々と殺していく。

 しかしその裏には、ガル博士のみが理解できる異様な論理に基づいた計画があった。
 古代の秘儀に尋常ならぬ関心を持ちつつ、メーソンの儀式すら形骸として軽んじる
 ガル博士は、今回の殺人を利用して大いなる魔術を企んでいたのである。
 
 魔都ロンドンを巨大な祭壇として行われたこの魔術の狙いこそ、“この地に刻みこまれた
 旧き女性原理の力と記憶を抑えこみ、女権的母系社会から男たちが奪い取った権力を
 未来に渡って維持し続ける”というものであった。
 ガル博士はこれによって“社会の進歩と理性を守り、原初的な力の復活と人類の堕落を
 防ぐことができる”と考えたのである。

 儀式的殺人と様々な儀礼を駆使した象徴操作に基づき、ガル博士の魔術は完遂される。
 古代から存在する神聖な職業である娼婦たちは、その生贄として最もふさわしい存在であると
 考えられたのだ。
 そして猟奇的かつ外科的に正確な手法で殺された女性が発見された瞬間、この世界に
 「切り裂きジャック」と呼ばれることになる“恐怖と悪の英雄”が産み落とされた。
 
 新たなる伝説の出現に混乱し興奮する人々を尻目に、ガルの計画は着々と進行していく。
 やがて彼が5番目の犠牲者を手に掛け、儀式的かつ科学的な手順で解剖を進めていくと、
 その眼前にこれまで見たこともない光景が出現するのであった・・・。”

どう考えても狂人の誇大妄想である異常な物語なんだけど、それを持てる限りの知識と
強い信念によって正当化していくガル博士の姿は、異様なまでの冷静さと使命感に溢れ、
ある種の高貴さや凛々しさすら感じさせます。
この気高さと強さ、そして薀蓄たっぷりの語り口によって、読者は彼の思考に翻弄され、
いつしかその言葉を真実として解釈するようになってしまうのです。

多重の網目によって観衆を幻惑しその心を捉えてしまうという手腕こそ、ある意味では
本作の持つ魔力だと言えるでしょう。
そしてこれを成し遂げた『フロム・ヘル』という作品自体が、作者アラン・ムーアにより
構築され、エディ・キャンベルの画によって実践された大いなる魔術であるとも思えます。

その一方、ムーア自らがガルの魔術を“完全な作り物”として指摘していることについても
きちんと触れておくべきでしょう。
作中でガルが最初の殺人を犯す夜、海を超えたオーストリアでは一組の夫婦が夜の営みに
精を出す様子が描かれているのですが、この時に懐胎して翌年の4月に生まれる赤子こそ、
やがて20世紀最大の殺人者にして最も悪名高きトリックスターとなるアドルフ・ヒトラーです。



これは切り裂きジャックとヒトラーの誕生を重ね合わせることによって、時間と空間を超えた
悪の連続性を示す試みなのですが、裏を返せばヒトラーの犯した罪を思い起こさせることで、
ガルの詭弁性とそれに踊らされることの愚かさを指摘していると読めなくもありません。
このように、虚構と真実が互いを飲み込む入れ子構造として全体を組み上げているところが
『フロム・ヘル』という作品における最大の特徴であり、ある意味では本書に仕掛けられた
最大のトリックであるとも言えそうです。

嘘が真実を語り、真実が嘘を呼び込む。それらのせめぎあいと重なり合いによって、
我々が知覚している“世界”の姿が形成されているというのが、全ての真相なのでしょう。
そんな世界のあり方を「切り裂きジャック事件」という“特異現象”を通じて暴き出し、さらに
グラフィックノべルという形式によって再構築して見せた『フロム・ヘル』という作品について、
訳者の柳下毅一郎氏が「アラン・ムーアはコミックで世界を解いて見せた」と評したのは、
実に的を射た表現だったと思います。

そして本書における最大の謎である、第14章の23pについて。
これについては作中の伏線とムーアによる補遺の中で、ほとんど答えが出されていると思います。
ただしメアリー・ケリーが赤毛のアイルランド出身者であること、彼女にも何らかの
予知めいた力が見られることなどから、彼女自身が“ガルの最も恐れていた”とされる
旧き魔女たちの血を受け継ぐ者である可能性についても、一応は指摘しておくべきでしょう。
もしそうだとすれば、ガルが企てた呪術は最後に大きな失態を犯したことになります。

さらに言うなら、ムーアは精緻に組み立てられた『フロム・ヘル』という作品によって、
「作り事を真実にする」魔術を実践し、それによって“もう一つの現実”を構築した上で、
その中で切り裂きジャック自身をも出し抜いて見せたのではないでしょうか。
殺人事件の過程を緻密に検証していく一方で、不可知論を逆手にとって事件そのものを
無意味化させるという離れ業は、フィクションだからこそ可能となる魔術でしょう。

“わたしは全部でっちあげた。でも、そいつは全部本当になった。
 そこだよ、可笑しいのは。”
(上巻プロローグ5p 心霊術師リーズの台詞より)

アラン・ムーアは世界を解き、さらにそれを書き換えようとしたのではないか。
ホワイトチャペル連続殺人の犠牲者たちに捧げられた冒頭の献辞と『フロム・ヘル』の物語を
重ね合わせて考えるとき、私にはそう思えてなりません。

『ウォッチメン』を精密極まりない大時計とすれば、『フロム・ヘル』はその大時計をも
内包する、巨大な構築物に例えられそうです。
“切り裂きジャックの出現が、結局はヒトラーの誕生と第二次世界大戦を招いた”とすれば、
その後に続くアメリカの繁栄と冷戦の時代も、結局「ジャックの建てた家」なわけですし、
その時代を描いた『ウォッチメン』も、やはりジャックの落とし子になるわけですから。

華麗さや派手さを抑えつつ、絶妙なバランスでしっかりと立ち上がった物語の尖塔こそ、
本書『フロム・ヘル』の姿です。
だから石の一つ、柱の一本ばかりを見ることなかれ。塔の高さと影の大きさを知ってこそ、
はじめて各部の石積みの精緻さを理解できるのですから。

そういえば例えだけでなく『フロム・ヘル』にはロンドンの建築物がいくつも登場し、
作中において極めて重要な意味を与えられています。
殺人評論家にして東大工学部建築学科の出身である柳下氏は、本書にとってまさに
最高の翻訳者であったと言えるでしょう。
巻末のあとがきも作者ムーアを知る上で極めて重要な資料であり、作品に対する
的確な批評ともなっています。

・・・他にも書きたいことが山ほどあるんだけど、うまくまとまんないなぁ。
なにしろいろんなこと考えさせられすぎ。あれはあーじゃないかこーじゃないかと
細かいとこまで思い返すと、もうキリがありません。
(でもそれがメチャクチャ楽しいんですが。)

たとえば上巻最後のコマでジョーとメアリーの手の形がメーソンのシンボルを描いており
その後の運命を暗示してるとか、終盤で登場するガルの頭部がギュスターヴ・モローによる
『出現』の洗礼者ヨハネの首によく似てるとか、気になる部分はまだまだあります。



こういった“石積み”の部分については、今後も気づき次第ツッコもうかなと思ってます。

そういえば先日の記事で取り上げたホガースの『残酷の4段階』の、しかも『残酷の報酬』が
作中で取り上げられていたのには、ちょっとビビりました。
この作品がつい先ごろまで日本で見られたとは、なんたるシンクロニシティ。

最後になりますが、装丁について少々。
これを手がけた高島由紀子氏については情報がありませんが、これまで世界中で出された
『フロム・ヘル』の中で、最も美しくかつ優れた装丁ではないかと思います。

特に下巻の装丁、作中のクライマックスを示唆するヤカンの画と血のりを思わせる配色は
読んだ後に表紙を見て「なるほど!」と膝を打つ素晴らしいもの。

アートに関心の高いムーアがこの表紙を見てどう感じるか、一度聞いてみたいものです。
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アラン・ムーアの『トップ10』Vol.1

2009年09月29日 | アラン・ムーア関連
購入後に腰を据えて読む時間がなかった『トップ10』Vol.1を、連休中に読み終えました。

“第二次世界大戦に出現して以降、芋づる式に増えたヒーローとそのライバルたちは、
 その存在が大きな社会問題と化し、戦後のベビーブームは事態をさらに悪化させた。
 やがて一般人との軋轢を避けるため、スーパーヒーローとスーパーヴィランだけが住む
 巨大都市「ネオポリス」が建設され、この街を取り締まるための警察組織が結成された。
 これが多次元警察機構第10分署、通称「トップ10」と呼ばれる組織である・・・。”

こんな設定で繰り広げられるのは、登場キャラクターすべてがユニークな超常能力を持つ
なんとも奇妙な街の警察ドラマです。

道ばたで子供が目からビームを出してアリをイジメているかと思えば、ゴジ〇の甥っ子が
ストリートギャングのボスに納まっているという、ある意味でデタラメなネオポリス社会。
その平和を守るのは核兵器装備のおばさん刑事に隠れヌーディスト、さらに同性愛者に
マザコンのカウボーイから“犬のおまわりさん”に至るまで、こちらも揃ってユニークかつ
クセのある連中ばかりです。



そんな愛すべき「トップ10」のメンバーが夫婦喧嘩から麻薬売買、そして娼婦連続殺人と
様々な事件に対峙する日々が、ドタバタギャグと小ネタ満載で綴られていくこの作品。
作画担当のジーン・ハーの絵柄も、ロイドやギボンズよりはとっつきやすいので
これまでのムーア作品よりはかなり読みやすくなってると思います。

さて、変人ぞろいの同僚たちに比べると、ヒロインのロビン・スリンガー刑事(トイボックス)は
“手製の玩具を手足のように操れる”という能力面も含めて、結構フツーな感じの娘さん。
(といっても見た目は完全にパンクっ娘ですが、周囲があまりにも個性的なので・・・。)

でもその普通さこそ彼女の個性、そして普通人の我々が『トップ10』を読んだときに
一番共感しやすいキャラでもあるわけですね。
こういうところにも、たぶんムーアなりの計算が十分に働いているハズです。

とはいえ、とっつきやすいだけでは終わらないのがムーア先生。
複数のエピソードが同時進行で語られつつ、やがて繋がりを見せてくるという構成の冴え、
暴力と皮肉が巧みにブレンドされた作風、そして各コマのなかに描き込まれた圧倒的な
情報量は、この作者ならではの持ち味といえるでしょう。
(ムーアは全ての作画について、綿密な指示をすることで知られてます。)

ここでひとつ、我が家を荒らすスーパーマウスに唯一法律で許可された駆除法というのが
スーパーキャットの導入だったという小エピソードを例にしてみましょう。

これって単なるバカ話みたいですが、役所の決めたルールって確かに融通が利かないし・・・
などと思い返してみれば、この話も意外とリアルで生々しいネタに思えてきます。
そう考えると、実はネオポリスばかりがヘンな場所とは言えないのかも・・・?

そしてこれについては、ネオポリスの超人的な市民たちにもあてはまると思います。

たとえ超能力を持っていたとしても、まわりの連中にも同じような能力があったならば
それは宗教や思想、人種や性別と同じ「個性」のひとつにすぎません。
大きく誇張されてはいるけれど、ここに描かれているのは毎日を懸命に生きている
我々と変わらない「人間たち」の姿なのです。

本書の巻頭に収録されている、通常人のフリーライターであるアラン・ムーア(!)が
トップ10を取材して書いたという記事「押し止める力:第10分署と超・社会管理」には、
これを的確に表現した一文が載っています。

「だが、彼らを羨む事はないだろう。それでなくても人生は過酷なのだ。
 あなたがどんなケープを纏っていようとも。」

ムーアはこのヘンテコな街をおもしろおかしく描きつつ、その裏でこれまでと変わりなく
「人間(らしさ)とはなにか」という根源的な問いを発し続けているのでしょう。
スーパーパワーと引き換えにネオポリスに縛られ、様々な制約の下で生きる人々は
かつて『Vフォー・ヴェンデッタ』のラークヒル収容所で命を落としたマイノリティたちが
作品の枠を超えて転生した姿なのかもしれません。

ちなみにVol.1で私が一番好きな話は、世界の神々が集うバーで起きた“殺神”事件。
とにかくバカバカしい話なのですが、これがまるっきり北欧神話のエピソードの再現なのが
笑うに笑えないところなんですよ。
しかもこの神話が某世界的宗教の原型とくれば、ムーアの矛先が結局どこに向いてるかは
自然にわかるというもので・・・この傍若無人な皮肉屋っぷりがステキすぎる(笑)。

そして10月後半には、エピソード完結編となる『トップ10 Vol.2』が発売されます。
殺された麻薬の運び屋が隠した放射性物質、取調べ中に自殺したネオポリス創設者の謎、
そして街を騒がす超能力お触り魔(!)といった事件は、どんな解決を迎えるのでしょうか?

さらに超大作『フロム・ヘル』も発売と、来月もムーア関連から目が離せません。
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ウォッチメン ロールシャッハBOX (Amazon.co.jp限定)

2009年09月13日 | アラン・ムーア関連
ウォッチメン ロールシャッハBOXについて、写真を追加しました。


透明ケースから出すと、こんな感じ。
顔の部分は麻布のような生地を貼りこんだもの。帽子のリボンはサテンかな?

映画での姿に比べるとやや寸詰まりにも見えますが、デザインそのものは
Amazonの見本写真よりもカッコよくなった気がします。
このバランスは、むしろ原作のロールシャッハに近いかも。

ひっくり返すと、DVDを入れるケースがくっついてます。

しかしこの部分は、100円ショップでも売らないほどのお粗末なシロモノ。


ふたと本体部分の両面に1枚ずつ、計2枚のディスクが収まる仕様ですが、
これにDVDを入れておくといきなりふたが開いて、ディスクが脱落したり
互いにぶつかって傷がついたりしそうです。

というわけで、実用品としてはちょっとオススメできません。
DVDは別のパッケージに入っているので、こちらはロールシャッハファンが
壁にかけて眺めるというのが、実は一番正しい使い方だと思います(^^;。
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《『フロム・ヘル』トーク》予約受付終了

2009年09月11日 | アラン・ムーア関連
公式ブログによると、10/23(金)にジュンク堂書店新宿店で行われる
トークイベント『コミックで世界を解く─魔術師アラン・ムーアの世界』は
早々に予約定員に達してしまったため、受付を終了したとのことです。
キャンセル待ちを受け付ける場合は、改めて告知するとのこと。
(なお、図書カードつきの原作予約キャンペーンはまだ継続中です。)

その代わり、というわけではないですが、ライムスター宇多丸がmyspaceで
『ウォッチメン』について熱く語った特集ページへのリンクが貼られてます。
映画版について辛口のスタンスを取りつつも、オープニング映像「だけ」は
手放しで絶賛するなど、評価すべきところもきちんと押さえているあたりに
レビュアーとしての力量の確かさが感じられます。

原爆投下への言及や、ラストに“イカ”(笑)が出ないことへの不満など、
原作ファンにとってはひとつひとつがうなずかされる名言ばかりなので、
ムーアファンなら絶対読むべし。公開期間は9/17までにつき、お早めに。

そして9月11日、日本でも映画『ウォッチメン』のDVD&ブルーレイソフトが
発売されました。
複数の仕様が発売される中で、私はロールシャッハの覆面型DVDケースがつく
Amazon.co.jp限定版を購入しました。


パッケージ内に一緒に入ってるのは、購入キャンペーン用の缶バッジ。

パッケージデザインは原作コミックの表紙に似せてあるのがわかります。
(逆に国内版DVDのパッケージは、そこがわかってないんですよね。)
どうせなら『ボラット』の水着のように、マスクも使用可能にしてくれれば
なおよかったんですけどね(まあ、別に着用するつもりはないですけど)。

映像ソフトは通常の2枚組版と同じなので、『黒の船』と『仮面の下に』は
収録されてませんが、こちらは中古で探すか、あるいは今後出るとウワサの
20分以上長いロングバージョンと一緒に収録されるのを待つことにします。
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『フロム・ヘル』公式ページ開設、ブログも始動

2009年09月10日 | アラン・ムーア関連
切り裂きジャックという“現象”を題材に、英国ヴィクトリア朝時代の社会と
その暗部を魔術的に描破した傑作グラフィックノベル、『フロム・ヘル』。
その刊行が、いよいよ1ヶ月後の10月初旬に迫ってまいりました。



これにあわせて、版元のみすず書房では本作専用の公式HPを開設。
作中のカットを使った力作のトレーラームービー(これがすこぶるカッコイイ)も
こことYoutubeに投入されて、いつでも見ることができるようになりました。
動画革命東京も真っ青のプロモ攻勢っぷりからも、みすず書房(の担当者)の
本気ぶりがわかるというものです。

しかも公式HPから予約(要アンケート回答)すると、先着200名に「フロム・ヘル」の
オリジナル図書カード(500円分)までつくという太っ腹。
あまり大っぴらに使いたくない図柄はさておき、ここでもみすず書房(の担当者)の
意気込みが伝わってきます。
こんなに気合を入れてムーアを売ろうとがんばってる版元は、世界中を探しても
みすず書房くらいだけじゃなかろうか。
(ただし送料210円プラス代引手数料がかかるので、額面並みのお得感があるかは
ちと微妙ですが。あくまでムーアフリーク向けアイテムかな?)

それはともかく、この公式HPの記事がなかなかの読み応えアリ。
訳者の柳下氏による寄稿は『フロム・ヘル』という作品の概要を的確にまとめ、
さらには『ウォッチメン』との関係やムーアの作家像にまで言及しています。

“ムーアの言葉を借りれば「殺人を解決するために世界そのものを解決する」のである。”
(柳下毅一郎 「アラン・ムーアは世界を解く 訳者より一言」から引用)

ここまで書かれちゃったら、やっぱり読むしかないですよねぇ。

柳下氏の文章に続く『フロム・ヘル』の作品紹介では、本作の成り立ちや
その特異性、そして物語の裏に隠された意味や読みどころまでが簡潔かつ
丁寧に示されており、期待感をさらに高めてくれます。
記事の分量こそ多くありませんが、ムーアファンなら必読モノでしょう。

そしてこの公式HPに連動して、みすず書房スタッフによる情報ブログも開設。
こちらでは『フロム・ヘル』関連の販促イベント等について、随時お知らせが
掲載されるようです。

その手始めとして、まずはこんな情報が掲載されてました。

《ムーア&『フロム・ヘル』を語るトークイベント!》

“10月23日(金)にジュンク堂新宿店で、『フロム・ヘル』訳者の柳下毅一郎さんと
ライムスターの宇多丸さんが、ムーアの世界や『フロム・ヘル』について対談する
トークイベントが催されます。

=========================================
JUNKU トークセッション
2009年10月23日(金)18:30~
A・ムーア×E・キャンベル『フロム・ヘル』日本語版(みすず書房)刊行記念

柳下毅一郎(翻訳家)× 宇多丸(ラッパー)
『コミックで世界を解く──魔術師アラン・ムーアの世界』

鬼才ムーアの傑作グラフィック・ノベル『フロム・ヘル』の日本語版刊行を記念して、
訳者であり気鋭の評論家である柳下毅一郎氏と、
アイドル、映画など何を語らせても慧眼・妙句の人として
幅広い分野から注目されているトークの達人ライムスター宇多丸氏が、
アラン・ムーア、『ウォッチメン』、そして『フロム・ヘル』の魅力について語り尽くす。

ジュンク堂さんの告知ページはこちら
http://www.junkudo.co.jp/event2.html

☆ 会場…8階喫茶にて。入場料1,000円(1ドリンクつき)
☆ 定員…40名
☆ 受付…7Fカウンターにて。電話予約承ります。

(中略)

10月23日(金)のイベントでは、ムーアや柳下さんの頭の中にある
複雑な味のスープから、達人シェフたる宇多丸さんが
旨み極上のエッセンスを取り出して、
私たちにも味見させてくれるのではと期待が高まります。
予定の合うみなさんはぜひ、このすばらしい顔合わせをお見逃しなく!”

だそうですよ。
これは『ウォッチメン』のファンにも期待できるイベントになりそうです。
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『トップ10』ついに邦訳・・・そして秋にはあの本も出る!

2009年08月04日 | アラン・ムーア関連
アラン・ムーアの代表作のひとつ『トップ10』。
その第1巻がいつのまにやら邦訳されて、もう書店に並んでいるみたいです。
さっきAmazonを見たら、あなたへのオススメ品に入っててビックリしました。
(この機能が役に立つことがあるとは思わなかった、というのもありますが。)

版元は『バットマン:ロング・ハロウィーン』と同じヴィレッジブックスで、
邦訳も同じくャスダシゲル氏が担当しているそうです。
以下、版元のホームページから商品の仕様と作品紹介を引用します。



価格 3,360円(本体価格 3,200円+税)
発行 2009/07/31 208ページ

“『ウォッチメン』のアラン・ムーアの新作がついに日本上陸!

ホームレスから大企業のCEOまで、全ての住人がスーパーパワーを備える
巨大多層都市"ネオポリス"。
そんな驚異の街の治安を維持すべく奔走する第10分署"トップ10"の面々の
奇想天外な日常を、新米婦人警官"トイボックス"の目を通して描く、
笑いと涙とパロディ満載のスーパーヒューマン・ポリス・ストーリー!

『ウォッチメン』とも『キリングジョーク』とも『V フォー・ヴェンデッタ』とも違う、
あなたの知らないアラン・ムーアがここにいる!

『トップ10』…聞き慣れないタイトルですが、内容を一口で言い表すと、
超人版『ヒル・ストリート・ブルース』。
多彩なキャラクターが目まぐるしく入り乱れ、奇想天外なストーリーが
縦横に交錯し、さらに、アメコミファンならば思わず笑ってしまう小ネタが
ここにも、あそこにも! 新感覚のムーア世界を是非ご堪能下さい!”

なんだか濃いアメコミファンじゃないとネタがわからなそうな不安もありますが、
この『トップ10』、ムーア作品では珍しいことに(明るいほうの)笑いと軽妙さで
知られてるようなので、肩ひじ張らずに読めそうです。
『ウォッチメン』や『Vフォー・ヴェンデッタ』とは違った開放的な世界の中で
ムーアの卓抜した構成と語りがどう生かされるのか、大いに期待。

ムーアといえば、『ウォッチメン』よりも先に映画化もされた代表作のひとつ
『フロム・ヘル』も、10月10日にみすず書房から発売予定です。



こちらは翻訳に日本屈指(唯一?)の特殊翻訳家にして殺人研究の第一人者、
柳下毅一郎氏を起用。これならたぶん、巻末資料にもぬかりはないでしょう(^^;。

邦訳は上下巻をあわせて600ページ、価格も約5,500円と結構な代物ですが
ムーア好き(数奇とも言う)としては、やはり買わずにはいられません。
まあこれで『犬狼伝説』限定版にまわすお金は、ほぼ出なくなりそうですが。

そして柳下氏が手がけたアメコミとくれば、なんといっても外せないのが
コミック業界の歴史を変えた傑作として『ウォッチメン』と並び称される
伝説の作品、フランク・ミラーの『バットマン:ダークナイト・リターンズ』。

その高い評価にもかかわらず、小学館プロダクション版が絶版になってからは
長らく日本語で読めなかった本書ですが、ついに小学館集英社プロダクションから
9月1日に復刊されることが決定しました!



タイトルはずばり『バットマン:ダークナイト』!!
価格は3,990円(税込)、 520ページに紙製のケース付きということですから、
たぶん新装版『ウォッチメン』と同じような造本になると思われます。

しかも今回はくだんの『ダークナイト・リターンズ』に加え、その続編である
『ダークナイト・ストライクス・アゲイン』までを、一冊に収録。
書名の『ダークナイト』は、正続あわせた完全版であることの証でもあります。
さらに価格は旧版2冊をあわせた定価より3割ほど安価と、もういいことずくめ。
(苦労して両方とも古書で入手した私としては、ちょっぴり悲しいですが(笑)。)

唯一惜しまれるのは『リターンズ』の訳者が柳下氏ではなくなったことですが、
新たな翻訳者の一人である石川裕人氏はジャイブ版『ストライクス・アゲイン』を
訳した方なので、文章の統一感などを考えればやむを得ないところでしょう。
柳下訳は今後わが屋の家宝として、大事にさせていただきます。

最後におまけ記事。
映画版『ウォッチメン』が、アメリカのDVDセールスで初登場一位を記録したようです。
さらにBDソフトの売り上げでは史上最高の滑り出しを見せたとか。
(ニュースソースはこちら、ただし英語力に自信がないので間違ってたら失礼。)

たぶん原作ファンのお布施も入ってるんじゃないかと思いますが、残念ながら
原作者のムーアは映画に対するクレジットを一切断ってるので、たぶん印税は
1ドルも入らないと思います(^^;。

そして日本でのDVDソフト発売日は、なんと9月11日。
この作品にふさわしい発売日ではありますが、その意味が持つ重さを考えると
なんとも複雑な気分です・・・。
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神よ見よ、我が業を。-映画『ウォッチメン』

2009年04月09日 | アラン・ムーア関連
映画『ウォッチメン』を見てきました。


原作の持つ複雑極まりない構造と多彩な表現法の追求はさすがに無理でしたが
映画という表現ワクの中でとことんまで忠実にコミックのシーンを再現しようとした
ザック・スナイダー監督のこだわりは、画面の隅々まで浸透してました。
特に冒頭、血のついたスマイルバッジの下を黒ずんだ血がドロドロと流れる場面は
まるでコミックの絵をそのまま動かしたみたいにソックリ。
狙った映像をモノにできて得意満面な監督の姿が、画面の向こうに見えるようです。

というか、スナイダー監督って単純に原作大好き人間なんでしょうね。
オウルシップの左目には、原作どおりの形に拭ったあとまでつけてありましたし。
映画においては何の演出にもからんでない部分なのに、この無意味な執着っぷりは
単なるファン気質にしか見えません。というかムダにガンバリすぎ。
でもそのムダっぷりが、コミックを読んだ人への秘密のサービスみたいにも感じられて
つい親近感を持っちゃうんですよねー。

ストーリー自体は原作の主要部分を効率よく集めて、うまく再構築しています。
この時間内で重要なシーンをよくこれだけ詰め込んだな、という感じですね。
しかし見方を変えれば、名場面を寄せ集めて映像化しただけという印象がなきにしもあらず。
アクションシーンはハードだしSFXも凝ってるのですが、それらがあまりにスマートすぎて
娯楽作品としてスッキリまとまりすぎちゃったかもしれません。
速い場面転換と切れ目なく続くエピソードのせいで、話の内容をじっくり考えなくても
見られてしまうというつくりも、良いんだか悪いんだか・・・。
後方の大学生集団がずっと笑いながら見ていたのには、本気でイライラさせられました。
上映時間の長さは全く気になりませんでしたが、原作を読んでない人にはわかりにくくて
話が長すぎると感じられるかも。

エピソードの細部をはしょったのはやむを得ないのですが、初代ナイトオウルの物語を
大幅にカットしてしまったのは、かなり残念。
彼の悲惨な末路を省略した事によって、物語の悲劇性がやや薄まってしまいました。
ロールシャッハ誕生のきっかけとなった実話である「キティ・ジェノヴィーズ事件」についても
一切触れていませんし、ウォッチメンの物語を広島・長崎への核攻撃とダブらせる上で
重要なアイコンとなる「ヒロシマの恋人たち」の影絵も、ほとんど取り上げられてません。
ある大きな改変が施されたクライマックスも、映画としてのまとまりは良くなったけれど
原作の最終章が見せた地獄絵図に比べれば、インパクトの面でかなり落ちると思います。

それでもこの映画を許せるのは、やはり原作への敬意と誠実さを感じ取れるからでしょう。
グラフィックノベルのプロモーションと考えれば、文句なしにデキのいい映像作品です。
中でも特に秀逸なのは、オープニングに集約された歴代ヒーローたちの歩みですね。
ウォーホルやデヴィッド・ボウイなどのポップスターと並ぶヒーローの姿と、ダラー・ビルや
シルエットたちの悲惨な姿を交互に見せることによって、アメリカの栄光と悲劇の歴史を
ヒーローたちの人生にうまく重ね合わせていると思います。

俳優さんは知らない人ばかりですが、こちらも原作キャラクターのイメージに忠実です。
全裸のDr.マンハッタンをはじめ、みんな身体を張っての大熱演。でもやっぱり一番は
細身なのに鍛え上げられたロールシャッハ役のジャッキー・アール・ヘイリーですな。
デニス・ホッパーとウィリー・ネルソンを足して2で割った後、30代に若返らせたような
なんともシブーい顔立ちに惚れました。
二代目ナイトオウルが初代ウルトラマンの黒部進に似てるのも、個人的には高ポイント。

そっくりさんでは前述のウォーホルやボウイの他に、キッシンジャーやアイアコッカなど
当時を反映した政財界の大物も登場し、時代考証にもこだわりを見せてます。
というか、これってむしろ一種の悪ノリなのかも?

バックに流れる数々の音楽も、大事な小道具です。ディランやジミヘンはもちろん、
ティアーズ・フォー・フィアーズの『Everybody Wants To Rule The World』だとか
ネーナの『99 Luftballons』、フィリップ・グラスのミニマル音楽『Pruitt-Igoe
(元は映画『コヤニスカッツィ』より。ちなみに読みは「プルーイット・アイゴー」で
「プルート・イゴエ」とは読まないみたい)なども、いいところで流されてました。
これらの曲って80年代を象徴してるだけでなく、実は『ウォッチメン』と共通する
重いテーマを扱った作品ばかり。ホントにうまい選曲です。

コミックの中身をきちんと消化して、押さえるべき部分を押さえてダイジェスト化している
映画版『ウォッチメン』。原作を読み込んだ人ほど、評価と満足度は高いと思います。
というか先にそっちを読んどかないと、多分ムリ。話の表面をなでただけで終わります。

コミック読んでダメだったら、映画はスルーかな。もしハマれたら、次に映画を見て
このシーンは入ってるとか、あの場面はカットされたのかーと心の中でツッコむのが
一番シアワセな見方だと思います。
もちろん逆パターンもアリですが、予備知識なしであの怒濤の流れについていくのは
かなりシンドイでしょうね。

映画だけで評価すればB級のハリウッド大作かもしれないけど、ウォッチメン信奉者による
純粋なファンムービーとしては、十分Aクラスに値します。
だから普通に映画が好きな人や、普通のヒーローものが好きな人にはオススメできません。
映画を見る前か後かはともかく、原作の深い闇を自ら覗き込もうという意志のある人だけに、
この作品を推奨したいと思います。
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真夜中、すべてのBlogが・・・

2009年03月28日 | アラン・ムーア関連
本日より、映画『WATCHMEN』が公開開始。
これに連動して、キャンペーン用のブログパーツが3月28日午前零時になると
大変なことになります。

エフェクトはPCの時計表示に連動して発生するので、もし見逃した場合でも
時刻を27日の23時59分くらいに設定してから、当該パーツを貼ってある
サイトで見ればOKです。
お手軽なのはこちらの、映画公式ブログですかね。
押井監督からの推薦文も載ってますが、ザック・スナイダー監督を誉めるよりも
作品そのものについてもっとコメントが欲しかったです。

gooではブログパーツ貼れないので、ウチでお見せできないのがホントに残念。
『東のエデン』のパーツも貼れないし、いろいろ不便でしょうがありません。
といって、いまさら乗り換えるのも面倒だしな~。

ところで原作コミックの増刷ですが、劇場公開に間に合ったようです。
ただいまAmazonで販売中。和書ランキング3位、英米文学で1位になってますね。
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『WATCHMEN』重版、雑誌ではムーア特集も!

2009年03月20日 | アラン・ムーア関連
Amazonのレビューに寄せられた情報だと、どうやら『WATCHMEN』の重版分が
4月上旬に書店に並ぶようです。
これにちなんで(というわけでもないけど)、アラン・ムーア関連の小ネタを。

映画評論家で翻訳家の柳下毅一郎氏のブログ『映画評論家緊張日記』によると
3/20発売の映画秘宝2009年5月号で、映画『ウォッチメン』の公開記念として、
〈『ウォッチメン』とアラン・ムーアの世界〉という特集をやるそうです。
映画のデキはともかく、V様怪人連盟フロム・ヘルなどの映像化作品も
いろいろ出ているムーアだけに、映画雑誌の記事にもしやすいのでしょうね。

「たぶん『ウォッチメン』絡みでアラン・ムーアの特集をするような媒体は
 他にあるまいと思われるので、是非ともお目通しいただきたし。」

とのことなので、そのうち大型書店まで探しに行こうと思ってます。
(映画秘宝ってややマイナーなので、近所の小さい本屋に入らないんですよ。)

さて、この時のブログ記事のタイトルが「アラン・ムーア、ラファティを剽窃する」
という、ちょっと変わったものでした。
柳下氏が読んだムーアのインタビュー本によれば、作品の締切に追われたムーアが
SF界の奇才として知られるR・A・ラファティの小説に出てきたアイデアを、無意識に
パクってしまったとか。
執筆後すぐに気づいて自主的に絶版にした、というムーアの対処も立派ですが
ネタに詰まって無意識から出てきたのが、よりによってラファティとは。
やはり鬼才は奇才を知る、ということなんですかね。

柳下氏によれば「ムーアは実はすごいSFファンなので、インタビュー読んでると
いろいろこういうネタが出てくる。」とのこと。
できればSFマガジンあたりで、そういうのをまとめて書いてくれないかなぁ。
ムーアに影響を与えた作品は『V フォー ヴェンデッタ』あたりでもわかるけど
彼の無意識にどんな本がメモリーされてるのか、すごく気になります。
柳下氏が訳したスラデックなども、かなりムーア好みだと思いますが・・・。
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今こそ読まれるべき傑作、『WATCHMEN』

2009年03月14日 | アラン・ムーア関連
復刊が待たれていたアメリカンコミック(というより、グラフィックノべル)の
大傑作『WATCHMEN』(ウォッチメン)が、ついに!復刊されました。

今回の表紙は洋書っぽく、カバーのつかないペーパーバックスタイル。
デザインはアメリカで2005年に刊行されたAbsolute Editionと同じです。



表紙のデザインだけでなく、内容についてもAbsolute Editionに準じているので
かつてメディアワークスから出ていた旧版とは細部がやや異なっています。
どこがどう変わったかは、翻訳者の一人である石川裕人氏による説明
小学館集英社プロダクションのHPにありますので、そちらでご確認ください。
なお、これに関して特に残念な変更点がひとつ。
原作者の強い意向で、今回の訳書はAbsolute Editionの忠実な再現となり、
旧版で物語を読み解く助けになった日本独自の巻末解説がついてません。

しかしご安心ください、それをフォローする好企画が登場しました!
こちらの「PLANETCOMICS.JP出張版 WATCHMEN特集サイト」がそれ。
旧版から割愛された序文や巻末解説を収録し、さらにネットの特性を活かして
関連図版等を大幅に増強、そして新たな情報も順次追加されるとか。
『WATCHMEN』を読みこむために必須のサイトとなるのは、間違いないでしょう。


さて、こちらはカバーの代わりに今回からついた、紙製の黒い収納ケースです。



旧版の読者にとって、やはりウォッチメンのシンボルカラーは黄色なので
この箱のデザインにはシンプルだけどグッとくるものがあります。

そしてこのケースにメタリック仕上げな銀色のオビが巻かれるのですが、
そこに推薦文を書いているのが、なんと岡田斗司夫氏。



「“日本のコミックは世界イチ”と浮かれるなかれ。
  とんでもない黒船がやってきた。世界一のSFコミックに戦慄した!」

この文章だけ見ると、なんだか意気込みのピントがずれてるようにも見えますが
実は岡田氏はかつて第3回手塚治虫文化賞の選考でただ一人『WATCHMEN』を、
しかも満点の5点をつけて推薦していた人。
それを知ってからこの推薦文を読むと、日本のマンガとの優劣うんぬんよりも
むしろ岡田氏の当時の無念さがうかがえるようで、なかなか感慨深いです。
(ちなみに第3回の選評得点については、今でもネット上で読むことができます。)

あらすじについては以前の記事に書いたので省略しますが、ストーリー担当の
鬼才アラン・ムーアは、スーパーヒーローたちの黄金時代とその翳りを通じて、
アメリカという国がたどってきた光と影の歴史を、見事に描きだしています。
作中に登場するスーパーヒーローたちの姿は、第二次世界大戦以降に延々と
「世界の自警団」を演じてきた、アメリカ自身の自画像でもあるのです。

現実のアメリカがベトナム戦争とウォーターゲート事件で挫折を知ったのに比べ、
『WATCHMEN』の世界では、スーパーヒーローたちがアメリカに勝利をもたらし、
おかげでニクソン大統領は歴史的な長期政権を築いています。
閉鎖的で愛国的で、他国に対し疑心暗鬼、そして強硬手段もいとわない国家。
この「もうひとつのアメリカ」の姿が、9.11以降の同国の姿に重なるんですよね。
時代設定が1985年なので、物語の背景となるソ連との冷戦や全面核戦争などは
やや時代遅れにも見えますが、一般市民の生活を覆う戦争への漠然とした不安や
それと連動する不穏な社会情勢には、むしろ今の時代との強い共通性を感じます。

ヒーローと市民、個人と国家、正義と真実、そして戦争と平和。
ヒーローコミックにとっての固定観念を問い直し、その存在意義すらも揺るがす
究極の問いを提起しつつ、人類が抱える宿業にまで斬り込む『WATCHMEN』。
そのすばらしさについて、緻密な構成、圧倒的な情報量、個性的なキャラクター、
そして驚くべきラストといった要因に分けて語ることもできるでしょう。
しかし本作品の真の凄さは、先に書いた個々の要素が組み合わさることによって
巨大な時計仕掛けのように完璧に動作する、その構築美にあると思います。
その作品名も含めて一個の総合芸術であり、ミックスドメディアであるという姿を
完璧に体現しているまれな作品こそ、この『WATCHMEN』なのです。

物語全体をスマイルバッジひとつで象徴させるのをはじめ、時計を連想させる
数々のシンボルを効果的に使うなど、「グラフィック・ノベル」の呼び名のとおり
視覚から「読ませる」演出も随所に施されているため、読み手は細かい部分も
おろそかに読み飛ばせないという、刺激的な読書体験を堪能できます。
まあ細部については2度目以降の再読で追いかけてもらうとして、初読の方には
この大作を一個の巨大なカタマリと思って、真正面から受け止めて欲しいですね。
値段も情報量も相当な物ですが、何度も読み返す値打ちのある数少ない作品です。
社会の不安が高まっている今だからこそ、多くの人に読んで欲しいと思います。

・・・と薦めておいてアレですが、Amazonでも小・集プロのHPでもただいま品切れ中。
3月末の映画公開にあわせて増刷がかかると思うので、これから買おうという方は
どこかで新刊を見かけたらお買い逃しの無いように。
ここで買っとかないと、またウン万円のプレミアがついちゃうかも知れません。

というか、そんな悲しい事態を繰り返さないためにも、出版社側は責任を持って
今度こそ絶版にしないように!
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『ウォッチメン』日本語版、ついに復刊!

2008年12月25日 | アラン・ムーア関連
メリークリスマス!ってのはさておき、年の瀬を熱くするビッグニュース到来!
これまで世界中で出版された全てのコミックの中でも、その最高峰に位置すると
評される、アラン・ムーア作、デイヴ・ギボンズ画の『ウォッチメン』日本語版が、
来年2月28日に復刊されるそうです!

最初の邦訳刊行から10年。メディアワークス版は既に絶版となり、古書価格は
2万円を下らないという状況も、ようやく解消されそう。
いくらすばらしい本でも、こんな状態では読んでもらいようがないですからね。
私も長らく復刊を希望してたので、ご祝儀でもう一冊買い足そうかと思案中。

メディアワークス版の書影は以前に載せてるので、今回はあらすじをご紹介。

・・・我々の知る世界とは異なる歴史を歩んだ、もうひとつのアメリカ。
そこではかつて、本当にスーパーヒーローたちが活躍していた。
スーパーマンのような超人的能力はないが、各々の才能と強い正義感によって
社会の悪と戦い、アメリカの秩序を守ってきたヒーローたち。
しかし時代は流れ、社会運動の高まりと共に世情は混乱。善悪の境界は崩れ、
彼らの力はいつしか、一般市民の暴動鎮圧へと向けられていた。

強大な力で超法規的な活動を行う存在に対して、冷たい視線を向け始める人々。
議会は遂にヒーロー活動を禁止する法案を可決し、多くのヒーローは活動をやめて
一般市民の中に消えていった。

1980年代に入り、ヒーローとして活動を続けている人物はわずかに3名のみ。
1人目はフットボーラーのような肉体とあくなき闘争心を持ち、政府工作員として
アメリカのベトナム戦争勝利にも貢献した男、コメディアン。
2人目は放射能事故により異様な姿と恐るべき超能力を得た、この世界における
ただ一人の「超人」である、Dr.マンハッタン。
彼らは政府のエージェントとして、あるいは冷戦下における対ソ連の切り札として
政府お抱えのヒーローという立場を保っていた。

そんな二人とは異なる存在なのが、3人目のヒーローであるロールシャッハ。
それまでもアウトロー的な活動で名を馳せてきた彼は、法律で禁じられた後も
独自にヒーロー活動を続け、社会的には犯罪者と見なされていた。

そして1985年10月の夜、一人のヒーローが何者かによって殺害される。

誰が、なぜ、どのように殺したのか?これはヒーロー狩りの始まりなのか?
かつてのヒーローたちは真相を知るため、再び動き出す。
やがて明らかになる巨大な陰謀と、ヒーローたちを待ち受ける数奇な運命。
米ソの緊張が高まり、いまや核戦争の一歩手前まで追い込まれたこの世界で、
ヒーローたちがついに見出した真相とは・・・?

自由とは、正義とは、悪とは、平和とは、そして人間とは。
『ウォッチメン』は、ヒーローたちの戦いを通じてこれらの意味を追求し、さらに
一般人と違う生き方を選ぶことの喜びと悲しみ、そして責任と挫折の重さまで
完璧に描ききっています。
これらのテーマが、今年公開された映画『ダークナイト』と共通していることは
映画を見た方ならすぐに気づくでしょう。
劇中でのバットマンの苦悩をさらに突き詰め、極限まで描写してしまったのが
この『ウォッチメン』であると言ってもよいと思います。

時に冷徹すぎると思うほどの描写には、どこか悟りにも似た無常感が漂っており、
その感触は手塚治虫の最良の作品にも通じるものがあります。
予定価格は3,750円と少々値が張るけど、読み応えは保証つき。
マンガに娯楽以上の中身を求める人にとって、本書は避けて通ることのできない
巨大な山脈だと思います。道は険しいかもしれないけど、求む挑戦者。

Amazonの出版情報によると、今回の出版元は「小学館集英社プロダクション」。
元は小学館プロダクションとして、数々の海外名作コミックを邦訳出版していた
老舗です。(その後に大半を絶版にした、という前科もあるけど。)
最近ではムーア初期の傑作『V フォー ヴェンデッタ』もここから出てますね。

ということで、ムーアつながりでBE@RBRICKの『V フォー ヴェンデッタ』。

本当はV様の記事と写真を入れ替えるべきだけど、いまさらですからね~。

お腹の柄がジョーカーみたいなコスチュームじゃなくて映画のロゴなのは
残念ですが、劇場版V様の仮面フェイスはイイ感じですよ。

V様も原作のほうが映画よりも数倍は奥が深いので、断然コミックのほうを
オススメします。ラストなんかまるっきり違ってるし。
ただしヒロインのルックスだけは、映画のほうが勝ってましたけど・・・。
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復習のためのV

2006年10月10日 | アラン・ムーア関連
『Vフォー・ヴェンデッタ』が、いつの間にかレンタル開始に。
春に映画館で見てますが、内容をおさらいしようと借りてきました。
公開日の前日が原作コミックの発売日で、当日買ってきた本を夜中に
一気読みしたのが懐かしい…というほど昔の話じゃないですけど。

映画版は原作を大筋でなぞっているものの、やはり長さと表現力の点で
多くの部分がこぼれ落ちてしまってます。
原作は複数のエピソードを並行して進めつつ、最後にはそれらが収束し
Vの狙い通りのクライマックスへと突き進んでいくという流れですが
この複雑な構成を2時間の映画で実現するのはやはり無理でした。

ヒューゴ・ウィービング演じるVの長広舌は英語がダメな私の耳にも心地よく、
Vで始まる単語を並べた自己紹介も面白いのですが、原作コミックよりも
ロマンチストなキャラに描かれている点が気になります。
人間的な甘さ、弱さという部分が強調されたせいで、Vの持つ非人間性や
悪魔的完璧主義という「超人ぶり」が薄まってしまったのは残念。
本来のVはもっと恐ろしい復讐者であり、その怒りは権力者だけでなく
彼らを進んで選び、少数者の弾圧に対し見て見ぬふりをする一般大衆にも
向けられているのです。

映画版のように民衆のパワーを安易に善とみなすシナリオは、やはり甘すぎ。
これでは原作者アラン・ムーアのお気に召さなかったのもうなずけます。
もっとハードな「V様」を見たい人は、ぜひ原作コミックをお読みいただきたい。

これを本気で映像化するなら、やっぱり連続ドラマでやるべきですね。
評価の高い作品が連発している今なら、監督と俳優さえ間違えなければ
なかなかいい作品になりそうな気がします。

まあ一番重要なのはシナリオですけど、それはムーア本人が書くって事で。
でもアメリカのTVじゃ絶対放送できないだろうな。
ここは風刺番組の本家、英BBCの奮起を期待したいところですが
今のイギリスにはもはやそういう気概は無さそうです。
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