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前回、日本の失業率低下と賃金上昇の背景を見ました。
しかし、何らかの天井が賃金の上昇を遮っているようでした。
また、今回の景気好転には手放しで喜べない事情があります。
はじめに
前回、今回の失業率低下と賃金上昇はアベノミクスの効果と断定出来ないことを見ました。
また、この二つの指標は単に景気好転で決まるものでないことも見ました。
これから日本の経済状況を規定している三つの政治経済の潮流と、賃金の
上昇を抑えている正体を明らかにします。
景気好転の切っ掛け
前回のNo4のグラフから、失業率は2009年で、就業者数は2010年で底を打ち、その後上昇を始めました。
所定内給与は2010と2011年に上昇したが、2012と2013年に一度低下し、その後また上昇しています。
この背景を簡単に確認します。
< 2. 日本の輸出・輸入額の推移、日本貿易会HPより >
グラフ中の番号⑧で示すように、2010年にはリーマンショック後の景気回復が世界的に進んだことにより、貿易が急伸した。
しかし⑨で示すように、2011年から2012年にかけてはEUの金融危機と東北大震災で輸出が減り、金融危機回避による円安と復興需要で輸入額が急増した。
つまり、アベノミクスの効果を否定出来ないが、大きな流れとしては株価上昇や円安と同様に世界経済の立ち直り時期と一致したことが一番でしょう。
しかし実はこれが大きな不安要因でもあるのです。
今回の景気回復は、リ―マンショック後の米欧中による歴史的な巨額の貨幣供給が呼び水となっており、実体経済の10倍を越える資金が投機の為に世界中を駆け巡っています。
おそらく1~3年以内にバブルが破裂し、世界はより深い金融危機に見舞われ、日本は巨大な金融緩和の反動で今までにない倒産規模と大量の失業に見舞われるでしょう。
こうして、次のグラフ「賃金と企業所得の推移」の青の直線の延長が暗示するように労働者の賃金は更に低下することになる。
このことは、過去40年間の米国の所得の推移からも明白です。
この間のメカニズムは連載「日本の問題、世界の問題」で説明しています。
この世界的な不安要因は、三つの内で最も大きな政治経済の潮流、自由放任主義経済がもたらしたものです。
なぜ日本の賃金は天井につかえてしまったのか?
世界経済が好調で、欧米の中央銀行が金融緩和からの出口戦略を取り始めたと言うのに、日本の賃金はなぜほんの少ししか上がらないのだろうか?
何が災いしているのだろうか?
労働者の働きが悪いのか、それとも経営者の財布の口が閉まったままのか?
< 3. 日本の賃金はなぜ下がるのか? >
上のグラフ: みずほ総合研究所高田氏のグラフ。
日本と米国、ドイツの賃金の伸び率とその寄与度がわかる。
日本の賃金の伸び率は、2005~2010年に下降から上昇に転じたが、微々たるものです。
米独と大きく異なるのはインフレへの期待が低いことで、これはデフレだから当然です。
かつて世界に誇った日本の労働生産性は低下の一途で、これが問題です。
さらに2010~15年に関しては、労働分配率の低下が賃金を抑制している。
下のグラフ: 内閣府の国民経済計算(GDP統計)より。
左軸は賃金、右軸は民間企業の所得で、単位は共に10億円です。
このグラフから、国民の賃金はバブル崩壊の度に下がり続け、長期低下傾向にあることがわかる。
青の直線は賃金の線形近似で、概ね21年間で10%低下(約23兆円低下)している。
それに比べて、民間企業の所得は21年間で218%上昇(33兆円増加)している。
つまり答えは簡単で、民間企業は法人減税などの優遇策により所得を増やす一方、労働者は非正規などの解雇容易化で賃金を抑えられて来たのです。
(賃金低下のメカニズムはもっと複雑ですが、これが主要な要因でしょう)
更に悲しいことに、労働者は逆累進課税の極みの消費税でも苦しむのです。
この労働者軽視で企業優先の政策、つまり日本の長期政権による政策が二つ目の潮流です。
ところが問題はこれだけでは済まないのです。
次回は、この企業優先の政策がもたらす結果について考察します。
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