アクアコンパス 3   世界の歴史、社会、文化、心、読書、旅行など。

カテゴリー「案内」に人気記事と連載の目次があります。Twitter に yamada manabuで参加中。

原初美術の誕生 14 : 美術を誕生させた人々 3

2013年04月13日 | 連載完 原初美術の誕生


< 岩壁画、4人の狩人とリーダー、スペイン東南部、8000年前 >

今回は、クロマニヨン人の心に起きた変化を埋葬と美術から読み取ります。

その変化がもたらしたもの、さらに原因について考察します。


前回、定住の影響を見ましたが、さらに重要なのは、家族や集団に濃密な時間が増えたことです。先ず育児に良い影響が出たはずです。また現代の狩猟採集民のように、集えば長話を楽しんだことだろう。これは知能と言語を発達させ、文化発展を促しただろう。火を扱い言語機能(脳の言語野と喉構造)を有したネアンデルタール人が、クロマニヨン人との生存競争に負けた理由の一つがここにあるのだろう。

クロマニヨン人の家族に何が起きたのか。



< 埋葬復元図、Sungir遺跡、ロシア、28~20千年前、Don's Mapsのサイトより >

図の右に8歳の少女と左に13歳の少年が横たわっている。彼らは頭から足先まで防寒具を着せられ、象牙製の立派な槍やビーズのネックレスなどが大量に副葬されていた。

この埋葬にネアンデルタール人とクロマニヨン人と違いが明瞭に出ている。

ネアンデルタール人も埋葬を行っていたが幼児や複数葬はほとんどなかった。クロマニヨン人は9万年前のイスラエルのカフゼー洞窟で母子二体の埋葬を初めて行い、その後、幼児二体、成人三体などの組合せ例がユーラシアで4万年前以降増加する。彼らが母子や家族、集団の絆を強く意識し始めた。母性への敬いが豊穣への祈りに加わり、ビーナス像、後の地母神崇拝へと繋がったのだろう。

元来、狩猟採集民は、大勢での生活は問題が多く離散しやすく、定住も同様に抵抗がある。この感情を抑制し前進させる何かが彼らの心に起こったはずである。極寒への適応には高度な技術と知能が不可欠だが、家族や集団を結びつける感情が強く沸き上がらないと画期は起こらなかった。

ヨーロッパの氷河期美術を概観すると、最初、人間、特に男は稚拙(丸に点)に描かれていた。しかし徐々に女性と魔術師が丁寧に表現され、末期には巻頭図のような狩りなどの集団行動が描かれるようになった。さらに母子や踊る女性達も描かれた。一方で狩猟動物を丁寧に描くことは減っていった。


脳に何が起きたのか?



< 現代人の脳の断面図、赤点が神経束A10(VTA)、CMAJより >

A10から神経伝達物質ドーパミンが広範囲、特に前頭葉に大量かつ長時間分泌される。神経伝達物質は神経の情報伝達に不可欠で他に数十種類あるが、ドーパミンは俗に快楽物質と呼ばれ、幸福感や恋愛感情を強く持続させる働きがある。ドーパミン分泌の神経束は他にもあるのですが、このA10は人類だけが持っている大きな蛇口のようなものです。

前頭葉は、計画、社会規範遵守、感情抑制などの働きを担い、意識もここにあります。ここにA10からドーパミンが分泌されると、長期的で強い動機付けが行われます。これがクロマニヨン人に家族や集団の生活を促進させ、ひいては芸術を育てるのに貢献したのではないだろうか(化石人類のA10は不明)。

ヨーロッパで原初美術が誕生した背景には、地球環境と人類進化、集団による定住と知能の相互作用、さらに脳と遺伝子が深く関わっていたのです。

次回からは、まだ解明されていない原初美術の謎に迫ります。








最新の画像もっと見る

コメントを投稿