Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

神よ見よ、我が業を。-映画『ウォッチメン』

2009年04月09日 | アラン・ムーア関連
映画『ウォッチメン』を見てきました。


原作の持つ複雑極まりない構造と多彩な表現法の追求はさすがに無理でしたが
映画という表現ワクの中でとことんまで忠実にコミックのシーンを再現しようとした
ザック・スナイダー監督のこだわりは、画面の隅々まで浸透してました。
特に冒頭、血のついたスマイルバッジの下を黒ずんだ血がドロドロと流れる場面は
まるでコミックの絵をそのまま動かしたみたいにソックリ。
狙った映像をモノにできて得意満面な監督の姿が、画面の向こうに見えるようです。

というか、スナイダー監督って単純に原作大好き人間なんでしょうね。
オウルシップの左目には、原作どおりの形に拭ったあとまでつけてありましたし。
映画においては何の演出にもからんでない部分なのに、この無意味な執着っぷりは
単なるファン気質にしか見えません。というかムダにガンバリすぎ。
でもそのムダっぷりが、コミックを読んだ人への秘密のサービスみたいにも感じられて
つい親近感を持っちゃうんですよねー。

ストーリー自体は原作の主要部分を効率よく集めて、うまく再構築しています。
この時間内で重要なシーンをよくこれだけ詰め込んだな、という感じですね。
しかし見方を変えれば、名場面を寄せ集めて映像化しただけという印象がなきにしもあらず。
アクションシーンはハードだしSFXも凝ってるのですが、それらがあまりにスマートすぎて
娯楽作品としてスッキリまとまりすぎちゃったかもしれません。
速い場面転換と切れ目なく続くエピソードのせいで、話の内容をじっくり考えなくても
見られてしまうというつくりも、良いんだか悪いんだか・・・。
後方の大学生集団がずっと笑いながら見ていたのには、本気でイライラさせられました。
上映時間の長さは全く気になりませんでしたが、原作を読んでない人にはわかりにくくて
話が長すぎると感じられるかも。

エピソードの細部をはしょったのはやむを得ないのですが、初代ナイトオウルの物語を
大幅にカットしてしまったのは、かなり残念。
彼の悲惨な末路を省略した事によって、物語の悲劇性がやや薄まってしまいました。
ロールシャッハ誕生のきっかけとなった実話である「キティ・ジェノヴィーズ事件」についても
一切触れていませんし、ウォッチメンの物語を広島・長崎への核攻撃とダブらせる上で
重要なアイコンとなる「ヒロシマの恋人たち」の影絵も、ほとんど取り上げられてません。
ある大きな改変が施されたクライマックスも、映画としてのまとまりは良くなったけれど
原作の最終章が見せた地獄絵図に比べれば、インパクトの面でかなり落ちると思います。

それでもこの映画を許せるのは、やはり原作への敬意と誠実さを感じ取れるからでしょう。
グラフィックノベルのプロモーションと考えれば、文句なしにデキのいい映像作品です。
中でも特に秀逸なのは、オープニングに集約された歴代ヒーローたちの歩みですね。
ウォーホルやデヴィッド・ボウイなどのポップスターと並ぶヒーローの姿と、ダラー・ビルや
シルエットたちの悲惨な姿を交互に見せることによって、アメリカの栄光と悲劇の歴史を
ヒーローたちの人生にうまく重ね合わせていると思います。

俳優さんは知らない人ばかりですが、こちらも原作キャラクターのイメージに忠実です。
全裸のDr.マンハッタンをはじめ、みんな身体を張っての大熱演。でもやっぱり一番は
細身なのに鍛え上げられたロールシャッハ役のジャッキー・アール・ヘイリーですな。
デニス・ホッパーとウィリー・ネルソンを足して2で割った後、30代に若返らせたような
なんともシブーい顔立ちに惚れました。
二代目ナイトオウルが初代ウルトラマンの黒部進に似てるのも、個人的には高ポイント。

そっくりさんでは前述のウォーホルやボウイの他に、キッシンジャーやアイアコッカなど
当時を反映した政財界の大物も登場し、時代考証にもこだわりを見せてます。
というか、これってむしろ一種の悪ノリなのかも?

バックに流れる数々の音楽も、大事な小道具です。ディランやジミヘンはもちろん、
ティアーズ・フォー・フィアーズの『Everybody Wants To Rule The World』だとか
ネーナの『99 Luftballons』、フィリップ・グラスのミニマル音楽『Pruitt-Igoe
(元は映画『コヤニスカッツィ』より。ちなみに読みは「プルーイット・アイゴー」で
「プルート・イゴエ」とは読まないみたい)なども、いいところで流されてました。
これらの曲って80年代を象徴してるだけでなく、実は『ウォッチメン』と共通する
重いテーマを扱った作品ばかり。ホントにうまい選曲です。

コミックの中身をきちんと消化して、押さえるべき部分を押さえてダイジェスト化している
映画版『ウォッチメン』。原作を読み込んだ人ほど、評価と満足度は高いと思います。
というか先にそっちを読んどかないと、多分ムリ。話の表面をなでただけで終わります。

コミック読んでダメだったら、映画はスルーかな。もしハマれたら、次に映画を見て
このシーンは入ってるとか、あの場面はカットされたのかーと心の中でツッコむのが
一番シアワセな見方だと思います。
もちろん逆パターンもアリですが、予備知識なしであの怒濤の流れについていくのは
かなりシンドイでしょうね。

映画だけで評価すればB級のハリウッド大作かもしれないけど、ウォッチメン信奉者による
純粋なファンムービーとしては、十分Aクラスに値します。
だから普通に映画が好きな人や、普通のヒーローものが好きな人にはオススメできません。
映画を見る前か後かはともかく、原作の深い闇を自ら覗き込もうという意志のある人だけに、
この作品を推奨したいと思います。
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