Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

アラン・ムーアの『トップ10』Vol.1

2009年09月29日 | アラン・ムーア関連
購入後に腰を据えて読む時間がなかった『トップ10』Vol.1を、連休中に読み終えました。

“第二次世界大戦に出現して以降、芋づる式に増えたヒーローとそのライバルたちは、
 その存在が大きな社会問題と化し、戦後のベビーブームは事態をさらに悪化させた。
 やがて一般人との軋轢を避けるため、スーパーヒーローとスーパーヴィランだけが住む
 巨大都市「ネオポリス」が建設され、この街を取り締まるための警察組織が結成された。
 これが多次元警察機構第10分署、通称「トップ10」と呼ばれる組織である・・・。”

こんな設定で繰り広げられるのは、登場キャラクターすべてがユニークな超常能力を持つ
なんとも奇妙な街の警察ドラマです。

道ばたで子供が目からビームを出してアリをイジメているかと思えば、ゴジ〇の甥っ子が
ストリートギャングのボスに納まっているという、ある意味でデタラメなネオポリス社会。
その平和を守るのは核兵器装備のおばさん刑事に隠れヌーディスト、さらに同性愛者に
マザコンのカウボーイから“犬のおまわりさん”に至るまで、こちらも揃ってユニークかつ
クセのある連中ばかりです。



そんな愛すべき「トップ10」のメンバーが夫婦喧嘩から麻薬売買、そして娼婦連続殺人と
様々な事件に対峙する日々が、ドタバタギャグと小ネタ満載で綴られていくこの作品。
作画担当のジーン・ハーの絵柄も、ロイドやギボンズよりはとっつきやすいので
これまでのムーア作品よりはかなり読みやすくなってると思います。

さて、変人ぞろいの同僚たちに比べると、ヒロインのロビン・スリンガー刑事(トイボックス)は
“手製の玩具を手足のように操れる”という能力面も含めて、結構フツーな感じの娘さん。
(といっても見た目は完全にパンクっ娘ですが、周囲があまりにも個性的なので・・・。)

でもその普通さこそ彼女の個性、そして普通人の我々が『トップ10』を読んだときに
一番共感しやすいキャラでもあるわけですね。
こういうところにも、たぶんムーアなりの計算が十分に働いているハズです。

とはいえ、とっつきやすいだけでは終わらないのがムーア先生。
複数のエピソードが同時進行で語られつつ、やがて繋がりを見せてくるという構成の冴え、
暴力と皮肉が巧みにブレンドされた作風、そして各コマのなかに描き込まれた圧倒的な
情報量は、この作者ならではの持ち味といえるでしょう。
(ムーアは全ての作画について、綿密な指示をすることで知られてます。)

ここでひとつ、我が家を荒らすスーパーマウスに唯一法律で許可された駆除法というのが
スーパーキャットの導入だったという小エピソードを例にしてみましょう。

これって単なるバカ話みたいですが、役所の決めたルールって確かに融通が利かないし・・・
などと思い返してみれば、この話も意外とリアルで生々しいネタに思えてきます。
そう考えると、実はネオポリスばかりがヘンな場所とは言えないのかも・・・?

そしてこれについては、ネオポリスの超人的な市民たちにもあてはまると思います。

たとえ超能力を持っていたとしても、まわりの連中にも同じような能力があったならば
それは宗教や思想、人種や性別と同じ「個性」のひとつにすぎません。
大きく誇張されてはいるけれど、ここに描かれているのは毎日を懸命に生きている
我々と変わらない「人間たち」の姿なのです。

本書の巻頭に収録されている、通常人のフリーライターであるアラン・ムーア(!)が
トップ10を取材して書いたという記事「押し止める力:第10分署と超・社会管理」には、
これを的確に表現した一文が載っています。

「だが、彼らを羨む事はないだろう。それでなくても人生は過酷なのだ。
 あなたがどんなケープを纏っていようとも。」

ムーアはこのヘンテコな街をおもしろおかしく描きつつ、その裏でこれまでと変わりなく
「人間(らしさ)とはなにか」という根源的な問いを発し続けているのでしょう。
スーパーパワーと引き換えにネオポリスに縛られ、様々な制約の下で生きる人々は
かつて『Vフォー・ヴェンデッタ』のラークヒル収容所で命を落としたマイノリティたちが
作品の枠を超えて転生した姿なのかもしれません。

ちなみにVol.1で私が一番好きな話は、世界の神々が集うバーで起きた“殺神”事件。
とにかくバカバカしい話なのですが、これがまるっきり北欧神話のエピソードの再現なのが
笑うに笑えないところなんですよ。
しかもこの神話が某世界的宗教の原型とくれば、ムーアの矛先が結局どこに向いてるかは
自然にわかるというもので・・・この傍若無人な皮肉屋っぷりがステキすぎる(笑)。

そして10月後半には、エピソード完結編となる『トップ10 Vol.2』が発売されます。
殺された麻薬の運び屋が隠した放射性物質、取調べ中に自殺したネオポリス創設者の謎、
そして街を騒がす超能力お触り魔(!)といった事件は、どんな解決を迎えるのでしょうか?

さらに超大作『フロム・ヘル』も発売と、来月もムーア関連から目が離せません。
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