巨大ロボットの映像が登場する異色の戦争映画、と一部で話題になっているロシア映画
『オーガストウォーズ』を見てきました。
まず最初に断っておくと、本作は架空の世界や未来の戦争を描いたSF作品ではなく、
2008年にロシアとグルジアが実際に戦った「南オセチア紛争」を題材にしています。
(この紛争の別名が「8月戦争」と呼ばれているのが、タイトルの由来です。)
劇中では戦車や軍用車両がロボットに変形する場面が出てきますが、これは戦争に巻き込まれた少年が、
現実の脅威を架空の怪物と混同することによって起きる想像力の産物で、実在するものではありません。
この部分については、SFよりもむしろファンタジーの文脈で考えたほうがしっくりくるんじゃないかな。
だから本物のロボットが戦場で戦ってるわけではないのですが、少年の視点で受け止めるならば、
これぞ「現実」ということになるわけで、そうした現実認識をSFXで巧みに映像化したところが、
この作品のおもしろさのひとつだと思います。
ただし残念なのは、この少年の視点を物語上で終始徹底できなかったことですね。
空想上の戦いと現実の戦争が、少年の目から見て分かちがたく混在するように描写できれば、
スペイン内戦を扱ったデル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』に近い秀作になったと思いますが、
こちらの作品だと「少年の空想」は現実の前では無力なものに留まっていて、ある部分より先には
「越えがたい一線」がはっきりと引かれているように見えました。
だから戦争が始まると、少年のほうは「物語の世界に引きこもることで、世界の暴力に耐え続ける」
弱々しい姿が目に付くようになり、逆に交際相手との関係に逃避しがちだったシングルマザーの母親は
戦地へと少年を迎えに行き、「現実と向き合う」ことで、徐々に逞しさを増していきます。
この変化に伴って少年と母親の立場が逆転していき、視点人物も少年から母親へと徐々に移行。
そして進退窮まった母親は、進攻してきたロシア軍の男気あふれる隊長さんの助力を受けることに・・・。
これ以降、物語の主役は完全に母親及びロシア軍ということになってしまいます。
結局のところ、これって少年の成長よりもダメ母の成長をメインに据えた物語だったわけですねー。
そもそも本作が「少年による少年のための物語」であれば、想像力によって現実と対決し、
怪物を倒す役目を担うのは、あくまで少年であるべきだと思うんですよ。
しかし物語の山場で敵の大軍が変身した巨大ロボットを打ち倒し、少年の窮地を救うのは
母を救った隊長からの情報でロシア軍が投入した爆撃機による、対地ミサイル攻撃でした。
これでは「想像力が現実の力に打ち負かされる」という一番残念なオチにも見えてしまうし、
繰り返し見せてきた少年の心象風景も、結局は単なる「幼さ」にすぎなかったという思いを
観客に抱かせてしまうと思います。
少年の幻想が世界を変える力になるのでは・・・と期待した私にとっては、かなり残念でした。
さらに厳しい言い方をすれば、こどもの空想をダシにしてグルジア軍を怪物的存在に仕立て上げ、
敵を巨大ロボットに見立てることで爆撃シーンをエンターテインメント化しつつ、ロシア軍による
空爆の正当化を図ったようにも見えなくはない・・・。
そういう方便にこどもの想像力を持ち出したのであれば、ちょっと許しがたいと思います。
まあ救いがあるとすれば、最後にグルジア兵の人間性が少し描かれるところでしょうか。
もし戦車だけでなく兵士さえも非人間的なロボットに見せる演出があったら、さすがに
製作者の人間性を疑ったかもしれません。
実は個人的にロボットよりも意外に思えたのが、このあからさまなプロパガンダ性だったりします。
旧ソ連の時代をふりかえると、この国におけるSF作品には「体制への皮肉や批判を込めた作品を、
検閲にひっかからないように発表する手段」という側面もあったので、この『オーガストウォーズ』も
政府のやり方に批判的な作品なのかと思ってましたが、蓋を開けてみたらほとんどロシア万歳な内容。
これもまた民主化による変化なのか、それとも軍の協力を得るための苦肉の作なのか・・・。
実際は20年くらい前のハリウッドだって、こんな映画ばっかりポコポコ作ってたわけですが、
いまではちょっとマトモな映画だったら、現実の戦争をここまで自国本位には描かないと思う。
そう考えると、『オーガストウォーズ』って根本的なセンスが古臭い気もするんですよね。
まあロシアの観客向けに作った作品だから、ロシアの論理優先なのは当たり前なんだけど、
日本人がこれを見てなんにも気にならなかったとすれば、それもいかがなものかと・・・。
逆にこの作品をファンタジー視点ではなく戦争モノと割り切って見るなら、相当にリアルと言えます。
戦場の緊迫感、特に日常風景が突如として戦場へと変わり、周囲を銃弾と砲弾が飛び交うようになる
恐ろしさについては、さすが実際の戦争を題材にしているだけのことはあると思わせます。
特にすごいと思ったのは、山道でバスが突如ロケット攻撃を受けたあとの一連のシーン。
まるで本物のバス事故を見ているようで、思わず眼を覆いたくなるような迫力でした。
あとは市街地へバンバンと着弾してくるシーンとか。あれは怖い、ホントに怖い。
そういえばこれって、母親が少年を迎えに行ってから物語が終わるまで、ほぼ1日の話なんですよね。
尺が長いせいもあって、若い母親を待つ苦難の連続と、そのたびに手助けが現れるご都合主義については
ちょっと食傷気味でしたが、立て続けに起きる事件を時系列順に追っていく手法については、例えるなら
『24』のロシア版と呼べるかも。
まあ戦場の緊迫感はモロに『ブラックホーク・ダウン』なわけですが・・・。
ファンタジー映画としては不満が残るし、その他も気になる問題点は山ほどありますが、
そこを差し引いても意欲作ですし、「戦争スペクタクル」としては一級品だと思います。
私はミリタリー方面にさほど詳しくないのでよくわからなかったけど、車両や装備品も
かなり本格的らしいので、そっちのマニアにとってはたまらないんじゃないでしょうか。
空想をぶち壊すほどに生々しいロシアの現実を強く印象付ける『オーガストウォーズ』。
好みはさておき、現代ロシアの様々な実情を垣間見る上でも、見て損はないと思います。
『オーガストウォーズ』を見てきました。
まず最初に断っておくと、本作は架空の世界や未来の戦争を描いたSF作品ではなく、
2008年にロシアとグルジアが実際に戦った「南オセチア紛争」を題材にしています。
(この紛争の別名が「8月戦争」と呼ばれているのが、タイトルの由来です。)
劇中では戦車や軍用車両がロボットに変形する場面が出てきますが、これは戦争に巻き込まれた少年が、
現実の脅威を架空の怪物と混同することによって起きる想像力の産物で、実在するものではありません。
この部分については、SFよりもむしろファンタジーの文脈で考えたほうがしっくりくるんじゃないかな。
だから本物のロボットが戦場で戦ってるわけではないのですが、少年の視点で受け止めるならば、
これぞ「現実」ということになるわけで、そうした現実認識をSFXで巧みに映像化したところが、
この作品のおもしろさのひとつだと思います。
ただし残念なのは、この少年の視点を物語上で終始徹底できなかったことですね。
空想上の戦いと現実の戦争が、少年の目から見て分かちがたく混在するように描写できれば、
スペイン内戦を扱ったデル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』に近い秀作になったと思いますが、
こちらの作品だと「少年の空想」は現実の前では無力なものに留まっていて、ある部分より先には
「越えがたい一線」がはっきりと引かれているように見えました。
だから戦争が始まると、少年のほうは「物語の世界に引きこもることで、世界の暴力に耐え続ける」
弱々しい姿が目に付くようになり、逆に交際相手との関係に逃避しがちだったシングルマザーの母親は
戦地へと少年を迎えに行き、「現実と向き合う」ことで、徐々に逞しさを増していきます。
この変化に伴って少年と母親の立場が逆転していき、視点人物も少年から母親へと徐々に移行。
そして進退窮まった母親は、進攻してきたロシア軍の男気あふれる隊長さんの助力を受けることに・・・。
これ以降、物語の主役は完全に母親及びロシア軍ということになってしまいます。
結局のところ、これって少年の成長よりもダメ母の成長をメインに据えた物語だったわけですねー。
そもそも本作が「少年による少年のための物語」であれば、想像力によって現実と対決し、
怪物を倒す役目を担うのは、あくまで少年であるべきだと思うんですよ。
しかし物語の山場で敵の大軍が変身した巨大ロボットを打ち倒し、少年の窮地を救うのは
母を救った隊長からの情報でロシア軍が投入した爆撃機による、対地ミサイル攻撃でした。
これでは「想像力が現実の力に打ち負かされる」という一番残念なオチにも見えてしまうし、
繰り返し見せてきた少年の心象風景も、結局は単なる「幼さ」にすぎなかったという思いを
観客に抱かせてしまうと思います。
少年の幻想が世界を変える力になるのでは・・・と期待した私にとっては、かなり残念でした。
さらに厳しい言い方をすれば、こどもの空想をダシにしてグルジア軍を怪物的存在に仕立て上げ、
敵を巨大ロボットに見立てることで爆撃シーンをエンターテインメント化しつつ、ロシア軍による
空爆の正当化を図ったようにも見えなくはない・・・。
そういう方便にこどもの想像力を持ち出したのであれば、ちょっと許しがたいと思います。
まあ救いがあるとすれば、最後にグルジア兵の人間性が少し描かれるところでしょうか。
もし戦車だけでなく兵士さえも非人間的なロボットに見せる演出があったら、さすがに
製作者の人間性を疑ったかもしれません。
実は個人的にロボットよりも意外に思えたのが、このあからさまなプロパガンダ性だったりします。
旧ソ連の時代をふりかえると、この国におけるSF作品には「体制への皮肉や批判を込めた作品を、
検閲にひっかからないように発表する手段」という側面もあったので、この『オーガストウォーズ』も
政府のやり方に批判的な作品なのかと思ってましたが、蓋を開けてみたらほとんどロシア万歳な内容。
これもまた民主化による変化なのか、それとも軍の協力を得るための苦肉の作なのか・・・。
実際は20年くらい前のハリウッドだって、こんな映画ばっかりポコポコ作ってたわけですが、
いまではちょっとマトモな映画だったら、現実の戦争をここまで自国本位には描かないと思う。
そう考えると、『オーガストウォーズ』って根本的なセンスが古臭い気もするんですよね。
まあロシアの観客向けに作った作品だから、ロシアの論理優先なのは当たり前なんだけど、
日本人がこれを見てなんにも気にならなかったとすれば、それもいかがなものかと・・・。
逆にこの作品をファンタジー視点ではなく戦争モノと割り切って見るなら、相当にリアルと言えます。
戦場の緊迫感、特に日常風景が突如として戦場へと変わり、周囲を銃弾と砲弾が飛び交うようになる
恐ろしさについては、さすが実際の戦争を題材にしているだけのことはあると思わせます。
特にすごいと思ったのは、山道でバスが突如ロケット攻撃を受けたあとの一連のシーン。
まるで本物のバス事故を見ているようで、思わず眼を覆いたくなるような迫力でした。
あとは市街地へバンバンと着弾してくるシーンとか。あれは怖い、ホントに怖い。
そういえばこれって、母親が少年を迎えに行ってから物語が終わるまで、ほぼ1日の話なんですよね。
尺が長いせいもあって、若い母親を待つ苦難の連続と、そのたびに手助けが現れるご都合主義については
ちょっと食傷気味でしたが、立て続けに起きる事件を時系列順に追っていく手法については、例えるなら
『24』のロシア版と呼べるかも。
まあ戦場の緊迫感はモロに『ブラックホーク・ダウン』なわけですが・・・。
ファンタジー映画としては不満が残るし、その他も気になる問題点は山ほどありますが、
そこを差し引いても意欲作ですし、「戦争スペクタクル」としては一級品だと思います。
私はミリタリー方面にさほど詳しくないのでよくわからなかったけど、車両や装備品も
かなり本格的らしいので、そっちのマニアにとってはたまらないんじゃないでしょうか。
空想をぶち壊すほどに生々しいロシアの現実を強く印象付ける『オーガストウォーズ』。
好みはさておき、現代ロシアの様々な実情を垣間見る上でも、見て損はないと思います。