ガラパゴス通信リターンズ

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山陰地方の事件に思う(日本海新聞コラム「潮流」・12月29日掲載分)

2010-01-04 07:49:11 | Weblog
日本では、1990年代から20年近くも不況が続いています。そしてリーマンショック後の日本経済は、主要国のなかでもっとも大きな落ち込みを示しています。景気回復の兆すらみえません。これを反映して日本の自殺者数は1998年以降、3万人を超えています。だが日本社会が荒廃の極みにあるわけではありません。メディアによって大きく取り上げられるセンセーショナルな事件はいくつもありましたが、日本は世界の主要国のなかで例外的に犯罪の少ない国です。日本の治安のよさは諸外国の羨望の的となっています。

 しかし、昔に比べて治安が悪くなったと感じておられる方も多いのではないでしょうか。凶悪犯罪が起きるたびに繰り返されるメディアの過剰報道もその一因ですが、一概にこれを幻想だと言い切ることもできません。かつては、凶悪事件が起きる空間も時間も限定されていました。たとえば大都市の夜の繁華街といったように。しかし、いまでは昼間の閑静な住宅街でも凶悪事件が起きることは珍しくありません。犯罪とは無縁だと言い切れる時間と空間がなくなってしまった。このことが、人々の「体感治安」を悪化させています。

 山陰地方はこれまで、凶悪な事件とは無縁な、のどかな地域だと考えられてきました。私が子どもの頃の鳥取市では、外出する時に鍵をかける家庭は稀であったと記憶しています。ところがこの秋、島根県の浜田市では女子大生が何者かに惨殺され、鳥取市ではある女性の周辺で何人もの男性が不審死をとげていることがわかりました。ちょうど同じ頃、千葉県で一人暮らしの女子大生が殺され、東京では鳥取のものと酷似した女性がらみの事件が起こっています。こうしたことで山陰地方が、東京と肩を並べるのは悲しいことです。

 浜田市の事件で女子大生の遺体は、広島県と島根県の県境付近の山中に放置されていました。地方で起きる凶悪事件では多くのばあい、クルマが大きな役割を果たしています。県境を超えて犯人が移動することが多く、それが事件の捜査を困難なものにしていきます。浜田市の事件の舞台も、島根広島の両県にまたがっているようです。近年メディアが発達し、クルマが普及することで、地方に住む人たちの生活の利便性は飛躍的に高まっています。しかしそのことが地方の人たちの「体感治安」の悪化を招いていることも否めません。

 私は鳥取市に帰省するたびごとに、寂しさを感じています。景気の悪化によって鳥取の街から年々活気が失われていることが、その大きな理由です。そしてかつてのような濃密な人間関係が失われているとも感じています。林立するマンションは、鳥取市でも生活の個人化が進んでいることの象徴のようにみえます。情報や移動手段の利便性だけではなく、生活様式においても大都市と地方との差は縮まっています。「体感治安」の悪化は、地方の人々が都会的な自由を享受することの代償としてもたらされたものなのかもしれません。

1 コメント

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故郷にニシキを (よねまる)
2010-01-06 18:05:11
 加齢御飯先生、新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
 久々に駄文を書き連ねております。山陰地方が凶悪事件で東京と肩を並べるなんざ、本当に残念ですね。そうでなくてもわしらの郷里はヒカゲモンの印象があるのに。実にもって怪しからん。「やめてごせえ」と言いたくなります。
 この前の紅白歌合戦では、サプライズで「ビッグ矢沢」が出演しましたが、わしらもビッグになって故郷にニシキとやらを飾ってやりますかな(笑)。まずは、われらが母校のN高で講演をしますか(笑)。
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