イラク軍の指揮下で活動しているPMU(人民動員軍)の施設をアメリカ軍が12月29日に空爆した目的はシリア東部からイラク西部にかけての地域をアメリカ軍が支配し続けることにあるのだろうが、それはシリア、イラク、イランを分断し、殲滅するというネオコンの戦略に合致している。
イラクのサダム・フセイン政権を倒して親イスラエル派の体制を樹立、シリアとイランを分断した上で両国を殲滅するという戦略をネオコンは遅くとも1980年代には立てていた。そこで、フセインをペルシャ湾岸産油国の防波堤と位置づけていたジョージ・H・W・ブッシュやジェームズ・ベイカーと対立、イラン・コントラ事件やイラクゲートが露見する一因になっている。
ソ連が消滅する直前、ネオコンの中心メンバーのひとりであるポール・ウォルフォウィッツはイラク、イラン、シリアを殲滅すると口にしたという。これは欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)の元最高司令官、ウェズリー・クラークが語っている。(ココやココ)
ソ連が消滅した直後、国防次官だったウォルフォウィッツは国防総省のDPG草案という形で1992年2月、この3カ国殲滅を含む世界制覇プランを作成している。そのベースを考えたのは国防総省内部のシンクタンクONA(ネット評価室)で室長を務めていたアンドリュー・マーシャルだが、執筆の中心がウォルフォウィッツだったことから「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」と呼ばれている。
ソ連が消滅したことでアメリカが「唯一の超大国」になったと認識、ネオコンは誰にも遠慮することなく単独で行動できると考え、国連も無視するようになった。国連中心主義を打ち出していた細川護熙政権が潰された背景でもある。
ウォルフォウィッツ・ドクトリンはアメリカが世界の覇者になったという前提で、残された従属度の足りない国や潜在的ライバルを破壊し、力の源泉でもあるエネルギー資源を支配するという作業に取りかかる。そのドクトリンに基づいてナイ・レポート(東アジア戦略報告)が押しつけられ、日本はアメリカの戦争マシーンに組み込まれていく。
クラークによると、2001年9月11日の攻撃から6週間ほど後にアメリカの国防総省ではシリア、イラク、イランに加えてレバノン、リビア、ソマリア、スーダンを殲滅する計画を立てている。レバノンはイスラエルにとって戦略的に重要な国であり、リビアはアフリカ支配の要。ソマリアは交通の要衝であると同時に資源国でもある。スーダンも資源が注目されていた。
すでにロシアが曲がりなりにも再独立に成功したことでウォルフォウィッツ・ドクトリンは破綻しているのだが、予定通りに世界制覇を実現したい勢力はロシアを再び属国にしようと必死。それによってアメリカの支配層は自らの立場をさらに悪くしている。
支配層はカネ儲けが大好きだが、目先のカネ儲けだけのために動いているわけではない。チェスにしろ、将棋にしろ、囲碁にしろ、初心者は目先の駒や石に囚われるが、そういう人は勝負に勝てない。長期戦略や中期戦略に基づいての短期戦略であり、目先のカネ儲けだ。
遅くとも20世紀の初頭からアングロ・サクソンの支配者たちは世界を支配するため、ロシアを制圧する必要があると考えていた。そのために東ヨーロッパを支配しようとする。これが彼らの長期戦略。
そこで制海権を握っていたイギリスはユーラシア大陸の周辺部分(内部三日月地帯)を支配し、内陸国を締め上げていくという戦略を打ち出した。その三日月地帯の上にイギリスはサウジアラビアとイスラエルを作り上げている。東端に位置している国は日本だ。
この長期戦略はその後も継続され、ジョージ・ケナンの「封じ込め政策」やズビグネフ・ブレジンスキーの「グランド・チェスボード」もその理論に基づいている。今もその戦略を放棄していない。
対抗上、内陸国は鉄道を建設してきた。シベリア横断鉄道はそうした目的で建設されている。現在、中国が一帯一路を打ち出し、ロシアが鉄道、道路、そしてパイプラインを建設している理由もそこにある。
非ネオコン系のシオニストは「大イスラエル」を目論んでいるが、これは内部三日月地帯を寸断する可能性のあるシリア、イラク、イランの連携を殲滅するというネオコンの考えと矛盾しない。
もし、2020年にドナルド・トランプがこうした長期戦略に反する政策を強行しようとしたなら、それは命がけになる。