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ニューディールのゆくえ(日本海新聞コラム「潮流」・2月28日掲載分)

2009-03-06 00:08:29 | Weblog
  47歳の若さとそのカリスマ性において、オバマ新大統領はJFケネディを髣髴とさせるものがあります。また共和党政権の自由放任政策が招いた経済の破局の後に登場した民主党の大統領という点で氏は、F.D.ルーズベルトとも重なるところがあります。本人もそのことを意識しているのでしょう。アメリカ経済再生のために新大統領が打ち出したのは、石油依存型の社会から脱却するために大規模な財政出動を行う「緑のニューディール」です。
 
 ルーズベルトは、それまでの自由放任政策に変えて財政出動によって有効需要の創出を図るケインズ政策を採用しました。ニューディールは、TVA(テネシー川流域開発公社)に代表される大規模公共事業や、労働者保護政策によって知られています。しかしニューディールによってアメリカは大恐慌の痛手から立ち直ることはできませんでした。経済の再生においてアメリカは、イタリアやドイツ、そして日本の後塵を拝していたのです。アメリカ経済を甦らせたのは第二次世界大戦の勃発でした。ニューディールではありません。

 「緑のニューディール」は、果たして成功するのでしょうか。私は非常に懐疑的です。金融バブルの崩壊で生じた天文学的な額の不良債権は、公共事業でどうにかなる問題ではありません。アメリカのGDPの7割を個人消費が占めています。サブプライムローンが象徴するように、貧しい人までもが借金をして浪費をすることによってまわってきた経済なのです。ところが、アメリカの金融業は崩壊してしまいました。借金をしようにも貸し手がいないのです。こうした状況で財政出動に有効需要を生み出す力があるとは思えません。

  アメリカには、「軍産複合体」の名で知られる肥大した軍需産業があります。戦争が起きれば巨額の軍事予算がここに投下されることでしょう。もちろん軍需産業が潤っても、崩壊した金融システムが甦るわけではありません。しかし戦争が起きれば軍隊は、雇用の大きな受け皿になります。軍需産業への投資は、海のものとも山のものとも知れない環境ビジネスに対するそれとは違って、ある程度の景気浮揚の効果を期待できるでしょう。新大統領は、戦争という「死のニューディール」の誘惑に打ち勝つことができるのでしょうか。

 もちろんオバマ氏は、「戦争中毒」と揶揄された前任者とは比較にならない高い知性の持ち主です。イラクからの撤退とグアンタナモ収容所の廃止を決めたことも評価しなければなりません。私の懸念は次の点にあります。アメリカでは戦争を指導する大統領は英雄になります。大統領選挙の結果に疑義をもたれ就任当初不人気を極めた前任者が「戦争中毒」に罹った原因もここにあります。景気の浮揚に失敗すれば現在の高い支持率は失われてしまいます。その時オバマ氏が前任者と同じ罠に落ちないという保障はどこにもないのです。