< ナミビアのヒンバ族女性 >
前回、地球最古の美術とオーカーが多用されたことを見ました。
赤色を選択的に使うことは、「美術の創出」に関わりがあります。
今回、これを考察します。
ヒンバ族の女性は油で溶いた赤色オーカーを体と髪に塗ります。
これは日焼け防止もあるが、生命を象徴する血の色が女性の美しさに結びついた。
東アジアの古代建築は赤一色。
< 中国、韓国、日本の古代建築 >
Aは洛陽にある中国最古の仏教寺院です(1世紀)。
Bは京都の平安神宮の門で、8世紀の平安京を一部再現したものです。
Cは高野山の仏教寺院の塔です。
Dは韓国ソウルにある15世紀の離宮の門です。
現在、古都の寺院の多くは色褪せているが創建当時は朱色に輝いていた。
古来、東アジアの王宮、神殿、寺院の外観は赤く塗られていた。
アジアにおいて、赤は重要な意味を持っていた。
< 左、首里城に立つ琉球王。 右、チベットの仏画に描かれた阿弥陀如来。 >
琉球王朝は朝鮮半島と同様に中国風でした。その儀礼用装束は三カ国同じ真っ赤でした。
大乗仏教の最高仏阿弥陀如来の身色は赤で表された。
赤色は権威と神聖さを象徴し、人々に荘厳さや絶大な恩恵をイメージさせた。
他の大陸において、赤色の役割は・・・
< ヨーロッパ、エジプト、南米の赤色 >
Aはクレタ島のクノッソス宮殿の一室です(BC19世紀頃)。ヨーロッパの建物が赤で塗られることは少ない。
Bは古代エジプトのセト神で、この邪神の身色は災厄を意味した赤でした。
Cは赤い祭服の司祭による殉教のミサです。キリスト教で、赤は愛を示すこともあるが、悪魔や生け贄をより意味した。
Dはインカ帝国の赤で飾られた生け贄用の女性人物像です。
後の三つは災厄や生け贄などに関連し、灼熱の太陽や血のマイナスイメージが強調されたのだろう。
赤色の意味するもの
古来、赤色は世界各地で吉兆、厄災、愛、権威(神聖)などと強く結びついていた。
それは文化圏や宗教によって異なっていた。
赤色イメージは、アジアの水田稲作地帯と中東の乾燥・麦作地帯とで、太陽への意識の違いにより、大きく二つに別れたのだろう。
ここ数千年で生まれた好悪異なるイメージがありながら、数十万年間も他の色を凌いだのは、赤色に遙かに時代を遡る意味があったのだろう。
少し進化を振り返ろう。
昆虫に始まり霊長類は生まれながらにして、好悪の感情を呼び覚ます臭い(性フェロモン)、味(アミノ酸)、視覚イメージ(蛇)がある。
ある進化学者は、人類が赤色に特別な感情を持つのは、霊長類の誕生から始まる6千万年間の樹上生活において、赤く熟した果実を求めたことに起因すると言う。
芸術とは何か?
原人が赤色を重宝し始めたのは、それが良好な感情を満足させたからでしょう。
画期が生まれたのは、彼らの脳に、イメージの連想と、表現力が誕生しつつあったからでしょう。
つまり連想と因果律を認知し、それを表現することで、快感や安堵感を覚え、芸術を生むことになった。
もし、この時に密な集団社会があれば、その芸術は一気呵成に花が開き、文化が生まれた。
このことが首飾りに始まり、ビーナスやライオンマンの像、フルート、狩猟動物の岩絵を生みだした。
そして、地球温暖化と共に集団社会が崩壊し、ヨーロッパの原初美術は消滅した。
次回は、原初美術に秘められた他の謎を追います。
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