ヘーゲル『哲学入門』 第一篇 存在 第一部 質 第十節[定在]
B. Dasein
B 定在
§ 10
Das Dasein ist gewordenes, bestimmtes Sein, ein Sein, das zugleich Beziehung auf Anderes, also auf sein Nichtsein hat .(※1)
第十節
定在(そこにあるもの)とは、生成を経て、規定性を帯びた存在である。それは同時に、他者との関係性をもつとともに、すなわち自らの非存在(自らが存在しなくなること)との関係性をももった存在である。
※1
①【生成を経て規定された存在】
例えば、一人の「人間」は、ただ単に「存在(Sein)」しているだけではない。誕生というプロセスを経て存在し、成長や経験を通じて具体的な規定性を帯びていく。生まれた瞬間には無規定な可能性に満ちているが、成長するにつれて個性や性格、社会的役割などの「規定性」を獲得していく。例えば、「教師」「医師」「父親」「娘」「日本人」など具体的な規定性が現れる。
②【他者との関係性における存在】
人間の存在は常に他者との関係性の中で規定される。ある人が「教師」であることは、生徒との関係によって規定されるし、また、誰かが「友人」であることは、自分とその人との相互関係によって成り立つ。
このように、人間は単独で規定されるのではなく、家族、職場、社会、文化などの「他者」との関係の網の中でのみ意味を持つ。
③【自らの非存在との関係性(自己否定・限界性の認識)】
また、人間の存在は同時に、その存在の限界、つまり死や消滅(非存在という否定性を自らの内に抱えている。自分が生きていることを自覚するということは、同時にいつか必ず死ぬことを意識することでもある。
例えば、重い病気にかかったとき、人間は自分の存在(定在)と同時にその非在(死、消滅)の可能性を強烈に感じる。このとき、「定在が自己の非存在との関係性を持つ」という哲学的概念が現実的に理解される。
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