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「中国でなく同盟国を痛める米中新冷戦」

田中宇さんの国際ニュース解説より、「中国でなく同盟国を痛める米中新冷戦」

 

田中宇さんの「国際ニュース解説」の内容は、思わず膝を打つ(死語?)ような納得感が得られるものですが、今回の記事も「読んでスッキリ」と理解できるものとなっています。

(今回も無料で全文を閲覧できました)

<iframe class="embed-card embed-webcard" title="中国でなく同盟諸国を痛める米中新冷戦" src="https://hatenablog-parts.com/embed?url=http%3A%2F%2Ftanakanews.com%2F181016china.htm" frameborder="0" scrolling="no"></iframe>tanakanews.com米中の貿易戦争はさらに激化していますが、とうとうトランプ政権は中国を「敵」と明言しました。

アメリカの上層部は軍産複合体多国籍企業の混じり合ったものとなっていますが、前者が中国を敵と見なしたがる一方、後者は貿易の利益から中国には友好的です。しかし、いよいよ軍産複合体が主導権を握ったようです。

ここには、政権内部の「大人」と見られていたヘイリー国連大使を排除し、さらにもうひとりのマティス国防長官も除こうとする動きがそれを示していると言う見方もできそうです。

 

この動きに対し、日本のネトウヨなどはアメリカとの同盟関係を強化できる好機と喜んでいるようですが、実際はそれほど甘い状況ではありません。

これまでのアメリカとの同盟関係は、安保体制をアメリカ任せにして安上がりに済ませられる上に、中国などとの経済関係は親密にすることを許され美味い汁を吸うことができたのですが、今後はそのようなわけには行きません。

安保でも同盟国の負担を増そうというトランプの脅迫は絶え間なく、一方で中国など敵対国との経済関係も制限しようとしています。

 

アメリカの経済もバブル崩壊が間近とも見られるものであり、中国は保有するアメリカ国債を売却し始めたということです。

このような状況で対米従属を強めることになんの利があるのか、疑問です。

 

最後に田中さんが取り上げているのが、中国に逆らっているマレーシアのマハティール首相の行動です。

大国に楯突くその行動は無謀かもしれませんが、アメリカの言いなりの日本を見ているとマハティールの反骨に感銘と尊敬を感じるとのことです。

 

同感です。

 

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サウジアラビア原油安の陰謀

サウジアラビア原油安の陰謀

2014年10月16日   田中 宇より転載

サウジアラビア原油安の陰謀

2014年10月16日   田中 宇
 サウジアラビアが米国と結託し、イランやロシアを困らせる目的で、原油の国際相場を引き下げる戦略を展開している。原油相場(北海ブレント)は、7月の1バレル115ドルから、現在の80ドル台へと、3カ月間で4割も下がっている。10月に入り、世界経済の成長鈍化が明確化し、国際エネルギー機関が世界的な原油需要の減少を予測し、原油価格の下落傾向に拍車がかかっている。 (IEA cuts Oil demand forecast) (Why Oil Is Plunging: The Other Part Of The "Secret Deal" Between The US And Saudi Arabia)

 そんな中でサウジは、アジア方面に1バレル50-60ドルという破格な安値で輸出している。サウジは買い手の諸国に対し「必要以上に大量に原油を買ってくれた場合だけ、破格の安値にしてやる」と条件をつけ、世界が過剰に原油在庫を抱えるように仕向け、原油安を煽っている。サウジの安値攻勢は、米国が敵視するロシアやイランを標的にしたもので、両国がシリアのアサド政権をテコ入れしているのをやめさせるとともに、イランに核兵器開発をやめさせるのが目的とされている。 (Saudi Arabia to pressure Russia, Iran with price of Oil) (Saudi Arabia's "Oil-Weapon" Hits Europe)

 サウジは近年、1バレル100ドル前後を望ましい原油価格と考えて維持する策を採っていた。しかし今、サウジ王政の上層部は、1バレル80ドルの水準を今後長く続けることを示唆している。 (Exclusive: Privately, Saudis tell Oil market- get used to lower prices)

 米軍は9月末、サウジなどのアラブ産油諸国の参加のもと、シリア国内のISIS(イスラム国)の拠点に対する空爆を開始した。空爆開始の前に米国からケリー国務長官がサウジを訪問し、サウジに対し空爆に参加するよう求め、受け入れられた。この時サウジ国王は、空爆に参加する代わりに、国際原油価格を下落させるサウジの策を米国が容認するよう求め、受け入れられた。この後、サウジ主導の原油安の傾向に拍車がかかった。 (U.S. pledges secret deal with Saudi's to attack Syria if they crush oil prices) (◆敵としてイスラム国を作って戦争する米国)

 冷戦末期の1980年代、ロシアの前身のソ連は、国内経済を回すための外貨が不足し、それを原油輸出で補っていた。そこに目を付けた米国は、サウジに国際原油価格を下落させるよう要請し、実行させた。原油相場は下落し、ソ連の国庫に入る外貨が急減して財政難がひどくなり、80年代末のソ連崩壊につながった。冷戦を終わらせたのはサウジの功績だった(サウジ自身も財政難になったが)。それと同じことを、今また米国がサウジに依頼してやらせている。 (Facing new Oil glut, Saudis avoid 1980s mistakes to halt price slide)

 ロシアは、今も国家収入の大半を石油ガスの販売に頼っている。イランも同様だ。国際原油相場の低下は、両国にとって打撃だ。しかし、どの程度の打撃になるかは不明だ。ソ連時代と異なり、今のロシアには金づるとして中国がいるからだ。ロシアの石油ガスの主な輸出先はこれまで欧州だったが、今年初めにウクライナ危機が起こり、欧米がロシア制裁を始めてから、ロシアは石油ガスの輸出先を、中国や、米欧の世界秩序に参加する度合いが低いBRICSへと急速に転換している。 (Russian Oil shift east accelerates, dictated by politics)

 中国は、原油安によるロシアの痛みを緩和するため、中露間で1500億元の通貨スワップ枠を新たに設けた。ロシアが原油安で苦しんでいるのは確かなようだ。しかしロシアと、中国との石油ガスの契約は、価格が長期に決まっており、決済通貨もドルでなくルーブルと人民元であるなど、従来の米欧中心の国際石油市場のシステムと別のものになっている。国際原油相場が低下したからといって、それと連動してロシアから中国などBRICSへの原油輸出の価格が低下するかどうか不明だ。 (China, Russia Sign CNY150 Billion Local-Currency Swap As Plunging Oil Prices Sting Putin)

 イランの財政は、1バレル100ドル以上(一説では140ドル)でないと均衡しないとされる。1バレル80ドルの現状はイランにとって厳しい。しかし、イランは何年も欧米から石油ガスの輸出を制裁で禁止され、いくら価格を安く設定しても石油ガスを売れない状態が続いていた。それでもイランは潰れなかった。すでにイランは最も苦しい時期を乗り越えている。近年、BRICSや発展途上諸国が、核開発の濡れ衣に基づく対イラン制裁を米欧の横暴ととらえ、制裁を無視してイランから石油ガスを買う傾向を強めている。中国はイランから大量の原油を買っているが、制裁されているイランの足元を見て、国際価格よりかなり安値で買いたたいている。サウジが国際価格を下げても、イランの実質的な原油輸出価格には大して影響がなさそうだ。 (Iran Seen Keeping Oil Sales Steady as Nuclear Talks Extended)

 ロシアは最近、イランの石油ガスの売り込みを手伝う協定を結んでいる。米サウジが経済戦争を仕掛けるほど、露中やBRICS、イランは、米欧に頼らないエネルギー市場や国際経済体制を作ろうとする。この新体制が軌道に乗るほど、米サウジからの制裁は効かなくなる。 (Russia Delivers Blow To Petrodollar In Historic $20 Billion Iran Oil Deal)

 サウジ主導の原油安は、標的のロシアやイランよりも、米国の同盟諸国や米サウジ自身を困らせる状態になるかもしれない。たとえばISISとの戦いで軍事費の増加を迫られているイラクは、政府財政が1バレル106ドルで均衡するように設定されている。1バレル80ドルの現状だと財政が赤字になり、予定した軍備増強がやりにくくなる。OPEC(石油輸出国機構)の諸国間では、11月に開かれるサミットに向け、サウジが主導する値下げ派と、ベネズエラなどで構成する値上げ(減産)派の対立が激しくなっている。 (Oil-Price Slump Strains Budgets of Some OPEC Members) (Winners and losers from oil price plunge) (OPEC Members' Rift Deepens Amid Falling Oil Prices)

 サウジ自身、政府財政の均衡点が1バレル86ドルに設定されている。サウジは国家収入の9割が石油の売上だ。現状の1バレル80ドル前半の水準が続くと、サウジの財政は赤字になる。自国の財政を赤字にしてまで、イランやロシアを敵視する戦略を採るべきなのか、サウジ王室の上層部で論争になっている。特に、国際政治力があるロシアと対立することへの疑問視が出ている。サウジは近年、ロシアや中国との間で、石油ガスの決済を元やルーブルで行う協定を結んでおり、露中が推進する決済の非ドル化に賛同している。サウジにとって露中は本質的に敵でない。サウジは対米従属で、米国が露中(特にロシア)を敵視するのに引っ張られている。 (Saudi's are on the verge of joining Russia in non-dollar Oil sales)

 原油安の戦略を行っているサウジのナイミ石油相は、原油相場が下がってもサウジの財政に大した影響は出ないと発言したが、これに対して他の王族から「原油安は財政に悪影響がある。ナイミはそれを認めるべきだ」との批判が出ている。 (Saudi Prince "Astonished" At Oil Minister's "Disastrous Underestimation" Of Effect Of Price Cuts)

 米国では、11月の中間選挙を前に原油が下がると、値上がりが続いてきたガソリンが安くなって国民の生活苦が緩和され、オバマ政権や民主党にとって追い風だと見る向きがある。しかし実のところ、サウジが誘導している原油安は、米国に大きな悪影響を与える。それはシェール石油(タイトオイル)に関するものだ。 (If The Oil Plunge Continues, "Now May Be A Time To Panic" For US Shale Companies)

 シェールの石油ガスは、マスコミで「米国を永久に石油輸出国にする革命的な存在」と喧伝されているが、油井・ガス井の寿命が一般の油田に比べて非常に短い数年しかなく、巨額の資金を集めて毎年採掘を続けないと短期間で枯渇してしまう。シェールの石油ガスの採算を維持するには、その前提として、今のような米連銀のQEによる超低金利と、1バレル100ドル以上の国際原油相場の維持が必要だ。 (◆シェールガスの国際詐欺)

 サウジが国際原油相場を80ドル台に低下させた現状が続くと、米国の多くのシェール油田が赤字になり、資金調達ができなくなってシェールのバブル崩壊が起きる。これは米国にとって困ったことだが、サウジにとっては良いことだ。米国では「シェール革命」が喧伝されるようになった後「米国はもう中東の石油を必要としない。サウジなどアラブ諸国を同盟国として優遇する必要もなくなった。テロを支援するサウジなどと縁を切り、軍事的にも中東から撤退すべきだ」という主張がよく発せられるようになった。サウジは、米国のシェールブームに迷惑し、早くシェールのバブルが崩壊すれば良いと考えてきた。サウジは、ロシアやイランを困らせるためと称して、シェールのバブル崩壊を引き起こすことを隠れた真の目的とした、陰謀含みの原油相場の下落策を行っているのでないかという指摘が出ている。 (Saudis Dump Oil To Increase Leverage Over U.S. Middle East Policies)

 サウジが原油価格を引き下げると米国のシェールのバブルが崩壊することは、米国の関係者も事前に気づいていたはずだ。しかし、米政界を席巻する軍産複合体やイスラエルも、シェールの革命が続いて米国の石油の中東依存度が下がり、米軍が中東から撤退せざるを得ない状況が訪れることを嫌がっていた。イスラエルは、自国の近傍に米軍が恒久駐留して衛兵として機能することを望んでいる。軍産イスラエルとサウジの利益は、シェールのバブルを潰すことで一致した。軍産イスラエルは、ロシアやイランを敵視する策も兼ねられるので、サウジが国際原油相場を下落させることを歓迎した。

 きたるべきシェールのバブル崩壊は、シェール石油ガス産業という、いくばくかの雇用を保持していた米国の産業を崩すとともに、米国の燃料費を再高騰させ、すでに実体経済がひどい状態である米経済にさらなる悪影響を与える。その一方で露中は、今回の件を機に、米欧から独立した国際エネルギー体制、国際経済体制の確立、決済の非ドル化に拍車をかける。全体として、米経済のバブル崩壊と世界経済の多極化が進む方向になる。

 先週から、世界的に株式相場が下落傾向にある。いよいよバブル崩壊が始まるのかもしれない。世界経済は正念場に来ている感じだ
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ロシアのシリア調停策の裏の裏

ロシアのシリア調停策の裏の裏

2017年2月3日   田中 宇


 今回も複雑多様な中東情勢。まずは本文執筆前の要約。アスタナ会議でシリア和平を仲裁したロシアが、驚きのシリア憲法草案を出した。クルドに自治付与の連邦制、クルド語とアラビア語の並列で母語に。イスラム法の優位を否定、大統領は権限縮小のうえ再選禁止。米国がイラクに押し付けた憲法に似た欧米風。アサド政権も、アラブなイスラム主義者も、イランもトルコも猛反対。これはたたき台です、最終案はシリア人全体で決めてくれと弁解しつつ対案を歓迎するロシア。シリア人や中東諸勢力が欧米型の案を潰して乗り越えるのを欧米に見せつけるのがロシアの目的??。 (Russia offers outline for Syrian constitution) (Sputnik Obtains Full Text of Syrian Draft Constitution Proposed by Russia

 ロシアは最近、シリアをめぐってイランと対立(を演出)している。ロシアがアスタナ会議に米国勢を呼ぼうとしたらイランが猛反対。露トルコが、ヒズボラなどシーア民兵を標的に「すべての外国軍勢力のシリア撤退」を要求したが、シーア側は激しく拒否。アサドに代わりうる亡命アラブ人指導者(Firas Tlass)をアスタナに招待したロシア。アサド・イラン・ヒズボラ対、ロシア・トルコ・サウジ・米国・イスラエルの対立構造か?。しかし、シリア現地の治安維持権はアサド・イラン・ヒズボラが掌握しており、たぶん変更不能。「国際社会」を代表してアサドイランを弱める役回りを演じて「うまくいきません」と示すのがロシアの意図??。 (Russia's knockout game in Syria

 イランのミサイル試射を機に、イラン敵視を強めるトランプ政権。イラン敵視の主導役をネタニヤフに丸投げして押しつけるトランプ。それらにつきあうロシア。しかしロシアは裏で、タルトスの露軍基地の百年租借契約をアサドと締結。テヘランでは露イラン外交515周年の友好イベント。ロシアは、アフガン、コーカサス、天然ガスなどについてもイランとの協調が不可欠。露イランは齟齬するが敵対しない、できない。ロシアのイラン敵視は、米イスラエルにつきあう演技。非現実的な構想に拘泥し失敗した以前の米国と対照的なロシアの現実主義。親クルド親イスラエル反イランなトランプのシリア安全地帯構想も、ロシアの動きと連動している。要約だけでどんどん長大化。毎回うんざりな中東。以下本文。

▼ロシアとイランは協調するふりして対立??。対立するふりして協調??

 1月23日から26日まで、カザフスタンの首都アスタナで開かれたシリア和平会議は、シリアのアサド政権と反政府勢力が内戦終結後のシリアの再建について初めて話し合った画期的な国際会議だった。これまで米欧国連主催のジュネーブ和平会議があったが、主催者の米国がアサド打倒に固執してアサド政権を呼ばなかったので交渉として成立していなかった。アスタナ会議はロシア主導(露トルコイラン共催)で、非現実姿勢に固執する米欧国連を呼ばずに開かれた。ロシアが米国に頼らず、イランやトルコと一緒に、米国がやらかした中東の殺戮や混乱を収拾する、まさに米覇権体制の行き詰まり・崩壊と「多極化」を象徴する出来事だ。 (Syrian opposition member: United delegation for Geneva talks not under consideration yet

・・・というと「田中宇の多極化予測がまたもや的中!!」みたいな感じだが、実はそうでない。むしろ逆に、軍産対米従属な「専門家」が言うような「無極化」の事態が、一枚下で展開している(もう一枚下は、また違うのだが)。アスタナ会議には14派のシリア反政府組織が出席してアサド政権側と交渉したが、14派の多くは、シリアに進出した露軍に投降してロシアの傀儡となった反政府勢力だ。サウジアラビアが食わせている「リヤドグループ」や、欧米の傘下にいるSFAは、ロシアから招待を受けたが参加していない。Jaish al-Mujahideenは、指導者がアスタナ会議に参加している間に、シリア現地の部下たちがアルカイダに皆殺しされた。傀儡は弱っちい。 (Al-Qaeda Forces Wipe Out Syrian Rebel Faction Engaged in Peace Talks

 アスタナ会議は、トランプの米大統領就任を待って開かれた。だが、プーチンがトランプ陣営をアスタナに招待したとたん、共催国のイランが米国の参加に猛反対し、仲間割れを起こした。トランプ陣営は招待を断り、不参加だった。 (Plenty of ghosts at the table in Astana

 ロシアは、アスタナ会議のシリア反政府勢力をそれっぽいものにするため、英雄的な役者を呼ぼうとした。ロシアが呼んだのは、アラブ首長国連邦に亡命しているタラス一族(Tlass)だった。タラス家はシリアの多数派のスンニ派イスラム教徒のアラブ人(アサド家は少数派のアラウィ派イスラム教徒)で、オスマントルコ時代の知事の家系だ。先代の独裁者アサド父の時代に、タラス家の先代が40年近くシリア政府の国防相を務めていたが、父が死に、独裁者が息子の今のアサドに代わった後、辞めさせられた。タラス家の息子の一人は、今もシリア軍の将軍をやっているが、一族の本体は11年の内戦勃発後に亡命した。 (Astana floored by Russian pick as Assad successor

 ロシアの読みは、多数派のスンニ派で高貴で治安維持経験があるタラス家なら、少数派のアラウィ派のアサド家の代わりをやれるし、スンニ派も文句を言わないだろうというものだ。だがこれにはアサド大統領と、アサド家を押し立ててシリアを傘下に入れ続けようとするイランが強く反対している。アラウィ派は広義のシーア派で、イランと宗教的な親密さがある。アサド家と結束し、多数派のスンニの台頭(=民主化)を抑えるのがイランの戦略だ。

 イランは、シリアの東側にあるが、シリアの西隣のレバノンでもシーア派のヒズボラが政治軍事台頭している。イランは、シリアをレバノンへの通路として使い、ヒズボラをテコ入れしてレバノンまで支配したい(レバノンは従来サウジの影響下)。シリアの大統領がスンニ派のタラス家になると、こうしたイランの野望が阻まれる。イランにとって、シリア内戦は、ISアルカイダというスンニ派武装勢力と、イラン・アサド・ヒズボラというシーア派(反スンニ)系との戦いだった。イランは、15年秋にロシア軍が進出する前から、イラクイランアフガンのシーア派民兵団やヒズボラを動員してシリアに行かせ、多くの戦死者を出しながらISカイダと戦ってきた。あとから来たロシアやトルコが今さら何言ってんだ、絶対撤退しないぞという決意だ。

 アサドの政府軍とイラン系軍勢は、内戦によって、ISカイダだけでなく、シリアのスンニ派全体を民族浄化(=難民化)する目的があり、内戦前にシリアの人口の7割だったスンニ派が、今や5割前後に減ったとされる。減った分の人々の多くは、難民としてトルコや欧州に移動した。 (Russia’s choice for Syrian leader signals break with Iran

 スンニ派のトルコは、隣国シリアでスンニが追い出されてシーアの支配地になると困る。シリアの最大野党(反アサド)だったスンニのムスリム同胞団は、エルドアン大統領のトルコの与党AKPと思想的に近い。昨年、トルコはロシア敵視をやめてプーチンに擦り寄り、ロシアを反イランの方向に引っ張り始めた。トルコは、シリアにおいて、アサドイランの権力を削ぎ、スンニ派難民をシリアに帰還させつつ、シリアのスンニ派の力を増強したい。これは、サウジアラビアやイスラエルの意図と同じだ。

 アスタナ会議を共催したロシアトルコイランは、非米反米的な多極型世界を代表する3国同盟のように見えながら、実はバラバラで内紛だらけだ。ほらみろ、多極化でなく無極化だ、米国覇権にまさるものはない、ガハハハハ。対米従属論者の高笑い。とはいえ、米国覇権はトランプによって急速に破壊されている。高笑いはやけくその発露だ。 (Russia, Iran and their conflicting regional priorities

▼ほとんど誰も賛成しない憲法草案をロシアが出す意図

 米国の話をする前に、ロシアの動きをよく見ると、内紛的でもバラバラでもない。「多極化」のアスタナ会議を一枚めくると露トルコイランの内輪もめ的な「無極化」の様相だが、さらにもう一枚めくってロシアの動きをよく見ると、再び多極化の様相に戻る。ロシアは、イランやアサドと対立しているように見せながら、その一方で、イランやアサドと協調している。 (Syrian government disagrees with Russia on Kurdish autonomy

 ロシアは、シリアの地中海岸のタルトスに昔から海軍基地を借りているが、最近、アサド政権との間で、租借契約を49年延長した。その後も25年ごとに自動更新する契約で、実質的に百年以上続く契約だ。ロシアが本気でアサドを外そうとしているなら、アサドと基地契約を結ばないだろう。たぶんアサドは、選挙を経ながら、今後もかなり長く大統領であり続けるだろう。 (Syria Russia and Turkey hand Assad a ‘win-win’ scenario

 イランに関しても、ロシアとイランが一緒にやっているのはシリアだけでない。アフガニスタンでは最近、ロシアとイランが一緒になってタリバンに接近し、米国傀儡のカブール政権を追い出しにかかっている。中央アジア諸国やコーカサスでも、露イランの協調が不可欠だ。ロシアとイランは天然ガスの世界的産出国で、この点でも談合がある。

 最近、ロシアがシリアにおいて、シリア政府軍と、イラン系シーア派民兵団に対し、シリア国内での軍の移動を凍結するよう命じたとデブカファイルが報じている。話の真偽は不明だが、ロシア軍がシリアの制空権を握っているのは事実だ。ロシアの命令は効力がある。シリア政府は、自分の国なのに、軍の移動をロシアによって制限されている。ロシアがこんな命令を発するのは、最近トランプの米国がイラン敵視を強め、プーチンにもイラン敵視に協力してほしいと要請し、プーチンは米国にいい顔をして見せるために、シリアでのイラン系勢力(シリア政府軍含む)に「しばらく動くな」と命じた、という話らしい。ヒズボラは怒っている。 (Russia freezes Syrian, Iranian military movements

 ロシアは、イランを裏切って米国に擦り寄ったか、と思えてしまうが、よく考えるとそうでない。シリアにおけるイランの軍事行動を抑止できるのはロシアだけだ。米国は、ロシアに頼むしかない。ロシアはそれを見据えた上で「俺達ならやれるよ」と言っている。米議会共和党やトランプ政権は、ネタニヤフと組んで、イラン敵視を強めようとしているが、本気でイランを抑止するなら、米議会がロシアを敵視したままなのはまずい。ネタニヤフは、一昨年あたりから親ロシア姿勢を強めている。2月中に訪米するネタニヤフは、米議会に対し、イラン敵視を効率よくやるためにロシアの協力が必要だと説得する可能性がある。 (Report: Hezbollah Rejects Moscow-Ankara-Brokered Syria Ceasefire Deal Over Turkish Demand for Withdrawal of All Foreign Fighters

 トランプは、中東の管理を、ロシアとイスラエルにやってもらいたい。そこにつなげる動きとして、まずイラン敵視を再燃させ、それをテコに、米議会にロシア敵視を解かせつつ、中東管理の主導権を米国から切り離そうとしている。フランスなどEUは、オバマが実現したイランとの核協定を守ると宣言し、トランプの新たなイラン敵視に同意していない。欧米の方が仲間割れしている。 (Russia-Iran Cooperation in Syria Continues With the Same Pace - Iranian MoD) (Saudi defense minister, new Pentagon chief discuss Mideast in 1st conversation

 ロシアは、アラブ諸国に対し、シリアをアラブ連盟に再加盟させるべきだと提案している(内戦開始後に除名された)。この提案は「シリアはイランの傘下からサウジなどアラブの傘下に鞍替えすべき」と言っているのと同じで、イランを逆なでしている。 (Russia calls for Syria's return to Arab League

 しかし、すでに書いたように、ロシアが本気でイランと敵対することはない。シリアにおいて、ロシア軍がシリア政府軍やヒズボラを空爆することもありえない。空爆したら、ロシアの最重要目的であるシリアの安定を、自ら崩すことになる。ヒズボラなどシーア派民兵団は、ロシアや米トルコなどがいくら圧力をかけても、シリアから出て行かない。彼らは、命をかけて勝ち取った影響圏を手放さない(ロシアに譲歩して部分撤退ぐらいはやる)。ロシアの、イランやアサドに対する最近の敵視は、米イスラエルに見せるための演技、茶番にすぎない。 (Peace talks: How Iran and Russia may come to blows over Syria

 茶番と言えば、冒頭に書いたロシアのシリア憲法草案も、米イスラエルに見せるための噴飯物の茶番だ。草案は、クルド人に大きな自治権を与えているが、これはシリアの中でクルド人以外、ほとんど誰も賛成しない。トルコもイランも反対だ。イスラム法の優位否定も、シリアのほとんどの勢力が反対だ。大統領権限の縮小は、アサドを擁立するイランが反対だ。皆に反対され、ロシア外相は「これはたたき台にすぎない。最終案はシリア人全員で決めるのが良い」と言っている。 (Russian draft serves as ‘guide’ for final Syrian constitution – MoD) (Lavrov: Russia’s draft of Syria’s Constitution sums up proposals of government, opposition

 クルドの自治拡大や連邦制、大統領権限縮小は、シリアを弱くて分裂した国にしておきたい米英イスラエルが昔から言ってきたことだ。ロシアの草案は、米国がイラクに押しつけた憲法に似ているとシリア国内から揶揄されている。ロシアは憲法草案を出すに際し、米国の傀儡のように振る舞っている。だがこれも、良く考えるとロシアは、米国に対し「あなたがたが気に入るような憲法草案を作ってシリア人に見せましたが、猛反対されてうまくいきません」と言えるようにして、シリア人、特にアサド政権が、もっと従来の憲法に似たものを出して法制化する「現実策」に道を開こうとしている。 (Why did Russia offer autonomy for Syria’s Kurds?) (Syrian Kurds: ‘Signs of Full Support’ from Trump White House in Islamic State Fight

 英国は最近、アサドがとりあえず続投するのを容認すると言い出した。フランスや米国も、アサド政権のシリアに様子見のための議員団を派遣している。トランプも、エジプト大統領との電話会談で「アサドは勇敢だ。私は彼に直接電話したいが、今の(米国の)状況ではできない(よろしく言っておいてくれ)」と語ったという(トランプ側は一応発言を否定)。アサドは国際社会から再び容認される傾向だ。こんな有利な状況なので、誰から圧力をかけられようが、アサドは自分の権限の縮小を容認しない。 (Trump to al-Sisi: Syria’s al-Assad is a Brave, steadfast Man (Beirut Report)) (UK accepts Assad could run for reelection, marking shift in Syria policy

 ロシアは、中東での新たな覇権国として、とりあえず従来の覇権勢力である欧米が好むようなものを、憲法草案やイラン敵視などの分野でやってみせて、それがうまくいかないことを公式化している。いずれ「しかたがないですね」と言いつつ、イランやアサドがシリアを牛耳るという唯一実現可能な策を少しずつ肯定していくと考えられる。ロシアの今の右往左往は、こうした落とし所を見据えた上での動きだろう。 (Russia: Syrian draft constitution includes elements from Kurds and opposition) (Can Russian diplomacy end the Syrian War?

 イスラエルは従来、イラン敵視策の主導役を米国にやらせ、イスラエル自身は米国の後ろに隠れてきた。だがネタニヤフは最近、このような従来のリスク回避策を放棄し、米欧とイランの核協定の破綻や政権転覆を扇動する発言を強めている。イスラエルの上層部からは、こうしたネタニヤフの動きへの批判が出ている。トランプがイラン敵視をネタニヤフに任せる「敵対策の丸投げ・押しつけ」をやりそうだという私の分析の根拠は、このような最近の動きにある。トランプが、イスラエル右派とつながった若い娘婿のクシュナーをやたらと重用する異様さも、これで説明がつく。 (Israeli security establishment to Netanyahu: Don't touch Iran deal) (uspol For hardline West Bank settlers, Jared Kushner's their man

 このトランプのやり方も、米国の覇権放棄である。短期的に、イスラエルは米国を牛耳る感じになるが、長期的には、米国が抜けた後の中東において、イスラエルは単独でイランやイスラム世界からの敵意の前に立たされる。いや、正確には単独でない。イスラエルは、ロシアに頼ることができる。米国からはしごを外されたイスラエルがロシアにすがるほど、ロシアの中東覇権が強まる。私の最近の懸念は、これと似た構造として、トランプが、中国との敵対策を、日本の安倍に丸投げ・押しつけしてくるつもりでないかという点だ。これについては、もう少し情勢を見てみる。

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よみがえる中東和平

よみがえる中東和平

2017年5月13日   田中 宇


 米国のトランプ大統領が、5月20日から、就任後初の外遊を行う。行き先は、サウジアラビア、イスラエル(パレスチナ)、バチカンなどだ。イスラム教、ユダヤ教、キリスト教という3大宗教の主導役の国々を歴訪するわけで、世界に対して宗教的な寛容を求めたものの抽象論に終わった前任のオバマ大統領と大差ないようにも見える。だが、トランプ政権のこれまでの動きも含めて詳細に見ていくと、トランプがパレスチナやアラブ諸国と、イスラエルとの和解(=中東和平)、パレスチナ国家の再生について、1993年のオスロ合意以来の画期的な、具体策の推進をやろうとしているのがわかる。 (TRUMP’S TOLERANCE TOUR: FIRST TRIP TO RIYADH, JERUSALEM AND ROME) (PA official: Abbas agrees to three-way summit with Netanyahu, Trump

 中東和平は、オスロ合意で、イスラエルが西岸(ヨルダン川西岸)とガザの占領と封鎖をやめて、西岸とガザにパレスチナ国家を創設する見返りに、アラブとイスラムの諸国がイスラエルと和解し、イスラエルとパレスチナという2つの国家が聖都エルサレムを東西に分けあって首都にしつつ共存する「2国式」が決定された。だがその後、パレスチナ国家やアラブ諸国が表向きイスラエルと和解しつつ裏で敵視する懸念や、いくつかユダヤ教の聖地がある西岸をイスラム教徒に渡すなという右派の主張がイスラエルを席巻した。イスラエルは、表向き中東和平に賛成だが本音は反対するようになり、西岸の占領やガザの封じ込めを続け、イスラエルと西岸の境界線(国境)から西岸の内部に向けて櫛の歯のように侵食する形でいくつもユダヤ人入植地(住宅地)が建設され、和平の実現が頓挫している。 (Map of Israeli settlements, as of 2014

 西岸の主要道路など(C地区)をパレスチナ自治政府に渡さず占領し続けるイスラエル軍は、主要道路にいくつも検問所を設けてパレスチナ人の往来を妨害し、パレスチナ国家と人々の生活を機能不全に陥れている。イスラエル政界は、中東和平を妨害すべきと考える右派・入植活動家に席巻され、右派がパレスチナ過激派を扇動してやらせるテロの結果、イスラエル国民は恐怖心を植え付けられて和平を嫌うようになり、和平を推進した左派は影響力を失った。右派や中道派の政治家の中にも、シャロン首相、オルメルト首相、リブニ外相といった、中東和平を進めた方がイスラエルの国益になると(途中から)正しく考え始める政治家もいたが、彼らはスキャンダルなどで排除された。 (パレスチナの検問所に並ぶ) (Area C (West Bank) From Wikipedia) (イスラエルの清算

 アラブ諸国は02年に、イスラエルが西岸から撤退してパレスチナ国家の機能不全を解消したら、アラブ諸国がイスラエルを国家承認するという、オスロ合意のシナリオを再確認する「アラブ提案」を発表し、パレスチナ自治政府(PA)とイスラエルの交渉再開を求め続けているが、イスラエルに拒絶されている。08年に首相だったオルメルトは、西岸の数カ所の主要入植地(西岸の総面積の約7%、西岸入植者人口の75%が居住)をイスラエル領として併合する代わりに、西岸に隣接するイスラエル領の農地などをパレスチナ国家に割譲し、その他の入植地を撤去することなどを柱とする「オルメルト提案」をまとめ、パレスチナのアッバス大統領と交渉に入った。だが、話がまとまる直前にオルメルトは汚職で失脚した。 (revealed: olmert's 2008 peace offer to Palestinians) (Abbas says Olmert was 'assassinated politically as Rabin was assassinated materially' for pursuing peace

 その後、現在まで首相を続けるネタニヤフは、表向き「中東和平を進めたい」「いつでもアッバスと会う準備がある」と言いつつ、10年以来7年間、アッバスと面談せず、逃げ続けている(2人が最後に会談したのは、大統領になって間もないオバマが、2人を訪米させて会談させた時だ)。今後、世界から注目されつつアッバスと会ったら、ネタニヤフは違法(オスロ合意違反)な入植地建設や西岸占領をやめると約束せざるを得なくなる。そんな約束をしたら、国内の右派から反逆され、連立政権が崩れて失脚する。オバマ政権の米国が、軍産複合体に席巻されて中東和平を進められないので、アッバスは15-16年に、EUやロシアに仲裁を頼み、ネタニヤフとの交渉を再開しようとしたが、ネタニヤフは逃げ続けている。 (Abbas: I wanted to meet Netanyahu in Moscow, but he ‘didn’t show up) (NETANYAHU AND ABBAS MEET FACE-TO-FACE AND SHAKE HANDS FOR FIRST TIME IN FIVE YEARS) (Netanyahu 'clears schedule' for Abbas meeting

 軍産の一部であるイスラエル右派の恫喝を受けている米国のマスコミや中東専門家、外交官といったエスタブな人々は、中東和平が頓挫しているのはアッバスが頑固だからだとする、インチキな「別の説明」を流布する「ニセニュース」の手法で、本質を隠してきた(本質を上手に隠す新手の説明を発案できる者が出世する)。オバマ政権で国務長官だったヒラリー・クリントンら、米政治家の多くは、軍産イスラエル右派が醸成するニセの構図に立脚し、中東和平を進めるふりをする演技を続けた(軍産に支持されて当選を目指した)。当然ながら、事態は転換しなかった。 (Netanyahu wary of Trump's interest in solving Israeli-Palestinian conflict

▼棚上げされていた決定打「オルメルト提案」を引っ張り出して再利用する

 昨秋の米大統領選挙で、トランプが勝てた一因は、彼がクリントンよりも大胆にイスラエル右派のシナリオに乗ったからだった。クリントンは、2国式の中東和平を進めるふりをして頓挫させ続けるエスタブのシナリオに乗っていたから「2国式が望ましい」「東エルサレムを首都とするパレスチナ国家ができた後、駐イスラエル米大使館をテルアビブから(西)エルサレムに移す」といった建前論を主張し、イスラエル右派・入植地の批判を受けていた。反エスタブなトランプはシナリオを無視して「(イスラエルが西岸を併合する)1国式でもよい」「大統領になったらすぐ米大使館をエルサレムに移す」と述べ、イスラエル右派を資金援助する米財界人シェルドン・アデルソンらの支持を受け、当選した。 (Trump ‘still reviewing’ embassy move to Jerusalem – White House) (トランプ台頭と軍産イスラエル瓦解) (中東諸国の米国離れを示す閣僚人事

 だがトランプは、大統領就任後、微妙に姿勢を転換した。彼は、急いで中東和平を推進することを強調し始め、アッバスとネタニヤフの会談と交渉再開を実現したいと繰り返し言うようになった。1年ぐらいの間にパレスチナ国家の再生(=オルメルト案などに基づくイスラエルの占領終了、東エルサレムへの首都移転)にメドをつけ、その後、選挙公約だった米大使館の西エルサレム移転をやろうとしているようだ。 (Trump drops pledge to move US embassy to Jerusalem) (Trump to Ask Abbas: Commit to U.S. Initiative on Rebooting Israeli-Palestinian Peace Process

 トランプは、パレスチナ国家に敵対されかねないイスラエルの懸念を払拭するため、パレスチナ(西岸とガザ)に隣接するヨルダンとエジプトを動かして、イスラエルとの協調を進めさせ、ヨルダンが西岸の、エジプトがガザの面倒を見る後見人国になるかたちで、イスラエル、ヨルダン、エジプトの3か国が協力して和平実現後に地域の安定を実現する体制を作ろうとしている。3月から4月にかけて、3か国の間の個別の話し合いや、ネタニヤフやエジプトのシシ大統領、ヨルダンのアブドラ国王が相次いで訪米し、トランプと会談した。 (Can Trump revive the Arab Peace Initiative?) (Egypt’s Sissi said set to present Trump with Mideast peace plan

 ヨルダンやエジプトによるテコ入れがない中で、イスラエルが西岸とガザに対する占領や封じ込めをやめてパレスチナ国家を機能させると、パレスチナはイスラエルを敵視する過激派の国になりかねない(だからイスラエルは、一度は了承した2国式をその後拒絶してきた)。ヨルダンやエジプトが、イスラエルと協力してパレスチナ国家の過激化を防ぐやり方なら「合邦」に近い方式であり、2国式が機能しうる。 (イスラエルのパレスチナ解体計画) (トランプの中東和平

 5月3日にはパレスチナのアッバスも訪米してトランプと会った。アッバスは後見人国のヨルダン、エジプトに立ち寄ってから訪米しており、上記の3か国体制が機能していることが見て取れる。訪米したアッバスはトランプに、08年のオルメルト提案(前出)を基礎にしてネタニヤフと交渉したいと提案した。 (Abbas Told Trump: Peace Talks Should Resume From Where 2008 Negotiations With Israel Left Off

 オルメルト提案は、パレスチナ問題のすべての問題に具体的な解決を与え、パレスチナが国家機能を復活できる内容だ。すでに書いた土地交換によるパレスチナとイスラエルの恒久国境確定のほか、東エルサレムの神殿の丘(上部がモスク、西側面がユダヤ聖地の嘆きの壁)など共通の聖地((右派のユダヤ教徒がイスラム教徒の聖地を侵害したがる場所)に関し、イスラエル、パレスチナ、ヨルダン、サウジ、米国からなる国際委員会の管理下に置くことや、西岸と東隣のヨルダンの間にあるヨルダン川流域地帯に対するイスラエルの軍事占領をやめて撤退すること、パレスチナ国家に一体性をもたせるため西岸とガザをつなぐ高速道路を作る(土地はイスラエル領のままだが管理はパレスチナが行う)ことなどが盛り込まれている。 (★必見★オルメルト提案の地図) (Haaretz Exclusive: Olmert's Plan for Peace With the Palestinians

 ネタニヤフが、アッバスと会い、オルメルト提案を実現することに了承し、実際に実行すれば、中東和平が実現する。トランプは、5月22-23日にイスラエル・パレスチナを訪問する際、自らが仲裁し、アッバスとネタニヤフの7年ぶりの和平会談を開こうとしている。 (TRUMP SAYS HE WILL LAUNCH NEW MIDDLE EAST PEACE PROCESS) (‘Maybe it’s not as difficult as people have thought’

▼アラブをけしかけて和平提案させ、ネタニヤフに飲ませるトランプ

 ヨルダンやエジプトの外側には、サウジアラビアを筆頭とするアラブ諸国(アラブ連盟)がある。すでに書いたように、彼らは、イスラエルが西岸入植地の建設を凍結し、イスラエル軍と入植者が撤退するなら、アラブ諸国がイスラエルと和解するという、02年のアラブ提案を中東和平の基本的なシナリオにしている。アラブ提案に呼応して、イスラエルがオルメルト提案を出しており、両提案は中東和平を前進させる両輪となっている。 (Arab Peace Initiative From Wikipedia

 トランプの大統領就任後、アラブ諸国は、イスラエルがアラブ提案を受け入れるよう、あらためて動き出した。3月末には、ヨルダンの死海のほとり(イスラエルが占領する西岸の対岸)でアラブサミットを開き、それまでのようにイスラエルを非難するのでなく、友好的な態度でイスラエルに和平への呼応を呼びかけた。当初、これはアラブ諸国独自の動きと感じられたが、最近のトランプの動きを見ると、トランプがサウジ、ヨルダン、エジプトなどに働きかけた結果、具現化したと考えられる。 (Arab Leaders Ready to Work With Trump on Mideast Peace Deal

 5月20日からの初外遊で、トランプはまずサウジアラビアの首都リヤドに行く。トランプの訪問が決まった後、サウジ国王は、ヨルダン、エジプト、パレスチナ、イラク、モロッコ、パキスタンなど、アラブとイスラムの21の諸国の首脳に招待状を出し、サウジを訪問したトランプとイスラム諸国の首脳が、リヤドで中東和平やテロ対策などについて話し合うサミットを開くことにしている。おそらくこのサミットで、イスラム諸国は、アラブ提案とオルメルト提案を組み合わせたかたちで中東和平交渉を蘇生することを、トランプとイスラエルに対して提案し、トランプは喜んでそれを仲裁することを約束するだろう。 (SAUDI KING INVITES ABBAS TO RIYADH SUMMIT WITH TRUMP) (Middle East sees Trump as best man to bring peace

 このサミットはサウジ王政にとって、自分たちがアラブ諸国やイスラム世界の盟主であることを、覇権国の米国から認められるという、またとない権威づけになっている。サウジは、トランプに感謝しているはずだ。 (Trump's visit to redraw counterterror road map) (Trump’s Saudi summit offers a historic opportunity for region

 サウジでのサミットの2日間が終わった後、トランプは5月22日にイスラエルに飛ぶ。ネタニヤフに会ったトランプは、リヤドでイスラム諸国から中東和平の再開を提案されており、それに乗ってほしいとネタニヤフに提案するだろう。ネタニヤフがそれを了承すると、おそらくその日のうちに、エルサレムにおいて、トランプの仲裁・立ち会いのもと、ネタニヤフとアッバスの10年ぶりの中東和平の会談が開かれる。アッバスはネタニヤフに、オルメルト提案を今も有効なイスラエルの正式提案としてほしいと求めるだろう。おそらくトランプもアッバスの提案を高く評価する。 (WHAT ARE NETANYAHU’S TOP 5 FEARS FROM TRUMP’S VISIT?) (Arabic daily claims Trump to announce Netanyahu-Abbas talks during Israel visit

 エルサレムに来たトランプが提案するアッバスとの会談を、ネタニヤフが拒否する、もしくはいずれやりたいが今回は見送るとトランプに返答する可能性はある。しかしその一方で、トランプがイスラエルに行くことにしたのは、ネタニヤフがアッバスと会っても良いと返答してきたからでないかとも考えられる。うまくいく見込みがなければ動かないだろう。 (U.S. Ambassador Advises Israeli Officials: Trump's Serious About Peace, Work With Him) (Why Trump-Abbas meeting has rattled Netanyahu

 オバマまでの米国は、覇権国である米国が、イスラエルに和平の具現化を要求するかたちで和平交渉をしていた。イスラエルが米政界を牛耳っているので、要求がなまくらになる。オバマ自身は中東和平を進めたかっただろうが、クリントンら米政界の軍産イスラエル傀儡派に邪魔されて全く進まずあきらめた。対照的にトランプは、あらかじめアラブ諸国を煽っておいて、その中に飛び込み、アラブ諸国が強く提案してきたので、イスラエルもそれに乗るしかないだろうと言ってネタニヤフに圧力をかける。 (Trump’s Mideast plan starts taking shape) (TRUMP OFFERS A RARE CHANCE FOR A PALESTINIAN PEACE DEAL

 アラブだけでなく、プーチンのロシアも協力している。パレスチナのアッバスは5月3日に訪米後、5月11日にロシアのソチに行ってプーチンに会っている。その前日、プーチンはネタニヤフに電話している。トランプとプーチンは、中東和平の推進で協力し合っている。アッバスは、米露が表向き対立しつつ、裏では協調してやっていると指摘している。トランプの中東和平策は、米政界のイスラエル右派の傀儡勢力に妨害されるが、ロシアやアラブ諸国、EUや中国など、それ以外の世界中から支援される。 (Putin, Abbas to meet in Sochi to discuss Mideast settlement) (Netanyahu discusses peace process, Syria with Putin) (Mahmoud Abbas: 'There Is a Kind of Rapprochement Between Moscow and Washington'

 ここで問題になるのが、ネタニヤフがトランプの和平提案を受けるかどうかだ。対米関係を勘案すると、ネタニヤフはとりあえず提案に乗って中東和平交渉を再開しそうだ。だが、入植地建設を凍結すると、ネタニヤフの連立政権内の極右政党が、連立を離脱するぞと言い出す。オルメルト提案では、主要な数カ所以外の西岸入植地を撤去することになっているが、それらの多くは、強硬な入植活動家が絶対どかない覚悟で住んでいる。右傾化が激しいイスラエルのマスコミは、イスラエル当局が小さな入植地を一つ撤去しようとするだけで、何週間も何か月も大騒ぎする。 (入植地を撤去できないイスラエル

 入植地の撤去は非常に難しい。イスラエルの長期的な国益を考えると、世界からの反対を無視して西岸入植地の拡大にこだわるより、オルメルト提案に沿ってさっさとパレスチナ国家を機能させてやり、アラブやイスラム世界と和解し、国際社会での評価を高めた方がずっと良い。だが、テロの恐怖、宗教対立の感情論、(日本でも盛んな)歪曲されたインチキ安保論などを組み合わせた、右派軍産の一流のプロパガンダ戦略が浸透しており、理性的な思考が負けている。イスラエルの上層部の人々の多くは、事態の行き詰まりを知っている。彼らはトランプに頑張って欲しいと思っているはずだ。トランプは、中東和平の動きを阻止し続けてイスラエルの国益を長期的に損ねているイスラエル右派(入植者勢力)でなく、イスラエルの国益を重視して中東和平を進めたい勢力のために、和平をやろうとしている。 (Opinion Before Abbas Meeting: Will Trump Let Israel Continue to Dictate American Policy?

▼イランに対抗するため中東和平してアラブと組みたいイスラエル

 もしかすると、ネタニヤフは意外にも、トランプが提案する中東和平交渉に乗るかもしれない。そう思える根拠は「イランの脅威」にある。イスラエルと国境を接するシリアでは、内戦が終わりつつある中で、イランの勢力(革命防衛隊、ヒズボラなど民兵団)が今後もずっと居座り続ける流れができている。シリアのアサド政権は、内戦後のシリア政府軍の長期的な強化策のためにイラン系の軍勢にずっと駐留してほしいと要請した。イランは、イスラエルにとって最大の仇敵だ。そのイランが、イスラエル国境のすぐ北側までやってきて居座っている。 (露イランのシリア安全地帯策) (Putin & Trump discuss Iranians on Israel’s border

 シリアにおいては、ロシアがイランより強い後見人国だ。イスラエルはロシアに、シリアからイランを追い出してくれと要請し続けている。だが、シリアにおいて、ロシアは空軍、イランは地上軍を出す役割分担をしており、今後のシリアのテロ退治や安定化を考えると、ロシアはシリアにおけるイラン系の地上軍を頼りにしないわけにいかない。ロシアができるのは、イランに頼んでイスラエル国境の近くにヒズボラなどを展開しないでほしいとやんわり頼むことぐらいだ。 (Russian monitors for Syrian Golan - not Iranians) (Netanyahu turns to Putin for help containing Shiite influence

 トランプは、イランを敵視しているが、その一方でシリアでのIS退治を最優先課題にしている。トランプは、シリア北部のクルド人の軍勢(YPG)を加勢してISと戦わせているが、クルド軍は、同じくISと戦うヒズボラなどイラン系の軍勢とある程度協調しており、この面でトランプはシリアにおいてイラン系を強く敵視できない。 (Israel seeks U.S. backing to avert permanent Iran foothold in Syria

 シリアやレバノン、イラク、イエメンなど、中東各地で急速に影響力を拡大しているイランに、イスラエルが対抗するための、現時点で最良の方法は、ロシアや米国に頼むことでなく、サウジアラビアなど、同じくイランの台頭に悩まされているアラブ諸国との敵対をやめて結束することだ。イスラエルがアラブ諸国との敵対をやめるには、パレスチナ問題の解決が必要だ。アラブ側も、イランとの対抗のために、イスラエルがアラブに接近してくること、そのために西岸占領をあきらめてパレスチナ国家を機能させてくれることを歓迎している。 (Israel’s Next Big War) (Why Trump Will Disappoint the Saudis

 サウジなどアラブ諸国は、イランとの関係において、イスラエルに対する強みを持っている。アラブ諸国は、イスラエルとの悪い関係を放置したまま、イランとの関係を改善することもできるからだ。事実、3月のヨルダンでのアラブサミットは、開催直前まで、11年の内戦勃発後に除名したシリアのアサド大統領を、6年ぶりに再招待することを検討していた。アサドはイランべったりだから、アラブ諸国がアサドと和解すると、その先にあるのはアラブとイランの和解だ。 (ARAB NATIONS FACE STARK CHOICE: ISRAEL OR IRAN

 アラブサミットへのアサド再招待は、検討されたが見送られた。アラブ諸国は、イランとの和解を先送りすることで、イスラエルに対し、パレスチナ国家への妨害をやめてアラブと和解し、アラブ・イスラエル連合でイランの台頭に対抗する新体制を作ろうと提案した。この提案は期限つきだ。イスラエルが5月末の訪問でトランプが発する提案に乗って中東和平への道を再び歩み出さない場合、アラブ諸国はイスラエルとの関係改善をあきらめ、おそらく年内に、アサドをアラブサミットに再招待し、イランとの和解を開始する。アラブ諸国(とトランプ)は、イスラエルに対し、それでも良いのか、これが最後のチャンスだぞと言っている。 (Jordan will not invite Syria to attend Arab summit) (President Assad May Be Invited to Arab League Summit

 トランプ訪問時にサウジ国王が主催するイスラム諸国のサミットには、イランが招待されていない。これも、裏側には「トランプ提案に乗ってパレスチナ問題を解決し、一緒にイランに対抗しよう」という、サウジからイスラエルへの呼びかけになっている。加えてトランプ自身も、イラン敵視だけは朝令暮改せず、選挙戦中からずっと敵視を続けている。これも、イスラエルに対する配慮(おびき出し作戦)だろう。 (Saudi King invites Abbas to Muslim summit with Trump) (Trump’s itinerary shows bid for coalition to back peace, tackle Iran, fight terrorism

 ネタニヤフが、口だけトランプの和平案に乗り、実際の入植地建設の凍結や占領行為の中止をやらない場合も、アラブ諸国何か月か待った後、イスラエルとの和平に見切りをつけ、イランとの和解へとシフトするだろう。ここにおいて、これまでのイスラエルの無期限な引き伸ばし策は終わりを迎えている。 (The choice is not between Israel and Iran

 日本など天然の孤立国と異なり、イスラエルにとって、国際関係は、何より重要な政治課題だ。イランの軍勢がシリアのイスラエル近傍に居座っている状態で、アラブ諸国がイランやシリアと結託し、イスラエルがイランとアラブの両方から敵対された状態で、パレスチナ人を弾圧する「アパルトヘイト国家」として国際社会から敵視される傾向を強めることを看過するぐらいなら、アラブやトランプから提示される最後のチャンスを拾って中東和平を進め、アラブと結束してイランと対抗する方がましだと、イスラエル上層部の意外に多くの人々が思うようになり、入植活動家の暴力や恫喝を封じ込めていくのでないか、というのが(よく外れる)私の楽観論だ。 (Opportunity Knocks for Trump in the Middle East; Answering Will Be Hard

 トランプとアラブの提案に乗ってパレスチナ問題を解決すると、イスラエルは国際社会から非難されなくなる。イランやヒズボラやアサドも、イスラエルを攻撃・非難しにくくなる。イスラエルは、ゴラン高原をシリアに返すことも必要になるが、パレスチナ問題が解決し、アラブ諸国とイスラム世界がイスラエルを敵視しなくなると、イランやアサドとイスラエルとの相互の敵視も低下し、緊張が緩和され、シリアとの緩衝地帯としてイスラエルが占領していたゴラン高原を返還しやすくなる。中東で、従来と全く異なる政治風景が立ち上がってくる。

 トランプの中東訪問で、これらが実現するとは限らない。だが、今回書ききれなかったガザのハマスの5月1日のイスラエル敵視緩和の30年ぶりの新要綱の発表や、イスラエルの監獄にいるパレスチナ自治政府の有力若手指導者のマルワン・バルグーティが主導して1500人のパレスチナ人囚人が4月中旬から続けている獄中のハンストも、それぞれ分析してみると、トランプの中東訪問や、その後ありうるパレスチナの選挙、任期を大幅に超えて在任しているアッバスの後任を狙った権力闘争に照準を合わせて行われていることがわかる。ハマスやバルグーティは、トランプの訪問で中東和平が再開しそうだと考えているわけだ。 (In rare sign of amity, top Fatah official salutes new Hamas head) (Hamas' New Charter Is Aimed at Palestinians, Not Israelis) (Abbas fears the growing influence of Barghouti

 すでに延々と書いてしまい、読者の多くがもう読み疲れているだろうから、ハマスやバルグーティの話は書かない。中東問題は広範で複雑すぎる。私自身、書ききれないほどの広範囲で何日も分析し、新しい発見をするたびに2回記事を書き直した。途中まで書いた2つの没原稿をさらしておく。今回のテーマは、今後も激動があるだろうから、また書くことにする。 (没原稿1:新たな交渉に向かうパレスチナ) (没原稿2:パレスチナ和平の蘇生

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不透明な表層下で進む中東の安定化<2>

 

不透明な表層下で進む中東の安定化<2>

2017年3月12日   田中 宇

 昨年末、サウジアラビアが主導するペルシャ湾岸産油諸国の集まりGCCの6か国が、長年の敵だったイランと和解していく方針を決めた。昨年末にシリアのアレッポで、GCCが支援していた反政府組織が、イランが支援してきたアサドの政府軍に破れ、イランの勝ち、GCCの負けでシリア内戦の勝敗がついたからだ。サウジがイエメン内戦でシーア派のフーシ派に苦戦していることも理由だった。GCC内で比較的中立なクウェート(国民の4割がシーア派)が、イランとの和解に先鞭をつける役を担い、今年1月にクウェート外相がイランを訪問、2月初めにイランのロハニ大統領がクウェートとカタールのGCCの2か国を歴訪し、サウジとイラン、スンニとシーアの和解の過程が始まった。 (Iran’s Zarif holds talks with Qatari emir on bilateral ties, Mideast issues) (CNimp2 Iran welcomes China’s offer to help settle Tehran-Riyadh differences

 GCCはイランに和解を提案する際に「イランのイスラム革命を国外のシーア派に輸出しようとしないこと」を、和解の条件として出した。イランは、イラク、シリア、レバノン、イエメン、バーレーン、サウジなど、スンニが多数派ないし権力者であるアラブの国々に住むシーア派を宗教的・政治的に扇動し、イランを中心とする革命的シーア派の国際的な政治結束を強め、中東におけるイランの国際影響力を急拡大してきた。イランの急拡大は、サウジなどスンニ諸国の大きな脅威になっている。GCCは、イランが影響力拡大をやめるなら和解したいと申し出た。イランはこの条件を了承した。アラブ諸国の中心に位置するGCCとイランとの和解は、アラブとイラン、スンニとシーアの長年の対立を終わらせることになる。 (Turnaround in Saudi-Iranian Relations?) (Saudi foreign minister isits Iraq in first such trip for 27 years

 これで和解が進むと思いきや、話はそんなに簡単でなかった。イランは、サウジなどGCCとの和解に同意し、イスラム革命の輸出停止も了承した。だが、アサドを勝たせてシリアとレバノンを新たに傘下に入れつつあるイランは、急激に拡大する自分らの影響力を、GCCとの和解で削ぎたくない。イスラム革命の輸出停止を誠実に履行すると、イランは今の影響力拡大を自ら止めねばならない。 (No positive change in Saudi political approaches: Iran FM) (The foundations of dialogue between Iran and the GCC

 GCCとイランが和解すると、シリアでは、サウジなどアラブ諸国がアサド政権の存続を認める代わりに、イランは内戦終結後のシリアからヒズボラなどシーア派民兵団を撤退せねばならなくなる。ロシアもそれで良いと言っている。だが、イランにとって、それはダメだ。そのためイランは、新たに味方につけたレバノンのアウン大統領(マロン派キリスト教徒)に、過激な親イラン・親ヒズボラの言動をとらせ、アラブ連盟がアサドと和解しようとするのを妨害している。 (Fear in Lebanon of Hezbollah becoming like Iran’s Revolutionary Guard) (Kuwait welcomes Iran’s readiness for dialogue with the GCC

 イランは、いずれGCC(つまりサウジ)と和解するだろう。だがその前に、サウジやGCCが弱体化し、米国が中東での影響力を低下させ、ロシアも強硬策をやりたがらない中で、イランは、中東での影響力を全力で拡大したい。イエメン内戦をシーア派の勝利で終わらせたいし、バーレーンの民主化(国民の多数を占めるシーア派が、少数派なのに独裁政治を敷いている君主一族を反政府運動で追放する)も完遂したい。サウジ東部のシーア派住民にも、最大限の自治権を取らせてやりたい。IS(スンニ派テロ組織)を退治した後のイラクで、多数派であるシーア派の統治を確立させたい。サウジとイランの和解話は、イランの覇権拡大欲によって、先延ばしにされている。 (The choice is not between Israel and Iran) (Bahrain Moves to Dissolve Major Opposition Group

 こんな状況下で、意外なところからサウジの助っ人が登場した。それはイスラエルだ。イスラエルは最近、サウジなどアラブ諸国に「結束してイランの脅威に対抗しよう」と言いつつ急接近している。イスラエルとアラブ諸国で、ロシア敵視のNATOのような法的にガチガチのイラン敵視同盟を作ろうという構想まである。サウジは、イランに勝てないと思ったから和解を提案している。いまさらイスラエルに言われても、本気でイランとの敵対をやり直したいとは思わない。イスラム教徒として、エルサレムを侵害するイスラエルと同盟するのはタブーでもある。イスラエルもそれを知りつつやっている。 (Iran Troubled by Signs of Emerging Israeli-Arab Reconciliation) (Leading Saudi Journalist: Arab NATO Must Be Formed To Confront Iran

 イスラエルの目的は、イラン敵視の中東版NATOを作ることでなく、サウジに急接近することで、イランに脅威を感じさせ、サウジをイスラエルに取られるぐらいなら早くサウジと和解しようと思わせ、イランがイスラエルの仇敵であるヒズボラなどへのテコ入れを抑止するよう仕向けることだ。イスラエルは、オバマ以来、米国の後ろ盾が急速に失われていることを知っている。トランプは、親イスラエルだが、米国の覇権を壊しており、イスラエルが米国に頼れない状況を加速している。イスラエルは、イランとサウジ=アラブの両方と和解する必要がある。 (Hezbollah and Hamas don't seek clash with Israel) (As US pressures Iran, parallel tensions grow between Israel and Hezbollah

 イスラエルのアラブ接近で、イランも対抗してアラブに接近し、アラブを仲介にイスラエルとイランが和解する。そのような展開になれば中東は幸運だ。そうした展開を阻止したい奴らが大きな戦争を起こすように動いて成功すると、逆にハルマゲドンになる。最近、イスラエルとヒズボラが敵対を強め、今にも戦争を始めそうな感じを醸成している。これは目くらましだと考えられるが、そうでない場合は危険だ。ヒズボラは「イスラエルの秘密の核兵器開発施設がどこにあるか把握しており、いつでも攻撃できる」と脅している。 (Hizballah lists targeted Israeli “nuclear sites”) (Israel remoes Lebanon border cameras

▼アラブ連盟のアサド招致は延期

 前回の中東記事を書いた後、依然として中東情勢は不透明な状況が続いている。米国のトランプ大統領はこれまで、ロシアと和解して一緒にシリアの安定化(IS退治)に取り組む姿勢をとっていたが、最近、それを転換するような言動をとっている。前回の中東記事の末尾に書いた、アサド政権に化学兵器使用の濡れ衣をかけて国連安保理でシリア制裁決議案を米英仏で出した件が、その象徴だ。ロシアと中国は2月28日、この決議案が米国の濡れ衣策であるとして拒否権を発動し、葬り去った。 (不透明な表層下で進む中東の安定化) (Russia, China block anti-Syria UNSC resolution

 その関連で、米国がサウジアラビアなどアラブ諸国に圧力をかけ、アサド政権との和解を妨害したと考えられる事態も起きている。アラブ連盟は、3月末に開くサミットに、11年から関係断絶していたシリアのアサド政権を再招待することを検討していた。前回中東のことを書いた2月末の時点では、アサド招待への流れがしだいに強くなっており、このまま実現するのでないかと感じられた。3月7日には、アラブ内でも親イランなシーア派主導国イラクの外相が、アサド招致を強く提唱した。 (Iraq calls for Syria’s rejoining Arab League after years of exclusion) (Egyptian MPs call for Syria’s return to Arab League) (The Arab Summit may bury hatchet with Assad

 アサドの再招待は、連盟内で最もアサド敵視が強いサウジアラビアと、アサドを和解することが目標だ。アサドの背後にはシーア派のイランがいる。昨年末以来の、サウジ(GCC)がイランとの和解に動いていることの一環と考えられる。アサドとサウジの和解は、イランとサウジ、スンニとシーアに和解につながる。和解を演出するのはプーチンだ。エジプトやヨルダンといった連盟内の親露諸国もアサド再招待を支持している。米国は関与せず、ロシア主導で中東の和解が試みられている感じだった。しかし結局、アラブ連盟は3月7日外相会議で、アサド招致は時期尚早なので今回見送ることを決めた。 ( President Assad May Be Inited to Arab League Summit – Israeli Media) (Syria will not take part in the next Arab Summit, says Arab League Secretary-General) (Arab situation not suitable for Syria's return to Arab League, says chief Aboul-Gheit

▼ネタニヤフもエルドアンもモスクワ詣で

 トランプ政権は、トランプ自身の対露和解姿勢が、政権内の軍産系の勢力に阻まれ、ロシア敵視策に転換している感じだ。だが、中東の国際政治の現場では、ロシアの重要性が増大する一方だ。3月9日にはイスラエルのネタニヤフ首相が、10日にはトルコのエルドアン大統領がモスクワを訪問し、それぞれの国益にとって重要な安全保障の案件で、プーチンにお願いをしている。 (Two Mid East leaders make no headway with Putin

 ネタニヤフは、シリアからヒズボラや革命防衛隊などイラン系の民兵団が出て行かないことがイスラエルの国家安全に脅威となっているので、ロシアのちからでイラン傘下の勢力をシリアから追い出してほしいとプーチンにお願いした。エルドアンは、シリア北部でクルド人の支配力が増大し、米国はクルド民兵(YPG)にどんどん武器を渡し、米軍の顧問団もクルド軍のもとに派遣して、ISの「首都」であるラッカを攻略し、ロシアもクルドに甘いが、YPGなどクルド勢力はトルコにとって大きな脅威となる「テロ組織」なので、ロシアはクルドと仲良くしないでほしいと言いに行った。トルコは米国にも以前から苦情を言っているが、ほとんど無視されている。シリアの問題は、米国でなくロシアに頼まないと動かない状態だ。 (HEZBOLLAH WILL LEAVE SYRIA WHEN CONFLICT IS OVER) (Three-Way Contest for Raqqa to Shape Mideast

 ロシア政府は、ヒズボラなどイラン系の軍事勢力に対し、シリア内戦が終わったらシリアから出て行くよう求めている。だがこれは、イスラエルを安心させるための「口だけ」の要請だ。実際には、ロシアが何を言っても、イラン系勢力がシリアから出て行くことはない。シリア政府軍は内戦で大きく疲弊しており、アサド政権は、イラン系勢力の軍事支援がないと、ISやアルカイダを退治した状態でシリア国内の治安を守っていけない。 (The west to Russia: you broke Syria, now you fix it

 イラン系軍事勢力は、少なくともシリア政府軍が強さを復活するまでの今後数年間、シリアの安定維持に不可欠な存在になっている。シリアの安定を望んでいるロシアは、ヒズボラなどイラン系勢力を無理やりシリアから追い出そうとしないはずだ。イスラエルは、自国に隣接するシリアがイランの傘下に入ったままの状態、自国のすぐ隣までイランの軍事勢力が迫っている状態で、今後の米国の中東撤退に対応し、シリアやイランとの和解過程に入らねばならない。 (Russia did not give Israel green light to strike Hezbollah in Syria: Kremlin

 ヒズボラの故郷で、イランの隣のレバノンでは、昨秋から大統領をしているマロン派キリスト教徒のミシェル・アウンが、最近、イランやヒズボラを支持称賛し、イスラエルを敵視する表明を繰り返している。レバノンは、シーア派35%、スンニ派25%、マロン派20%のほか、ドルーズ派、ギリシャ正教徒などが入り交じる多民族国家で、イランやシリアがシーア派をテコ入れし、サウジがスンニ派をテコ入れ、旧宗主国フランスやイスラエルがマロン派をテコ入れして、内戦と和解を繰り返してきた。レバノン国軍の兵士の多くはマロン派だ。現在の最強の軍事勢力は、国軍でなくシーア派のヒズボラだ。ヒズボラは、軍事部門(民兵団)と政治部門(政党)の両方の機能を持っている。 (A fragile Arab consensus: Michel Aoun and the road to the Arab summit

 かつてサウジの影響力が強かった時は、スンニとマロン派が組み、イランやシリア傘下のシーア派と対立していた。だがシリア内戦がイランにテコ入れされたアサドの延命で終わり、米国の後ろ盾が失われてサウジが弱まる中で、レバノンではシーア派のヒズボラの軍事力・政治力が増大している。マロン派は、スンニと組むのをやめてシーアと組むようになった。これが、アウンのイランやヒズボラ支持の背景だ。 (Saudi Arabia to appoint ambassador to Lebanon: president's office

 イスラエル諜報界によると、レバノン国軍は、すでにヒズボラの指揮下に入っている。06年の前回のイスラエルとレバノン(ヒズボラ)の戦争では、レバノン国軍は、兵舎にこもっているだけの傍観者だったが、次にもし戦争になったら、その時には国軍はヒズボラと一緒にイスラエルと戦うだろうと予測されている。 ('Lebanese army is Hezbollah unit') (Israeli Security Officials: Lebanese Army Will Fight Alongside Hezbollah In Next War) (ヒズボラの勝利

 アウンは昨秋、大統領に就任した後、今年1月にサウジを訪問してサルマン国王に会い、支持を取り付けた。だがその後、サウジからの返礼としてサルマン国王がレバノンを訪問しようとした矢先に、アウンはヒズボラやイランへの礼賛を強めた。イランのライバルであるサウジは、アウンの一連の発言を嫌い、予定されていた国王のレバノン訪問をキャンセルした。このような展開も、先日のアラブ連盟での、サミットへのアサド招致のとりやめ決定の理由になったと考えられる。 (Saudi king cancels Lebanon trip after Aoun defends Hezbollah weapons

 シリアだけでなくレバノンをも傘下に入れたイランは、できるだけ手間をかけずにレバノンを支配したい。そのためにはレバノンで、シーア派(ヒズボラ)が主導しつつスンニ派やマロン派の政治組織とも敵対を避けて協調する体制を構築するのが良い。アウンがヒズボラやイランを礼賛し続けることは、サウジに、アウンとは協調できないと思わせてしまっており、その意味で失策だ。

 しかし、さらに深く考え、もしアウンの強いヒズボラ・イラン支持の表明が、イランの意図的な戦略に基づくものだとしたらどうだろうと考えると、それは、冒頭の要約に書いたような、イランがサウジとの和解を、中東におけるイランの影響力をもっと強めてからやりたい、それまでは敵対を保持しておきたいと考えたからだと推測できる。いずれ、イランとサウジは和解し、アラブ連盟はサミットにアサドを再招待する。だがその時には、中東におけるイランの国際覇権が今よりもっと強くなっているだろう。

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中東の覇権国になったロシア(1)

中東の覇権国になったロシア(1)

2018年2月11日   田中 宇


 1月20日、トルコ軍が、南隣のシリアに侵攻した。内戦後のシリア北部に自治区(準独立国)を作ろうとしているクルド人の武装勢力(YPG)を弱め、アフリンとマンビジという2都市から追い出して2都市でのクルド人自治を廃止し、代わりにトルコにいるシリア難民(アラブ系)を移住させるのがトルコの目標だ。シリアのクルド人は、トルコ国境沿いに東西に長く点々と住んでおり、以前から勢力が強かったユーフラテス川の東岸だけでなく、アフリンとマンビジがある西岸にも占領(自治、分離独立)を拡大しようとしている。トルコは、この2都市からクルド人の軍事行政勢力を追い出すことで、シリアにおけるクルドの自治領域をユーフラテス東岸のみに限定しようとしている。 (Is US bailing on Syrian Kurds?

 シリア内戦は、米国(軍産、サウジ)が、育てたISやアルカイダを使ってアサド政権を倒そうと2011年から始めたが、結局、ロシアやイランに加勢されたアサドがISカイダを倒して終結し、後始末の段階に入っている。米国では、軍産がISカイダを支援してきた一方、非軍産的だったオバマや、反軍産なトランプは、米軍を動かしてISカイダを退治しようとしてきた。 (露呈するISISのインチキさ

 シリアの総人口の約1割を占めるクルド人は、内戦後の自治(準独立)を勝ち取ろうと、内戦開始後、最初はアサドの政府軍と協力してISカイダと戦い、その後は、オバマやトランプ傘下の米軍に協力してISカイダと戦ってきた。アサド政権は、クルド軍がISカイダと戦っていることを評価し、2012年に、トルコ国境に近いアフリンなど3つの町を、クルド人の自治都市と認定している。その後、最近になってトランプがクルド軍(YPG)に大量の兵器をわたし、クルド人の支配地域が、シリア北西部のイラク国境からトルコ国境までの広い地域に拡大しそうだった。そこに今回、クルドを敵視するトルコがまったをかけた。 (シリアをロシアに任せる米国) (Russia Accuses US Of Carving Out "Alternative Government" In Syria As Mattis Says No Longer Focusing On Terrorism

 トルコは、シリア内戦の前半、米諜報界やサウジが供給する武器や資金、新兵をISカイダに供給する兵站役を担っていたが、15年にロシアがアサドを支援して参戦し、内戦の形勢が逆転した。これを受けてトルコは16年に親ロシアに転向し、ISカイダを武装解除し、トルコ国境に接するシリア北西部の町イドリブ(アフリンの南隣)に結集させて「生かさず殺さず」で監視する役割に転じた。 (ロシア・トルコ・イラン同盟の形成

 トルコは、国内(人口の2割)と近隣諸国(シリア、イラク、イラン)のクルド人が結束して分離独立していくことを恐れ、内戦後の自治獲得をめざすシリアのクルドを敵視している。トルコは、ISカイダ支援時代、ISカイダにクルドとの戦いをやらせていた。ロシアが参戦しISカイダが弱まると、こんどはロシアに頼ってクルド潰しを画策した。トルコは昨夏、ロシア側との会合で、トルコ軍をシリアに侵攻させ、クルド人をアフリンなどから追い出すことに関し、ロシアの同意を得ようとした。ロシアは、アサド政権のシリア統治をトルコが了承することを条件に、トルコ軍のアフリンなどへの侵攻を認めた。 (Why is Russia helping Turkey in Afrin?

 この密約の後、ロシアはまず、アフリンなどをクルドの自治領からアサド政権の統治下に戻すことで、トルコの侵攻を招かずに、トルコがある程度満足する事態を作ろうとした。ロシアはクルド自治政府に、アフリンなどへのシリア政府軍の駐留を認めてアサドと協調してくれないかと要請した。だが、自治獲得の目標に固執するクルド人は、ロシアの要請を拒否した。 (Is US bailing on Syrian Kurds?

 その後、今年に入って米トランプ政権が、シリアの対イラク国境の警備をクルド軍(が率いる軍勢)に任せる戦略を示唆し始め、1月18日に正式発表された。これは米国が、イラク国境からトルコ国境までのシリアの広範囲でのクルド人の自治(シリアからの事実上の独立)を支持したことを意味する。この手の宣言は本来、アサド政権や、その後見役の露イラン、近隣のトルコやイラクに相談して決めるべきことだ。この米国の独断での内政干渉的な宣言を、アサドや露イランが批判したが、最も怒りをあらわにしたのはトルコだった。トルコは、対米関係やNATOの結束を破壊することをいとわず、シリアに侵攻した。トランプの宣言はトルコにとって、侵攻の口実を作るゴーサインとなった。 (Washington Widens the War in Syria by Provoking Turkey

 トルコ軍の侵攻を受けたクルド人は窮地に陥った挙句、アサド政権に対し、アサド政府軍のアフリンなどへの駐留を認めるから、トルコ軍を撃退してほしいと泣きついてきた。事実上の自治返上である。現在、トルコ軍はアフリンの中心街を包囲している状態だが、今後、アサド政府軍のアフリン進駐、クルドのアフリンに関する正式な自治返上と引き換えに、トルコ軍は撤退していくと予測される。クルド人の自治地域は、ユーフラテス川の東岸のみに再縮小する。(私が事態を読み解けていない部分があると、違う展開になる)。 (Kurdish-run Afrin region calls on Syrian state to defend border against Turkey) (Kurdish Leaders Implore Assad To Defend Afrin From The Turks

 シリア上空は、ロシアが制空権を持っている。ロシアがその気になれば、侵攻したトルコ軍を空爆できた。だがロシアは傍観した。ロシアは、トルコの侵攻を容認した。アフリンには、クルド自治政府との連絡役としてロシア軍の顧問団が駐在していたが、トルコ軍の侵攻とともに撤退した。クルド側は、トルコ軍の侵攻に何も反撃せず撤退したロシア軍を批判したが、ロシア側は、クルドが自治に固執してアサド政権との協力を拒んだからこんな結果になったのだと静かに言い返した。アサド政権を支援してきたロシアは、トルコ軍の侵攻によって、それまで自分たちが言っても聞いてもらえなかったアフリンなどでのクルドの自治返上を実現できた。アサドは、ますますロシアに感謝し、喜んでロシアの傀儡になっている。ロシアのシリア支配が盤石になっている。 (Kurdish militia repels Turkish Afrin invasion amid continuing Turkish air blitz) (Russia builds four new air bases in Syria, deploys another 6,000 troops

 トルコ軍のアフリン侵攻の同日、アフリンの南にあるイドリブでは、シリア政府軍が、空軍基地(滑走路)を、何の抵抗も受けずに占領した。イドリブ周辺は、アレッポなどシリアの北半分で内戦を戦って負け、政府軍側に投降して武装解除されたISカイダの兵士とその家族が集められて住んでいる。トルコが彼らに食糧を支援している。彼らは、再武装して政府軍に反攻する傾向だ。だが今回は、政府軍が滑走路を占領する際、ISカイダ系の抵抗を受けなかった。これはトルコが、抵抗するなとISカイダ側に圧力をかけたからだろう。すでに、ロシアを仲裁役として、トルコとアサドの連携ができている。 (Assad is using Turkey’s Afrin offensive to make gains in Syria) (アレッポ陥落で始まった多極型シリア和平

 イドリブは、シリア領内だが、以前からトルコの影響下にある。トルコは、クルドが占領してきたアフリンの隣にあるイドリブを取ることで、クルド勢がさらに西進して地中海岸まで占領してしまうのを防いでいる。4か国とも内陸が居住地域であるクルド人は、海に出る経路がとてもほしい。海に出られれば、イラクのクルド地域の石油を地中海から直接輸出できる。(イラクのクルドは昨秋の敗北で、油田がイラク政府に占領されてしまったが) (Turkish and Syrian threats in Afrin put U.S., Russia in a bind) (Turkey Erdogan's plans for Afrin might not sit well with Syria

 だが今や、トルコの侵攻によって、イドリブとユーフラテス西岸の間にあるアフリンとマンビジがアサド政権の支配下に戻り、クルドの自治がユーフラテス東岸に縮小していく中で、クルドの西進抑止のためにトルコがイドリブを保持している必要もなくなっている。今後トルコがイドリブのISカイダ残党を見捨て、イドリブもアフリンなどと同様、アサド政権の支配地に戻るかもしれない。アサドの支配力の増加は、シリアにおける露イランの勢力の維持強化になる。トルコも、露イラン同盟に入れてもらう傾向だ。プーチン、エルドアン、ロウハニは、前から定期的に話し合いを続けている。トルコの提唱で、近いうちに、シリアの今後を決めていく3人のサミットも開かれる。 (Russia, Turkey and Iran presidents do not rule out meeting over Syria) (Turkey to host Syria summit with Russia and Iran

 今回のトルコ軍の侵攻は、トランプの米国がクルド人の自治(分離独立)をテコ入れしたために起きた。しかも米国は、NATOの結束を優先し、アフリンに侵攻したトルコを批判しなかった。クルドは、またもや米国にはしごを外され、負け組に落とされた。米国に乗せられていると、クルドはシリア内戦で得たものを失うばかりだ。クルドは、今後のシリアで、ある程度の広さの領域で自治を認められそうだが、それには、従来のように米国と親密にするのでなく、シリアの覇権国となったロシアと親密にせねばならない。自治獲得が何より大事なクルドは今後、米国を見限ってロシアの言うことを聞くだろう。ラッカなど、ユーフラテス川のもっと下流でも、クルド軍は川沿いの地域から砂漠に撤退させられ、川沿いはイラン系軍勢の支援を受けながらアサドの支配地に戻るのでないか。 (Will Washington's Chess Game In Syria Lead To War With NATO Ally Turkey?

 トランプはシリアで自滅している。私から見ると、これはトランプの覇権放棄の一環であり、意図的なものだ。米軍はその後も、シリア東部のユーフラテス川を渡河中の露アサドイラン系の軍勢を空爆するなど、ロシア側を怒らせる行動を続けている。シリアの覇権を確立したロシアは今後、米軍をシリアから追い出す策略を強化するだろう。 (More on US strike: Russians who laid Euphrates bridge among targets) (Turkey's Offensive In Syria: The US Falls Into A Trap Of Its Own Making

 米政府中枢では、トランプがシリア空爆に関して過剰に好戦的なことをやりたがり、米軍側(軍産複合体)がそれを嫌がって止めるといった展開になっている。軍産よりも過激に振る舞うことで、軍産の好戦性を抑止する、ネオコン的なトランプの典型的な戦略だ(北朝鮮に関しても同じ構図だ)。 (Mattis Dismisses Fears of Wider War After Massive Syria Strike

 マティス国防長官は最近、アサド政権が化学兵器(サリンなど)を使ったということで、米国はアサド政権を攻撃してきたが、アサドが化学兵器を使ったという主張に根拠はないのだとあっさり認める発言をした。マティスは、米国が2013年以来ついてきたウソ(濡れ衣)を認めた。マティスは、無根拠性を認めることで、アサドの化学兵器使用を理由にシリアを再び攻撃したがっているトランプを抑止しようとしている。 (US has no evidence of sarin gas used in Syria: Pentagon chief) (米英覇権を自滅させるシリア空爆騒動

 今回のトルコ軍の侵攻で、シリア北部の内戦後の勢力分布に関する諸勢力間の争いが一段落し、ラッカ周辺も決着すると、あとは対イスラエルが問題のシリア南部が残る。イスラエルとシリア・イラン・ヒズボラの関係も大きく動いているが、これは続編の(2)として書きたい。シリア全体で内戦が終わると、次はアサドと反政府勢力との暫定政権が作られ、新憲法の制定、総選挙の実施を経て、新たな民主的なシリアが誕生する。アサドは、シリアの多数派であるスンニ派でなく、少数派(人口の約1割)であるアラウィ派で、その意味では民主的な選挙に勝てそうもないが、スンニ派が結束して強い対抗馬を出せず分裂したままな場合、アサドが新生シリアの大統領として続投する。ロシアやイランは、アサド続投を望んでいる感じだ。 (Western, Arab states sidestep Assad fate in Syria proposals

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混迷する中東情勢

混迷する中東情勢

シリアへの「人道的攻撃」という非人道的テロを企む米国ともう一つの「側面」!「アラブの春」が一挙に「冬」になる?!
Category: 中東問題 Tags: シリア 中東情勢 プロパガンダ アサド
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シリア情勢が刻一刻と変わっていくので、準備したエントリーを変えざるを得なかったり、タイミングを外してエントリーできず静観していた。

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資料画像

直近の情報として、予測に反してシリアに対する武力介入を、イギリス議会が否決した、ということだ。
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英下院は29日夜、対シリア軍事行動に関する政府提出の動議への採決を行い、賛成272、反対285で否決した。(参照)

米国は2001年にドサクサに紛れて一瞬で成立させた「愛国者法」を、時限立法だったのに恒常化させたオバマ政権単独の判断で武力介入できるが、イギリスは議会の承認が必要で、ここにきて、いかにアメリカの横暴と横柄さに世界が辟易して批判している、という証左だろう。

ギリギリの選択ということだが、結局は「アサド政権による化学兵器使用を示すより明確な証拠を求めて」ということになったようだ。

それまで盗聴によってアサド政権幹部の決定的な証拠があるようなニュアンスを垂れ流して、世論誘導を画策していたが、それが実は違っていたことをアメリカ政府高官が明かした。

イギリスも、「そんな証拠ならばダメだ」というような事になったのだろう。軍事介入断念をキャメロン首相が口にしたようだ。
≪キャメロン首相は採決後、「議会が軍事行動を望まないことがはっきりした」と述べ、シリアでの化学兵器使用を受けた軍事介入を断念する意向を表明した。≫

(参照)
反体制派の統一組織「シリア国民連合」の幹部は21日、「アサド政権が首都ダマスカス近郊で化学兵器の毒ガスを使用し、約1300人が死亡した」と発表し、ボリュームをアップして世論を誘導しているように思える。

これに対して、政権側は化学兵器使用を否定し、欧米の軍事介入を促すために反体制派が使用したと反論している。(参照)


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今年3月にもサリンが使用され、両陣営が相手の所為にして結局うやむやになっていた。

今回も化学兵器をアサド政権側が使ったという決定的証拠もないのに…

ただ、決定的証拠があることを、あくまでも主張している。(参照)

ただ、そんな証拠などいくらでも捏造できるし、今までもそしてきたことは歴史や外交文書が証明している。

シリア情勢が完全に情報戦に突入していて様々な情報が飛び交っていたが、ここにきてイギリス議会の否決ということで、一回戦目はアメリカの負けということになったとも思えた。

ホワイトハウスは、いかなる軍事行動も「非常に控えめで限定的な」ものになるとし、イラクへの対応とは極めて異なると強調しているが、やはり、大量破壊兵器があると言って軍事介入したイラクの二の舞、前科が国際世論のブレーキをかけている。(参照)

が、しかしアメリカは単独介入をも模索しているという。

なんで、そこまでアメリカは、第二のイラクとかと言われてもなお、シリアに強硬姿勢をとるのか?

この辺を日刊ゲンダイが経済、金融的観点から、このシリアへの軍事介入が米国経済を救うのだと次の2点をあげている。
≪1つはQE3(金融緩和策)の出口戦略。マーケットは早ければ9月にも出口へ向かうと予測しているが、「米政府はFRBによる緩和継続を望んでいる」
 戦争状態となれば、「出口戦略なんて言っていられなくなる。むしろQE4も視野に入ってくる」(市場関係者)。オバマ政権にとっては好都合である。
 2つ目は、早急に決着が必要な連邦債務の上限問題だ。米国は国債発行の上限を議会が決めているが、上院と下院の「ねじれ」の影響で先延ばしされてきた。だが、10月中旬に議会承認を得ないと、デフォルト(債務不履行)がチラつく。
 米国は時限爆弾を抑え込むことに成功し、「軍事産業も在庫一掃」(市場関係者)できる≫

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堕天使オバマ

堕天使オバマ

堕天使オバマ    


バラク•オバマが2008年に最初に選出されたとき、彼は常に彼を囲む天使的輝きとともに写された。アーティストたちはしばしば、彼の頭の周囲の後光とともに彼を描いたものだった。彼は失われ死につつある世界にとってリベラルの救世主だった。

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しかし、何かが途中で変更された。後光は角へ取って代わられた。恐ろしく、暗く、不快に見える角へ。

下図のように、最近ISISとイスラムテロについて演説するオバマは、驚くべきやり方で撮影された。彼は、悪魔の出現のごとく、彼の頭の側面から突出した2本の角を持っているように見えた。

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これらの天使的、そして悪魔的なイメージは偶然ではない。サブリミナルメッセージは、ほとんどの宣伝広告に組み込まれており、そして政治的なプロパガンダは宣伝である。


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元記事は

Obama - Fallen Angel September, 2014
http://www.helpfreetheearth.com/news1116_obama.html






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これですからね。当たり前ですね。




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http://rockway.blog.shinobi.jp/%E6%88%A6%E7%95%A5/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%9B%BD%E9%80%A3%E5%A4%A7%E4%BD%BF%EF%BC%9A%E5%AF%BEisis%E6%94%BB%E6%92%83%E3%81%AF%E3%82%A2%E3%82%B5%E3%83%89%E6%94%BF%E6%A8%A9%E8%BB%A2%E8%A6%86%E3%81%8C%E7%9B%AE%E7%9A%84

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イスラエルは世界の平和にとって脅威

イスラエルは世界の平和にとって脅威だとドイツの作家、ギュンター・グラスが声を上げた 櫻井ジャーナル

世界有数の核兵器保有国であるイスラエルは世界の平和にとって脅威だとノーベル平和賞を受賞した作家のギュンター・グラスが声を上げ、話題になっている 2012.04.04
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201204040002/

世界有数の核弾頭を保有するイスラエルは世界の平和にとって脅威だとドイツの作家、ギュンター・グラス[Günter Grass]が声を上げた。『ブリキの太鼓』などを書き、ノーベル文学賞を受賞した作家の発言だけに、注目を浴びている。

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イスラエルが世界有数の核兵器保有国だということは間違いなく、核兵器を使おうとしたこともあると言われている。実際に何発の核弾頭をイスラエルが持っているのかは不明だが、1977年から約8年の間、イスラエルの核兵器開発に携わったモルデカイ・バヌヌによると200発以上、イスラエルのイツァク・シャミール首相の特別情報顧問を務めた経歴を持つアリ・ベンメナシェによると1981年の時点で300発以上、そしてジミー・カーター元米大統領は150発だと推測している。約1万発を保有するアメリカやロシアは別として、イギリス、フランス、あるいは中国と同じ程度は持っている可能性が高いわけだ。

イスラエル政府が核兵器の使用を決断したのは1973年、第4次中東戦争のとき。ゴルダ・メイア[Golda Meir, 1898-1978]首相の執務室で開かれた会議で核ミサイルを発射する準備をするということで合意したのだ。

この決定をソ連の情報機関がつかみ、アメリカ政府へもこの事実を通告、ソ連のアレクセイ・コスイギン[Alexei Kosygin, 1904-80]首相はエジプトへ飛んで停戦するように説得している。このとき、アメリカ政府は軍事物資をイスラエルへ提供、そのかわり停戦するように交渉したという。

ところがイスラエルは停戦の約束を守らずに攻撃を続行、そこでソ連政府はアメリカ政府に対し、イスラエルが約束を守らないならば適切な対応策を講じると警告した。こうした動きを受けてアメリカ政府も真剣にイスラエルを説得したようで、核攻撃は何とか回避された。

イスラエルはイランを絶滅させかねない・・・ギュンター・グラスはそう懸念しているが、イスラエルの過去を考えると当然だろう。

これまでイスラエルの核兵器について沈黙してきた理由として、第2次世界大戦の際にナチスが行った弾圧でユダヤ人もターゲットになっていた事実、そして「反ユダヤ主義」というレッテルを貼られることの恐怖をグラスは挙げている。

どうやら、グラスもナチスに弾圧された「ユダヤ人」とイスラエルを建国した「シオニスト」を混同しているようだ。ナチス時代、ドイツを逃れたユダヤ人が向かった主な行く先はイギリスやアメリカであり、この事実を考えるだけでもユダヤ人とシオニストは別だということが理解できるだろう。

一般に、近代シオニズムはセオドール・ヘルツル[Theodor Herzl, 1860-1904]が1896年に始めたとされているのだが、
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その5年前、ウィリアム・ブラックストーン[William Eugene Blackstone, 1841-1935]なる人物が「ユダヤ人」をパレスチナへ移住させようという運動をアメリカで展開、
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ベンジャミン・ハリソン[Benjamin Harrison, 1833-1901]米大統領に働きかけている。〔引用注:a partial timeline of Anti-Zionismも参照)


イギリスのエリートがユダヤ教徒のパレスチナ移住を考え始めたのは、さらに半世紀前のこと。1838年にイギリスはエルサレムに領事館を建設、その翌年にはスコットランド教会がパレスチナにおけるユダヤ教徒の状況を調査、1840年にはタイムズ紙はイギリス政府がユダヤ人の復興を考えていると報じた。

後にアルフレッド・ミルナー[Alfred Milner, 1854-1925]がタイムズ紙を支配するようになるが、パレスチナに「ユダヤ人の国」を作らせると約束する「バルフォア宣言[The Balfour Declaration of 1917]」、つまりアーサー・バルフォア[Arthur Balfour, 1848-1930]外相からロスチャイルド卿[Walter Rothschild, 2nd Baron Rothschild, 1868-1937]に宛てた書簡を実際に書いたのはこのミルナー。

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パレスチナに「ユダヤ人国家」を作るというシオニストの計画を実現するためには、ユダヤ人を居住地から追い出す必要があり、そうした意味でナチスのユダヤ人弾圧は願ってもない政策だった。ここにも歴史のタブーがある。

イスラエルを「建国」した土地には人が住んでいた。そうした人びとを追い出すため、シオニストは虐殺事件を起こしている。実際に殺して住民を「消し去る」こともあるが、恐怖で住民が逃げ出すことも期待していた。そうして追い出されて難民化した人々はパレスチナ人と呼ばれ、今ではその一部がガザやヨルダン川西岸に押し込められている。

そのガザへ2008年12月から09年1月にかけてイスラエル軍は軍事侵攻、国連の施設を含む建造物を破壊し、1200人とも1400人とも言われるガザ住民を虐殺している。国連が設置した事実調査団もイスラエルが戦争犯罪を犯したことを認めているのだが、ICC(国際刑事裁判所)の

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ルイス・モレノオカンポ[Luis Moreno-Ocampo, 1952-]検察官はイスラエルの戦争犯罪を問題にする意志のないことを表明した。


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パレスチナは国でないからイスラエルの戦争犯罪は問えないという「理屈」なのだが、

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NATO軍が先制攻撃したユーゴスラビアの場合、ICTY(旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷)を設置している。

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要するに、イスラエルの破壊と殺戮を現在の国連は容認しているわけだ。こうした現実にギュンター・グラスは異を唱えたのである。

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米国の軍事力行使には反撃するという姿勢を露国と中国は鮮明にし、米戦略は崩壊

2018.10.31
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 ロシアと中国の政府はアメリカ支配層に対し、軍事的な攻撃には軍事的に反撃する意思を鮮明にしている。これはアメリカ支配層の中でも好戦的なネオコンが1991年に作成した世界戦略の基盤を崩すものだ。

 

 ジョージ・H・W・ブッシュ政権は1991年1月にイラクへ軍事侵攻した。「砂漠の嵐作戦」だ。ネオコンはその作戦でサダム・フセインを排除し、親イスラエル政権を樹立するともりだったのだが、ブッシュ大統領はフセイン政権を倒さずに攻撃を終了。

 

 ポール・ウォルフォウィッツ国防次官などネオコンは怒ったが、その一方でソ連軍が出てこなかったことを収穫だと考えた。アメリカ軍が何をしても妨害する者はいないと思い込んだのである。

 

 1991年夏までの段階でブッシュ大統領をはじめとするCIA人脈はイスラエルの情報機関を介してソ連の情報機関KGBの中枢と話をつけ、ソ連を乗っ取ることで合意していた。ハンマー作戦だ。これは本ブログでも書いたことがある。

 

 この乗っ取り作戦には関与していなかったようだが、ミハイル・ゴルバチョフはアメリカや西ヨーロッパを民主的な体制だと考える「牧歌的親欧米派」で、当時のソ連政府は軍事的に欧米と向き合うよう状況になかった。

 

 1991年の後半にはゴルバチョフを排除することに成功、欧米支配層の傀儡でこの年の7月にロシア大統領となったボリス・エリツィンが実権を握る。このエリツィンは同年12月にウクライナやベラルーシの首脳をベラルーシにあるベロベーシの森に集め、秘密裏に、国民に諮ることなくソ連からの離脱を決めてソ連を消滅させる。

 

 その後のロシアがアメリカやイギリスをはじめとする西側巨大資本の属国になり、国民の資産は彼らに略奪されることになった。この時期に巨万の富を築いたオリガルヒは西側巨大資本やKGB幹部の手先になった人びとだ。

 

 ソ連の消滅によってアメリカ支配層は自分たちに逆らえる国はなくなったと判断する。つまり、アメリカが唯一の超大国になったと信じたのである。1992年2月に作成されたウォルフォウィッツ・ドクトリンをネオコンは「詰め」だと考えたのだろう。

 

 ネオコンの基本戦術は「脅せば屈する」。1991年の経験はこの考え方を強化することになった。この戦術をネオコンたちはロシアや中国にも適用しているのだが、機能していない。ゴルバチョフ時代のソ連とは違って現在のロシアは慎重ながら、対抗する意思を鮮明にしている。アメリカ支配層は中国について、カネ儲けさせておけば自分たちの戦略に楯突かないと信じていたようだが、2014年以降、雰囲気は大きく変化した。ウクライナにおけるネオ・ナチを使ったクーデターを見てアメリカ支配層の危険性を悟ったようだ。

 

 アメリカ支配層の危険性を悟っているという点では韓国も同じ。本ブログでは繰り返し書いてきたが、韓国のエリートはロシアや中国とのつながりを強めていた。朝鮮半島の動きはこうした状況が影響している。アメリカ支配層に従属している日本に対する韓国の姿勢が変化するのも必然だ。

 


最終更新日  2018.10.31 11:36:53
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