Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

ユリイカ2020年12月号「偽書の世界」と「白梅ニ椿菊図」

2020年12月05日 | その他の雑記・メモなど
ユリイカ12月号「偽書の世界」発売前からかなりの評判だったようですが、期待にたがわず大変面白かったです。



様々な分野の書き手がそれぞれの見地で偽書について書いているので、当然ながら体系的な研究や一貫した視点には欠けていて
読みにくさや混乱を招く部分もあるけれど、個々の文章については興味深いものが多いですね。

特によかったのは特集冒頭に置かれた馬部隆弘氏と小澤実氏による対談「文書をめぐる冒険」。
国学者椿井政隆が江戸時代後期に偽作した中世古文書「椿井文書」を発見した馬部氏とルーン文字等も研究する小澤氏により、
地域住民に都合のいい典拠として「偽書」が成立するメカニズムと、それが公的文書として利用される過程までが明らかにされ、
これが現代にまで通用している実態には驚かされました。
しかしこれは椿井文書に限らず北欧に起源を求める欧州でも同様な広がりを見せるなど歴史的・世界的に共通の問題であること、
かつ偽書は偽書として史学的な研究価値を持つ資料だという説明にはうなずかされるものがあります。

歴史や史実を捏造し思想の伝播や定着に利用しようという動きは現在も頻繁に行われている印象があり、特に国家権力や
国粋主義、また排外行動と安易に結びつきやすい印象があります。
偽書とは情報に確実性がなかった過去の産物ではないし、いかに興味深いとはいえ真贋の別は明確にしなければならない。
デマやフェイクニュースで実際に社会が動いてしまう時代に、この特集が持つ意義は非常に重いと言えそうです。

なお、多くの書き手が文中で「偽書とは何か」を説明していますが、明確な定義と感じるものはありませんでした。
この特集自体も完全な捏造から出典が怪しい文書、さらに完全なフィクションとして発表された作品までを幅広く取り上げており、
特に架空の歴史や並行世界を扱った小説まで含めているのは違和感が強い部分でした。
私個人の意見としては、偽書とは現実と非現実の境界にあってとらえどころのない存在に限定して欲しいと感じます。

それとは別に、記憶や文書の捏造をテーマとした樋口恭介氏の「交換日記」は偽書を語る/騙る物語として楽しく読める作品なので、
これは創作として広くお薦めしたいですね。

また、他の特集のように「世界偽書辞典」的な項目や、文中で取り上げられた偽書類を巻末一覧としてまとめてあれば
資料として活用する場合にもより有益だったように思います。

さて、実在しない創作物が実在する場所に現れて重要な役割を果たす近年の例としては、アニメ映画『時をかける少女』で
東京国立博物館を会場とした架空の展覧会「アノニマス―逸名の名画―」に登場した非実在の絵画「白梅ニ椿菊図」があります。

東博で『時かけ』の野外上映が行われたとき、この作品が本館前のスクリーンに映ったのは感動的でした。

実在しない絵画が実在する博物館に展示された瞬間。
これこそ空想が現実に入り込む瞬間だなと感慨にふけったものですが、新型コロナウイルスの猛威により来館者が減った2020年、
今度は仮想空間に東博が出現し、バーチャル特別展「アノニマス―逸名の名画―」が開催されるとのこと。



「今回のバーチャル特別展は東京国立博物館・文化財活用センター・凸版印刷株式会社が主催し、
 スタジオ地図を迎え入れることで立ち上げることができました。
 新型コロナウイルスによって集客力に大きな打撃を受けている日本全国の美術館・博物館ですが、
 新たな作品鑑賞のかたちに挑戦しています。」
「今回は「時をかける少女」で主人公「真琴」たちが訪れていた「アノニマス −逸名の名画−」展を再現した展覧会を、
 バーチャルSNS「cluster」上で行います。」
(Makuakeに掲載された「アノニマス−逸名の名画−」運営事務局による説明より)

千昭がこの絵を見に来た理由を真琴に話したとき「人がたくさん集まるのを見たことがない」「野球も行われていない」
「東博で最後に展示された後の絵の記録がない」といった未来の説明がありました。

東博ほどの施設に所蔵された絵の行方が分からず、人も減って野球もなくなったというなら、考えられる理由として
一番ありそうなのは“近い将来に戦争か災害が起きる”という緊急事態で、千昭の言葉はそれを暗示するものではないか、
そして真琴が「絵を必ず未来で見られるようにする」と宣言したのは、その悲惨な未来を彼女が変える可能性について
示唆しているのではないか……だからラストに物語をリスタートさせる意味でタイトルが大きく出るのではないか。
私の(SF的な視点で見た)作品解釈はこんな感じだったのですが、まさか公開から14年を過ぎた2020年に
「人がたくさん集まれない」「(夏の甲子園などの)野球がない」「美術館に行くことも難しい」という世界が
現実に訪れるとは思いもしませんでした。
それも戦争や災害ではなく、世界的な疫病が原因とは……まあこれも一種の天災ということもできますが。

ピンチをチャンスに変えようという今回の展覧会もまた、真琴のように未来を変える存在となるかもしれません。

展覧会の公式サイトはこちら。
https://virtualtohaku.jp/anonymous2020_exhibition/

Makuakeのプロジェクト支援ページはこちら。
https://www.makuake.com/project/annms2020exh/
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