「午前10時の映画祭」をご存じでしょうか?
いや、私も詳しくは知らないのですが(笑)まあとにかく、比較的古い映画をリマスターして、劇場で公開するという企画だと思っておけば間違いないでしょう。
その「午前10時の映画祭」で、昭和36年(1961)公開の東宝特撮映画『モスラ』の、4Kデジタルリマスター版が公開されました。東北では岩手県の盛岡市にある「盛岡中央劇場」のみにての公開ということで、
いってきましたよ、盛岡まで。
例によって、新幹線でね。
私の住む町から盛岡までは新幹線でおよそ40分弱。しかしそんなわずかな時間の間でも、岩手県の広さを改めて感じましたね。
一関市までは雪がまったく残っていないのに、平泉の長いトンネルを抜けた先に、いきなり雪景色が一面に広がっているのには驚きました。山一つ越えただけで気候がまったく違う。
岩手県ってホント
広い。
さて、前置きはこれくらいにして。
まずねえ、映像が綺麗というのは、なにものにも代えがたいね。ホント素晴らしい。修復作業を行ったスタッフの皆さんには、慰労と感謝の思いを捧げたい。
昭和36年当時の観客が観たものと、ほぼ同じ状態のものが今、観ることができているんだ、ということを感じられる幸せ。もう、たまんないっす。
特撮は美術さんの作ったセット、いわゆる「特美」スタッフの作った特撮セットの作りこみが素晴らしい!店舗の看板や電信柱、電信柱に貼ってある電線や公園のベンチ、そのベンチに貼ってある看板まで、当時の赤坂辺りの街並みを完璧に再現している、その作りこみの細かさ、細部へのこだわり。
確かにセットだということは一目見ればわかる。でもそんなことは大したことじゃないです。ここにはただのセットであることを凌駕した、独特の存在感があるんです。これは言葉では表現するのは難しい。やはり観てもらう他はないし、例え観たとしても、万人にわかるものではない、かも知れない。
これはもう、「センス」の問題ですね。特撮センスとでもいうべきものが
あるかどうか。
あとはやはり、円谷英二特技監督の編集の妙技ですね。モスラが東京都内を爆走していくシーンでは、ビルを破壊しながら進むモスラの幼虫を、実に様々なパターンを使い分けながら撮影し、それを編集して臨場感を出しています。
幼虫も大小様々なものが使われており、一番大きいものでは人間が8人ぐらい縦一列に並んで入るタイプの着ぐるみがあって、中に入った人たちはムカデ競争の要領で、タイミングを合わせて「エッホ、エッホ」と走っていき、ビルのセットに体当たりして破壊する。
小さいものだと、中にモーターが入っていて自走できるようになっているものがあって、これは上空からの戦闘機目線のカットなどで使われています。
こうして撮影されたそれぞれの場面を編集で繋いで、迫力あるシーンを形作っていく。さらには、当時としてはかなり大胆な合成ショットも多数使用され、場面をさらに盛り上げていきます。ミニチュアの戦車が疾走しているすぐ横に、逃げ惑う東京都民と、それを必死になって交通整理しようとする警察官の姿を合成して緊迫感を醸し、東京タワーの向こう側に迫るモスラを合成し、迫りくるモスラの恐怖感を醸成する。まあ、実に多くの素材を効果的に編集することで、緊張感緊迫感、恐怖感すべてが備わった迫力ある、当時としてはほぼ完ぺきといっていい特撮シーンを生み出した、円谷監督の手腕。まさしく
特撮の「神」だね。
私も公開当時の観客とほぼ同じ感覚で観ていたようで、段々身体が暑くなってきて、思わず腕まくりまでして見入ってしまったのは、
単に暖房が強すぎたというだけではあるまい。
デジタルリマスター様様ですね。フィルムというのはどんなに上手く保存しても、劣化損傷は免れない。しかしデジタルなら、ほぼ永久的に映像が劣化することはないし、4Kとなれば画質もメッチャ綺麗だし、これは是非にも古い映画のデジタルリマスター化をお願いしたい。
リマスター化が実現していない名作映画は、まだまだたくさんあります。東宝特撮映画だけでも『空の大怪獣ラドン』『地球防衛軍』『宇宙大戦争』『妖星ゴラス』『海底軍艦』『フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン』『フランケンシュタインの怪獣サンダ対ガイラ』『キングコングの逆襲』その他その他、もうね、円谷英二監督が関係した作品だけでも、全部リマスター化してほしい。是非にも。
こうした先人たちの職人技、もう継承されることはないであろう幻の技を、このようなかたちでも観られるということは、とても貴重なことだと思う。
なんか結局、いつも同じ結論になってしまうのだけど、残していくこと、伝えていくことは、なんであれ
大事なことです。
『モスラ』4K復活プロジェクト
20分ちょっとありますけど、実に面白い。
これを観て思ったのは、例えば合成の線がハッキリ見えている部分も消しちゃって、もっと綺麗に画を馴染ませることも可能だと思うんです。でも敢えてそれをやらないんだな。あくまでも公開当時のオリジナルな映像を復活させることに拘っている。そこにスタッフの「良心」を感じます。
こういっちゃなんですが、スター・ウォーズとかE.T.とか、一番最初に公開されたヴァージョンを今観ることはできませんからね。後から後からCGを加えたり、編集し直したりして、どんどん変えていってしまった。まあ、クリエイターの気持ちとしては、より完璧なものにしたいということなんだろうし、わからなくはないけど、
私のように一番最初のヴァージョンを観てファンになった身としては、「なにしてくれちゃってんの?もう最悪!」なわけです。どんなに拙い映像であろうと、やはり一番最初のヴァージョンが一番いいんです。例外は『ブレード・ランナー』くらいです。それ以外は、最初の奴が一番いい!
こちらのスタッフはそれがわかっていらっしゃる。いいね、素敵だね。
あるスタッフさんがおっしゃっていたことで印象に残っているのは、我々がやっていることと、特撮の先人たちとは「繋がって」いるんだ、という意味のことをおっしゃっていたことです。技術をそのまま継承したわけではないけれども、先輩たちが築き上げてきた特撮道の流れの中にいるのだという意識をもっている、ということなのでしょう。
先人たちへの敬意を忘れない。いいね、職人だよね。日本人を感じるよね。
素晴らしきかな、特撮!
映画の修復作業は、美術品の修復作業と同じくらい貴重で
尊い。