娘が環境問題に関心をもっている。ぼくが無駄な電気をつけていると彼女が消して歩く。そして「電気のつけっぱなしは、Co2排出量を増大させるよ!」と親を説教する。まことにうっとうしい。小学校最後の総合学習でも、環境問題のレポートを作っていた。インターネットで調べものをしていた娘が何やら独り言をいっている。「えーっと、京都議定書のほねこは」。これ以来わが家で彼女は「骨子(ほねこ)ちゃん」と呼ばれるようになった。
中学生になった骨子ちゃんは、国語辞典を買うことになった。「新明解国語辞典」を手にとる。自分の本当の名前である「桜」を骨子ちゃんは引いてみた。いろいろなことが書いてある。桜の葉は塩漬けにされて桜餅に使われる。塩漬けの桜の葉は一樽二樽という単位で取り引きされる。等々。骨子ちゃんは「ふざけている」と思った。不必要な情報が多すぎると思ったのだ。他方、岩波の辞典は桜についての過不足のない情報が載せられている。
骨子ちゃんの心は岩波に傾いた。しかし辞典は一生ものである。骨子ちゃんはさらに比較検討をすることにした。鰈(かれい)と苺と鮑(あわび)を引き比べてみる。新明解にはそれらはいずれも「美味」であると記されている。とくに鰈は「白身で美味」と評されている。岩波の辞典には味についての言及は一切ない。骨子ちゃんの心証は逆転する。岩波は無味乾燥。新明解は丁寧で「やさしい」。骨子ちゃんは迷うことなく新明解を購入した。
生真面目な骨子ちゃんは心配する。「美味」というのは、執筆者の主観に過ぎない。苺や鮑や鰈を「美味」とは思わない人もいるだろう。蟹がいくら「美味」でも強度のアレルギーをもつびんちゃん(ぼくのこと)は食べられない…。執筆者の主観を読者に押しつけてよいのだろうか。そういいながら骨子ちゃんは、しょっちゅう「新解さん」を読んで笑い転げている。骨子ちゃんにとって「新解さん」は、中学に入ってできた最初のお友だちだ。
中学生になった骨子ちゃんは、国語辞典を買うことになった。「新明解国語辞典」を手にとる。自分の本当の名前である「桜」を骨子ちゃんは引いてみた。いろいろなことが書いてある。桜の葉は塩漬けにされて桜餅に使われる。塩漬けの桜の葉は一樽二樽という単位で取り引きされる。等々。骨子ちゃんは「ふざけている」と思った。不必要な情報が多すぎると思ったのだ。他方、岩波の辞典は桜についての過不足のない情報が載せられている。
骨子ちゃんの心は岩波に傾いた。しかし辞典は一生ものである。骨子ちゃんはさらに比較検討をすることにした。鰈(かれい)と苺と鮑(あわび)を引き比べてみる。新明解にはそれらはいずれも「美味」であると記されている。とくに鰈は「白身で美味」と評されている。岩波の辞典には味についての言及は一切ない。骨子ちゃんの心証は逆転する。岩波は無味乾燥。新明解は丁寧で「やさしい」。骨子ちゃんは迷うことなく新明解を購入した。
生真面目な骨子ちゃんは心配する。「美味」というのは、執筆者の主観に過ぎない。苺や鮑や鰈を「美味」とは思わない人もいるだろう。蟹がいくら「美味」でも強度のアレルギーをもつびんちゃん(ぼくのこと)は食べられない…。執筆者の主観を読者に押しつけてよいのだろうか。そういいながら骨子ちゃんは、しょっちゅう「新解さん」を読んで笑い転げている。骨子ちゃんにとって「新解さん」は、中学に入ってできた最初のお友だちだ。