夕暮れのフクロウ

―――すべての理論は灰色で、生命は緑なす樹。ヘーゲル概念論の研究のために―――(赤尾秀一の研究ブログ)

§ 282〔君主の尊厳と恩赦〕

2018年10月03日 | 法の哲学

 

§ 282〔君主の尊厳と恩赦〕

Aus der Souveränität des Monarchen fließt das Begnadigungsrecht der Verbrecher, denn ihr nur kommt die Verwirklichung der Macht des Geistes zu, das Geschehene ungeschehen zu machen und im Vergeben und Vergessen das Verbrechen zu vernichten. 

君主の主権から、犯罪者に対する恩赦権が生じる。なぜなら、起きたことを起きなかったことにすること、そして、赦しと忘却において犯罪を消し去るという精神の力の実現は、君主の主権のみに属するものだからである。

Das Begnadigungsrecht ist eine der höchsten Anerkennungen der Majestät des Geistes.
- Dies Recht gehört übrigens zu den Anwendungen oder Reflexen der Bestimmungen der höheren Sphäre auf eine vorhergehende. - Dergleichen Anwendungen aber gehören der besonderen Wissenschaft an, die ihren Gegenstand in seinem empirischen Umfange abzuhandeln hat (vgl. § 270 Anm. Fn.). 


恩赦権は精神の尊厳についてもっとも深く認識することである。− この権利は、ちなみに、より高い領域の規定をそれに先行する前の領域の規定へ適用もしくは反映させることである。このような種類の適用は、しかし、その経験的な範囲においてその対象を取り扱わなければならない特殊な科学に属している。(§270註釈、脚注参照)※1

- Zu solchen Anwendungen gehört auch, daß die Verletzungen des Staats überhaupt oder der Souveränität, Majestät und der Persönlichkeit des Fürsten unter den Begriff des Verbrechens, der früher (§ 95 bis 102) vorgekommen ist, subsumiert, und zwar als die höchsten Verbrechen, [und] die besondere Verfahrungsart usf. bestimmt werden. 

− 国家一般の毀損、あるいは、君主の主権や尊厳、およびその人格性に対する侵害が先に(§95から§102まで)に示した犯罪の概念のもとに包摂されるのも、かつ同じく最高の犯罪として、(そして)特別な取り扱いなどが決定されるのもまた、このような適用に属する。※2

Zusatz.
Die Begnadigung ist die Erlassung der Strafe, die aber das Recht nicht aufhebt. Dieses bleibt vielmehr, und der Begnadigte ist nach wie vor ein Verbrecher; die Gnade spricht nicht aus, daß er kein Verbrechen begangen habe. Diese Aufhebung der Strafe kann durch die Religion vor sich gehen, denn das Geschehen kann vom Geist im Geist ungeschehen gemacht werden. Insofern dieses in der Welt vollbracht wird, hat es seinen Ort aber nur in der Majestät und kann nur der grundlosen Entscheidung zukommen. 

補註

恩赦は刑罰を免除するものであるが、刑罰の権利を廃棄してしまうものではない。刑罰の権利は、むしろ残っており、赦免されたものはなお依然として犯罪者でありつづける。恩赦の恵みは彼がいかなる犯罪をも犯していないことを意味するものではない。この刑罰の廃棄は、宗教を通して行うことができる。なぜなら、起きてしまったことは、精神の中で精神によって起きなかったことにすることができるからである。このことが世俗において行われる限りにおいて、恩赦はただ(君主の)尊厳の中においてのみその場所をもち、そして、ただ(君主の)無条件の決定のみから生じることができるのである。

 

※1

「§270註釈、脚注」の個所において論じられているのは、宗教と国家との関係ですが、国家における君主の犯罪者に対する恩赦と、宗教における、神の悪人に対する罪の赦しとの、対比において考察される。君主と国民、神と人との関係が、いずれも、より高い領域からより低い領域への適用、もしくは反映として論じられている。君主の恩赦の権限ついての規定は、現行の日本国憲法においても、第七条の天皇の国事行為として、大赦、特赦、減刑などが行われることになっており、下位法として恩赦法があります。

※2

刑法第二編の「公益に関する重罪軽罪」の第一章、第七十三条から第七十六条に規定されていたいわゆる不敬罪としての規定、皇室に対する罪に関する規定は、GHQの占領統治下において改正されて削除されています。国家に対する犯罪、いわゆる国事犯については第二章以下に「内乱に関する罪」として規定されています。国家や君主に対する犯罪が特別なものとして扱われていることがわかります。

 

 
 
 
 
 
 
 
 
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