原作:太宰 治(「グッド・バイ」)
脚本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:
仲村トオル、小池栄子
水野美紀、夏帆、門脇 麦、町田マリー、緒川たまき
萩原聖人、池谷のぶえ、野間口 徹、山崎 一
世田谷パブリックシアター
太宰治の未完の(というか殆ど書き出しと言ってもいいようなところで入水自殺してしまった)作品をケラリーノ・サンドロビッチが舞台化。
ストーリーは太宰の補完といよりほとんどケラのオリジナル。主演に昨年の青山円形劇場のファイナル公演に続いて仲村トオル。
強烈なビジュアルと、観客を翻弄する膨大な台詞で強い印象を与えるものの、きちんと筋書きを説明できない不条理劇が基本のケラ作品だが
今回は一変してストーリー性の高い昭和人情劇、というかほとんどラブコメ?
どんな観客でも楽しめるエンターテインメントな作品になっていました。
以下ネタバレあり。
戦後間もなく。表向きは文芸雑誌の編集長だが裏ではヤミ物資の取引で巨額の利益を得ている色男、田島周二。
妻子を岩手に疎開させている間に東京で数十人の愛人と付き合っている。
しかしそのような暮らしにも嫌気が差しはじめ、愛する娘と一緒に暮らすため、すべての愛人と別れて妻子を東京に呼びたいと考えている。
問題はどうやって多数の愛人ときれいに分かれるか。
そこで友人の作家(山崎 一)の提案。まず絶世の美女を見つける。その女(小池栄子)を言い含めて妻のふりをさせて、一緒に愛人を訪ねて回る。
愛人たちは余りに美しい妻の姿に自らの敗北を知り別れを受け入れる。もちろん充分な手切れ金は与える。というもの。
そうして見つけたのがヤミの担ぎ屋を生業としている絹子。強欲で下卑た性格。怪力の持ち主で一度に数人分の食事を平らげる大食漢だが
きちんと着飾れば所の美しさは比類なく。ただし声も言動も下衆の極みのために、作戦実行中は口はきいてはいけない決まり。
一人目は百貨店の中に入っている美容室の美容師8町田マリー)。妻と同伴で美容室を訪れ別れに成功する。・・・・・とここまでで原作はだいたい終わり。
これ以降はケラの作り出した愛人たちやその周辺の男たちが様々な人間模様を紡いでいく。
雑誌社の挿絵書きの女(夏帆)。その女のアパートに先ほどの美容師が住んでいて自殺騒ぎを起こしている。
田島周二が通う医者の女(緒川たまき)。その病院には自殺未遂の美容師も来ている。
一方田島に作戦を授けた友人の作家は田島の依頼で疎開先の妻子を訪ねた際に妻(水野美紀)と関係してしまう。呼び寄せようとした妻から田島に別れの手紙。
焼身の田島は暴漢に襲われて死亡。1年後、田島の愛人たちは元妻の招きで一堂に会して不埒であるが憎めない色男だった田島を偲ぶ。
しかし、実は田島は記憶をなくして生きていた。
すみません。ちゃんとしたストーリーがあっても説明しようとするとやっぱり不条理にしか見えないな。
まあいろいろあって最後は怪力大食漢美女の絹子と田島がめでたく結ばれるという、そういうお話です。
田島の娘だったり気のふれた親父だったりだいたいで占う占い師だったりで大活躍の池谷のぶえの怪演には本当に笑わされました。あー面白かった。