食いしん坊犬、食いしん坊猫

 昔飼っていた犬はとても食いしん坊で、人間の食事のたびにテーブルの横へやってきては、落ち着かない息遣いで座ったり立ち上がったり、前足で食事をしている人の腕を引っ掻いたり、わんと言ってみたりして絶え間なく食べ物を催促するので、食事の時間はいつもせわしなかった。猫と違って雑食性が強いから、どんなおかずのときでも横に張り付いているし、おまけに犬は、ほとんど噛まずに丸呑みにしてしまうから、肉を一切れあげても一瞬にして飲み込んでしまい、また次をおくれと際限がない。おかげで家族のみんなは、犬のペースに合わせて早食いの癖がついてしまった。
 それに比べると、猫のふくちゃんが食卓にやってくるのは魚のおかずのときだけだから、まだずいぶんましであるが、魚となると、なかなか執拗に狙ってくる。あくまで人に頂戴と催促する犬と違って、ふくちゃんは自分で直接魚を食べに来るから厄介である。犬のように落ち着きなく動き回ったりはしないけれど、こそりこそりと私の箸を持つ右手の上や下から顔や前足を伸ばしてくる。油断するとしっぽをくわえて引っ張りかねないから、これはこれで落ち着かない。仕方がないので、身を幾らか分けてやる。際限なく欲しがる犬と違って猫のいいところは、一定量食べたらもう満足してそれ以上は欲しがらないところである。ふくちゃんも、何切れか魚を食べたあと姿が見えなくなったと思ったら、いつもテレビのうしろの陰になったところで、こっそり顔を洗っている。
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