ヘーゲル『哲学入門』 第一篇 存在 第一部 質 第十一節[現実性]
§11
a) Das Dasein ist somit ein in sich geteiltes. Einmal ist es an sich, das anderemal ist es Beziehung auf Anderes. Das Dasein, mit diesen beiden Bestimmungen gedacht, ist Realität. (※1)
第十一節[現実性]
a)したがって、定在はそれ自体のうちで分裂したものである。一方では「それ自体としてあるもの」(an sich)であり、他方では「他なるものへの関係」(Beziehung auf Anderes)としてある。この二つの規定において捉えられた定在が、「現実性」(Realität)である。
※1
Das Dasein(そこにあるもの、定在)は前節の§10においては単にある特定の質、規定性を帯びた存在にすぎなかったが、概念はより現実的な存在へと、さらに「現実性」(Realität)のある存在へと進展して行く。
たとえば、国家は、主権国家として自己完結的に存在する他国から独立した存在(an sich)であるが、 他方において、国家は国際社会において他国との外交関係や貿易関係を通じて規定され、経済的・政治的に相互依存(Beziehung auf Anderes)の関係にある。
国家の現実性(Realität)とは、この主権的な自立性と国際社会との相互依存性という二つの矛盾した側面を同時に抱え込み、両者を統合した形でのみ成立する。自己内での対立(自立と依存)を調停し、統一することで、国家として「現実性」(Realität)をもつようになる。