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ピケティの資本論 9: 格差を強固にするもの 2

2015年04月28日 | 連載完 ピケティの資本論

< 1. ニューヨーク株価大暴落 >

前回、低所得層がより困窮し、格差が強化される状況を見ました。
今回は、富裕層がより豊かになり、格差が強化される状況を見ます。


低所得層の所得低下と富裕層の所得増大は一体構造から生まれる

金融危機の度に多くの資産を失ったはずの富裕層はどうなったでしょうか?
米国の経済データーを見ると、数年で復活を遂げ、むしろより多くの資産を持つようになっている。
その状況を見てみましょう。



< 2.米国の景気後退期の比較、縦軸:失業率、横軸:月数、>
解説: 11回の景気後退期の最大失業率とその期間がわかります。
この後退期に、苦渋を多く舐めるのは低所得層でした。
かつ超富裕層がより豊かになる飛躍の機会でもありました。


< 3. 米国におけるトップ十分位の所得占有率、ピケティ「21世紀の資本」より >
解説: 所得上位1%、5―1%、10―5%層の所得が全米総所得に占める率を示す。
1980年以降、最上位1%の所得占有率(8~24%)がグラフ2の景気後退毎に一度下がるが、その後急激に回復し、より増大している。
所得上位10%の全米所得の所得占有率は急速に増大し、2010年で48%に至り、所得の多い人ほどその傾向が著しい。

何が起きているのか
このからくりは単純で、バブル崩壊後の政府の緊急対策で、元凶の銀行、投資会社を国民の税金で助けることにあります。
一方、これに回された税金分だけ弱者対策の費用削減になり、米国の場合、皆保険制度の縮小になり、弱者を苦しめることになる。

「もし銀行などを潰せば、本当の大恐慌になり、復活に10年以上を要し被害は甚大となる」
こうして驚かされた国民は泣き寝入りすることになる。
金融危機を貨幣供給で沈静化させることが間違っているとは言えないが、所詮、飽食を続ける糖尿病患者にインスリンでその場しのぎを繰り返し、悪化させているだけです。

グラフ3の所得上位1%の所得増大に大きく寄与しているのはキャピタルゲイン(株・債権の売買益)でした。
これは、景気回復の為(金融緩和)と称して通貨発行量を大量に発行し、富裕層や企業の余剰資金は投機に回り、次のより大きなバブルを招いているからです。
そしてまた失敗すれば助けるのです。



< 4.主要国の通貨発行量の推移 >
解説: 各国中央銀行の通貨発行量はいずれもGDP成長率よりも高いが、日本の通貨発行量(青線)だけが低水準です。
この結果、円高になったが、逆に2007年のリーマンショックの影響が軽微になった。 
(日本は成長率が零に近いので、この低い通貨発行量でもGDP成長率よりも著しく高い。)

この結果、何が起こったのでしょうか。



< 5. 世界主要市場の株価時価総額の推移 >

グラフ5の2007年と2008年の株価時価総額の差は7200兆円(120円/ドル)です。
日本でもその差は200兆円を超え、GDPの約半分に相当します。
この実体の無いものに便乗し操れる人々は、資産を増やし続けることが可能です。
こうしてバブル崩壊毎に、低所得層(弱者)と富裕層の経済格差はより拡大していきます。
このことは多くの先進国で大なり小なり起きていることで、放置すれば悪化するばかりです。



< 6. 主要国における所得税の最高税率の推移、ピケティ「21世紀の資本」より >
解説: 米国と英国はかつて世界に先駆けて、格差縮小のために累進課税に踏み切った。


実は、政府が格差拡大を招いた
グラフ3で1940~1980年の間は、富裕層の資産拡大は起きていませんでした。
これは米政府がこの期間だけ、グラフ6の高率の累進課税(相続税、所得税)を課していたからです。
つまり米政府が税制と金融政策で富裕層を支援したことから、現在の不幸な結果が生じているのです。
しかもこれを世界が競って真似してしまったのです。
バブル崩壊の悪循環を断ち、格差拡大を防ぐには、政府の政策変更が必要なのです。

クルーグマンは「格差はつくられた」で米国の1980年代以降の政策転換を徹底的に批難しています。
ピケティも著書で、これを世界先進国の潮流として冷静に分析し実態を白日の下に曝しています。

次回に続きます。




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