兵庫県借地借家人組合本部

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コロナ禍で広がる「住まいの貧困」 契約社員女性「不安ない社会」訴え

2021-10-24 | 日記

                    コロナ禍で広がる「住まいの貧困」 契約社員女性「不安ない社会」訴え

コロナ禍で広がる「住まいの貧困」 契約社員女性「不安ない社会」訴え
https://www.tokyo-np.co.jp/article/137746

<民なくして10・31衆院選>

 新型コロナウイルス禍の中で、衆院選が19日公示された。サービス業を中心に壊滅的に落ち込んだ経済の立て直しや広がる格差、多様性ある社会の実現など、論点は多岐にわたる。長年続いた安倍・菅政権への評価も問われる。未来を決める一票の行方を見極めるため有権者のまなざしは熱い。

◆雇い止めで貯金底つく

 「新しい部屋は居心地がいいです」。19日夜、東京都世田谷区の住宅街にあるアパートの一室で、女性(35)は?を緩ませた。一人暮らし。9月から契約社員として働く。週2、3日は「居心地のいい」部屋でテレワークしている。
 埼玉県で生まれ、大卒後は就職活動をせず、アルバイトなど非正規雇用で暮らした。「コロナ禍の影響」を理由に、契約社員として働いていた製薬会社で雇い止めに遭ったのは3月。すぐ貯金が底を突き、生活のため金融機関や親族から30万円ほど借りた。
 当時は東京都調布市のアパートで一人暮らし。お金はないが、引っ越したかった。なぜなら、そこは東京外郭環状道路の地下トンネルルートに近く、昨年10月には近所の道路が陥没したから。工事を進める東日本高速道路に「補償はあるのか」と問い合わせても説明は不十分で、住み続けるのは不安だった。
 しかし、実家は経済的に余裕がなくて頼れない。困り果てていたとき、困窮者支援団体の住宅支援制度を知った。敷金・礼金などに充てる25万円の支給を受け、今年7月、ようやく引っ越した。「非正規雇用は収入が不安定。安心して暮らせる場所がなければ結婚や出産にも二の足を踏む。特に東京は家賃が高く、使いやすい国の支援があってほしい」と話す。

◆公的な住宅手当創設求める署名に6000人

 住まいを保障する制度には、離職や廃業した人に原則3?9カ月分の家賃相当額を支給する住居確保給付金がある。コロナ禍では対象要件が緩和され、2020年度の新規支給決定数(速報値)は、全国で前年度の34倍に当たる13万5000件となった。
 だが敷金・礼金などは支給されず、女性のようにまとまったお金がない状況だと費用が足りない。それに東京23区の単身世帯なら月収13万8000円以下といった、要件もある。
 状況を打開しようと、全国の研究者らによる「住まいの貧困に取り組むネットワーク」は衆院選を前に、公的な住宅手当の創設を公約にするよう各党に求める署名活動をオンラインで展開。公示前の半月で、約6000人が賛同した。
 ネットワーク世話人の稲葉剛さん=立教大大学院客員教授=は「日本では戦後、住まいの確保を個人の自助努力に頼る新自由主義的な政策がとられてきた」と指摘する。
 コロナ禍のみならず、災害や非正規労働者の増加、低年金、無年金高齢者の増加など、安定した住居を確保できない「住まいの貧困」は今後も広がる懸念がある。稲葉さんは「国は誰もが困ったときに利用できる無期限の住宅手当を導入すべきだ」と訴える。
 選挙は、こうした現状を政治に伝える好機だ。女性は「収入がなくなると住まいを失う不安が膨らむ。住まいがなくなる恐れのない社会になってほしい」とつぶやいた。(中村真暁)

あなたの家は大丈夫??事故物件の真相に迫る?

2021-10-10 | 日記
       あなたの家は大丈夫??事故物件の真相に迫る? あなたの家は大丈夫??事故物件の真相に迫る?
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4591/index.html

「事故物件」が新型コロナの中で増えているという。殺人や孤独死が放置された物件は特殊清掃に多額の費用がかかる上、物件価値も
大きく下がる。 そうしたリスクから一人暮らしの高齢者が賃貸を断られるケースや、離れた親族の死で突然巻き込まれるトラブルが
発生しているのだ。
なぜ今、事故物件が増えているのか?その真相を探るため、実際の事故物件や専門の不動産業者、さらには有名サイトを運営する「大
島てる」にも直撃取材。 誰しも身近に起きる可能性がある事故物件を徹底調査する。

出演者
玉置妙憂さん (僧侶・看護師)
保里 小百合 (アナウンサー)

#事故物件の真相に迫る

保里:自分が住んでいる家が「事故物件」だと言われたら、あなたはどう感じるでしょうか。コロナ禍の今、孤独死や自死が増えてい
ます。現状では、そうした物件の多くが「事故物件」として扱われます。
今、増加傾向にあると見られる事故物件の情報は、以下のリンクからもお伝えしています。

事故物件をわかりやすく記事で解説
・“事故物件” とは?賃貸で「告知義務は3年」のルール化も
https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/blog/bl/pkEldmVQ6R/bp/pk7D56Dqml/

調査によれば、事故物件に住みたくないという人は7割以上(AlbaLink調べ)。しかし高齢化が進む今、事故物件は今後さらに増えて
いくと見込まれています。誰しも無関係ではありません。なぜ、事故物件が増えているのか。そしてその結果、私たちにどんな事態が
降りかかるのでしょうか。

#事故物件の真相に迫る あなたの家は大丈夫?

「警察から電話があった。伊勢佐木署管内ですね」
まず取材したのは、事故物件を中心に取り扱う不動産会社。買い手のつかない事故物件を購入し、リフォーム。おはらいを行ったあと
販売しています。
「亡くなられた原因はどういった形になりますか?においが発生してきているとなると、ご遺体の腐敗がちょっと激しいのかなと」
事故物件には、どんな事情があるのでしょうか。
成仏不動産 社長 花原浩二さん
「殺人事件が起きた物件になります。自殺、他殺、孤独死、孤独死、孤独死、これも孤独死。やっぱり孤独死のほうが多い」
コロナ禍のことし、問い合わせが倍増。月に100件寄せられることもあるといいます。
花原浩二さん
「(他の不動産会社で)すごい安い提示を受けて、本当に困って困って、どこも相手にしてもらえなくて、駆け込み寺のように来られ
る方が多い」
今回、事故物件となった家を取材することができました。ことし1月に人が亡くなった、長野県の一軒家です。
不動産会社 あきんど 鎌田美智生さん
「この家ですね。靴のまま入っていただいて」
この一軒家に住んでいたのは、年金暮らしの72歳の男性。
鎌田美智生さん
「ちょっとここに人型の、ちょうど人1人が寝ていたのかなというくぼみがありましたので」
荷物に埋もれるように亡くなっていた男性を、警察が発見しました。
取材班
「ここにたくさんメモ紙がある。集金とかですかね」
亡くなって9か月。家の処分はなかなか進まず、放置されたままでした。
鎌田美智生さん
「これ全部ビートルズですね。ジャズも好きだったんですね、絶対に」
取材班
「通帳とか、マイナンバーカード。大事なものを親族が持っていかない」
男性は生涯独身で、近所づきあいもなく、ひとりこの家にひきこもっていました。
鎌田美智生さん
「孤独死される方は生活の変調があったりして、体が悪くなられたり、そういうので荷物の量が増えていったりもする」
相続した親族も扱いに困り、事故物件専門の不動産会社が買い取ることになりました。
今、孤独死は年間2万6,000件以上起きているといわれています。
さらに、コロナ禍で11年ぶりに自死の数も増加。年間2万人を超えました。
事故物件は、現代の孤独とつながっている。業者はそう言います。
鎌田美智生さん
「今、日本は核家族というか、兄弟どうしの関係も疎遠になってきている。人とのつながりを自ら切っていく方は多い。特別なもので
はなく、今の皆さんの生活の延長線上の縮図」
自死や孤独死で事故物件になると、その処分は残された家族に重くのしかかります。
ある日突然、事故物件を相続することになった女性が取材に応じてくれました。1人暮らしの兄を亡くした、千葉県の60代。処分の手
続きに追われ、悲しむ間もなかったといいます。
相続した女性
「薄情だって言われちゃうかもしれないけど、正直に言うと、面倒くさい」
7歳違いの兄は持ち家で30年間、1人暮らし。ここ数年は家族や親戚とも疎遠で、顔を合わせることはほとんどありませんでした。コロ
ナ禍になると感染を恐れ、さらに家に閉じこもるようになった兄。去年の夏、トイレで遺体が発見されました。死後2か月が経過して
いました。
相続した女性
「もうちょっと頻繁に連絡しておけばよかったと思う。コロナだからって理由にしちゃったところはあるかもしれない」
血痕やにおいを取る特殊清掃などにかかった費用は、およそ60万。家を不動産業者に買い取ってもらったものの、清掃費用にすら届き
ませんでした。
相続した女性
「煩わしいって言ったら怒られちゃいますけど、あれしなきゃこれしなきゃがたくさんあったので、悲しいって思うより、大変だなっ
て思う方が多い。やっと終わったって感じです」
事故物件になると下がる、資産価値。その下がり幅は、死因によって大きく異なっていました。孤独死で1割、自死で3割、殺人事件で
5割下がるというのです。
資産価値が下がるうえに、誰からも引き取り手のない事故物件。そのあおりを受けているのが、1人暮らしの高齢者です。
高齢者専門に物件を紹介する不動産会社に、80歳の女性が部屋探しにやってきました。
女性
「ことしいっぱいで、今いるところを出ていかなければならない。今80歳になって預金もないし、もう(寿命が)あと何年もないの
に、なんでこんな思いしなきゃならないのか」
住んでいる部屋の家賃が上がり、年金では払えなくなったというのです。この日、紹介されたのは、家賃4万6000円の六畳一間の風呂
なしアパート。これが払えるぎりぎりの額だといいます。
夫と死別して40年。ついの住みかを探していますが、年齢を理由に断られ続けています。
女性
「断られたのは3回です。(大家から)『ダメです。高齢者は貸してません』って」
住宅が見つからない、1人暮らしの高齢者。
事故物件を所有する、ある大家が貸す側の本音を明かしてくれました。所有していたアパートで、孤独死と自死が連続して発生。150
万円の特殊清掃代がかかりました。二度と経験をしたくない。その思いから、高齢者には部屋を貸したくないといいます。
事故物件を所有している大家
「孤独死だったり事故だったりとか、中で転んで打ちどころが悪くてという可能性も考えちゃうので、お断りするようにしている。本
当に『敷地から一歩出て死んでくれれば』というのがオーナーとしては正直なところ。部屋で死んでほしくないというのが本音です」
この不動産会社の最新の調査によると、家探しをする65歳以上の4人に1人が入居を断られていました。
R65不動産 代表取締役 山本遼さん
「4人に1人というのは衝撃的ですし、多分もっといらっしゃる。見つからない方はずっとお探しされていて、いちばん長い方は4年5年
ぐらいは部屋を探していますと言っていました」
高齢者の1人暮らしは、離婚や生涯未婚率の増加で700万人を超えました。高齢者全体の2割を占めています。
事故物件で生じる問題の解決に、国も乗り出しました。国土交通省はことし5月、事故物件の取り扱いについて初めてガイドライン案
を提示。その中で、おおむね3年間は借り主に告知すべきだとしました。(放送後、2021年10月8日に正式に策定)
しかし、ガイドラインの作成に携わった専門家でも、問題解決にはほど遠いといいます。
明海大学 不動産学部 教授 中城康彦さん
「今はネット等々でそういった(事故物件の)情報がいつまでも残り続けると、希釈されない。むしろ増幅される。次から次にその情
報がさらに拡散する。事故物件だというレッテルを貼る。大きな社会問題になってます」
専門家が問題視するのは、ネット上に残る「痕跡」です。動画サイトやSNSには、人々の関心を引く投稿が大量に残されています。
先駆けとなったのが、この事故物件のサイト。どの物件でどんな事件が起きたのか、6万件以上の情報が掲載されています。誰もが自
由に書き込むことができるため、情報の真偽は不確かです。
サイトの運営者は、元不動産業者。なぜこのサイトを作ったのか尋ねました。
事故物件サイト運営者 大島てるさん
「(事故物件を)怖いと思うのが、人間として自然な感情だと思う。『住みたくないんだ、人が亡くなったところに』と言っているの
であれば、その思いは尊重されてしかるべき。少しでも消費者の取捨選択に資するサービスを提供したい」
事故物件の詳細な場所や背景となった事件を調べることができ、アクセスが絶えないこのサイト。一方で、物件の情報がネット上から
消せない「デジタルタトゥー」という問題も指摘されています。しかし…。
大島てるさん
「私はデジタルタトゥーでいえば、彫り師の立場になる。(私が考える)ジャーナリズムの神髄は、誰かにとって困ることをさらすと
いうことに尽きる。むしろネガティブなことでなければ、載せる意義はないくらいに考えています」
日々増殖する、事故物件の情報の渦。負のイメージは拡大し続けています。
街頭インタビュー
「事故物件イコール、怖いというイメージしかない。幽霊とか出そう。なんか嫌だなって思います」
専門業者の元にはきょうも問い合わせが絶えません。
成仏不動産 社長 花原浩二さん
「事故物件のイメージが悪すぎる。人が亡くなることって普通のことなので、そんなに悪いイメージを持つ必要があるのか。正直、メ
ディアを含めて作られたものだと感じる。なので変えていく必要がある」

僧侶・看護師の玉置妙憂さんに聞く

保里:今夜は僧侶として、そして緩和ケアに携わる看護師としても活動されている、玉置妙憂(たまおきみょうゆう)さんにお越しいた
だいています。よろしくお願いいたします。
玉置さん:よろしくお願いいたします。
保里:たくさんの人の死を見つめてこられた玉置さんは、この事故物件の現状をどうご覧になりますか。
玉置さん:今VTRを拝見して2つ思ったんです。1つは、死というものに対する想像力がとっても貧困だなと。小さいなと思ったんで
す。なのに死後の、特にマイナスの感情ですよね、怨念とか恨むとか、そういうようなことに関しては非常に何か大きな怖いものを抱
えている。そのアンバランスさを感じました。
保里:昔よりも、その想像力が乏しくなってしまっている?
玉置さん:そうですね。昔はたぶん死というのは地続きにあったんですね。里があって、里山があって、山があって、山の辺があっ
て、そして山のかなたに亡くなった方がいた。ところが、今はそんなことはないですからね。そして家で亡くなる状態を私たち、見な
くなりましたから。やはり「知らない」ということが怖さを生むんだと思います。
保里:この事故物件の問題を見ていますと、人と人とのつながりの希薄化ですとか、あるいはみずから命を絶つことを考えてしまう人
が多くいるという、さまざまな現実が浮き彫りになってくるように感じます。事故物件と忌み嫌うだけでは、状況は悪化するばかりな
のではないか。安心して住まいを確保できないという問題、これは誰にとっても関係のない問題ではないと感じます。超高齢社会にも
う突入している今、孤独死と呼ばれる死とどう向き合っていけばいいでしょうか。
玉置さん:私はまず「孤独死」という言い方が、少しひっかかるんですね。人間というのはもともとひとりなもので、ひとりで生まれ
てきて、ひとりで死んでいくというのが普通のことだと思うんです。でも、その方がひとりで命をしまったからといって、それを孤独
死だったというふうに何か決めつけてよくないような言い方、イメージを持たせるというのはちょっといかがなものかなと思います。
むしろ、ひとりできちんと命をしまっていった「孤高死(ここうし)」というふうに考えてもいいんじゃないかと思います。そういうふ
うに、その方の人生を大切に「ああ立派だった」というふうに考えられれば、決して事故物件というような概念は生まれてこないよう
な気がするんです。
保里:ひとりで亡くなるということが当たり前でもあり、そして尊いことでもあるはずなのだということですよね。
玉置さん:そうですね。本来それが私たちの姿だという考え方ですね。
保里:ただ、さまざま孤独死と呼ばれる形で亡くなって、そして誰にも気付かれずに時間がたってしまうということを減らしていくた
めに、対策というのも始まっています。高齢者も相談可能な物件サイトですとか、空き屋を利用した住宅セーフティネット制度など、
対策も広がっています。以下のリンクからも、情報をお伝えしています。

高齢者の住宅問題 支援窓口
・支援窓口まとめ “65歳以上は入居拒否” 高齢者の賃貸住宅問題
https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/blog/bl/pkEldmVQ6R/bp/pE6LJ8p7yP/

ひとりで亡くなる人を放置しないというために、玉置さん、私たちができることというのはあるのでしょうか。
玉置さん:あると思います。それを考えるときに、「じゃあ、あとは家族でやってください」というふうに、ご家族だけにその役割を
担わせるというのは私は違うと思うんです。これからの時代は管理ではなくて、「緩くつながる」。同じ時代を生きているものと、人
間どうしのつながりが必要だと思うんです。もうすでにいろいろな試みがされていると思いますが、私も「訪問スピリチュアルケア」
という形でそういった緩いつながりができていかないものかなと思ってやっているところです。
保里:第三者が介入する。その取り組みをされていて、届いたなと感じたことはありますか。
玉置さん:だんだんと表情が変わっていったり、それから少し生きる気力を取り戻していただいたり、そんな手応えを感じるときはあ
ります。でも一番大事なのは、話を聞く人間がそばにいるということではないかなと思います。
保里:さまざまな形で、家で亡くなる人が増えていく。これは避けられないことだと思いますが、玉置さん、どう私たちは向き合って
いくべきでしょうか。
玉置さん:やはり、人間はいつか死ぬものなんだと。今、ひと事のように考えて「怖い」とか、「事故物件だ」なんて言ってしまいま
すが、いずれ自分にもそのことが訪れるんだと。そういうことをやはりいちばん最初にもう一度腹に落としておくというのが、最初の
一歩なのではないかなと思います。
保里:事故物件の問題を通して、人が当たり前に死ぬということ。このことをとても改めて考えさせられ、認識させられました。私た
ちの生活の基盤である住宅の問題。あなたはどう向き合いますか。

・看護師僧侶・玉置妙憂さん 未公開トーク「家で死ぬことを再考しよう」
https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/blog/bl/pkEldmVQ6R/bp/pbyV8QO39N/?cid=gendaihk-hp-211006-gendai-02

「鬼門のトイレ」を欠陥とみなす司法 非合理な嫌悪感が支える自死差別 国交省案は国の大綱にも背く

2021-10-02 | 日記
          「鬼門のトイレ」を欠陥とみなす司法             非合理な嫌悪感が支える自死差別              国交省案は国の大綱にも背く 「鬼門のトイレ」を欠陥とみなす司法 非合理な嫌悪感が支える自死差別 国交省案は国の大綱にも背く
https://nordot.app/811199887471656960

 殺人や自死のあったいわゆる「事故物件」の取引について、国土交通省がガイドライン案を公表し、策定の最終段階に入っている。
それによれば、殺人や自死、火災などによる死亡の場合、3年間は取引の相手方に告知する必要があるとされる。その妥当性について
調べていて、過去に「鬼門のトイレ」に関わる訴訟があったことを知った。(共同通信編集委員、47ニュース編集部=佐々木央)

 2階建て住宅の建築を頼んだら、業者が1階のトイレを鬼門の方角に設置してしまった。それが目的物の瑕疵(かし、傷や欠陥の
意)に当たるのかどうかが争点となった訴訟である。
 ここでいう鬼門とは、例えば「私にとって数学は鬼門だ」というときのそれではない。文字通り「鬼の出入りする門」という意味
で、忌むべき方位とされる。艮(うしとら)、北東の方向がそれである。
 判決は「鬼門のトイレ」を欠陥であると肯定した。次のように理由を述べる。
 「入居者に不幸、難病が起こるかもしれないとの不安、懸念を与え、心理的な圧迫感をもたらすものであることを否定し難く、(中
略)建築関係者においても家屋建築上この習俗的嫌忌を避止すべきものとして認識されている」
 北東にトイレを設置すれば、不幸が起き、難病にかかる。そういう不安、懸念は否定できないと、判決は言う。明治や大正時代では
ない。20世紀も後半、1979年6月22日の名古屋地裁の判決である。
 鬼門のトイレを欠陥とすることは、どう考えても非科学的であり、不合理であろう。現在、部屋を借りたり、家を買ったりする人
で、鬼門を意識し問題にする人はほとんどいないはずだ。

 ▽法的価値判断というに値しない

 であるならば、自死の事実はどうか。物理的な毀損(きそん)や汚損が修復された後も、見えない傷が残るのか。
 この見えない傷を、不動産取引では「心理的瑕疵」と呼ぶ。自死などがあった物件は、心理的瑕疵ゆえに価値が低落するとされる。
国交省がまとめたガイドライン案は、自死や殺人を「嫌悪すべき歴史的背景」とする判例を引用し、取引の相手方にその事実を告知す
る義務を定めた。現状を追認した内容だが、それは違法状態を肯定し、野放しにすることを意味している。
 どのような意味で「違法」と評価されるのか。民法は、こうした私人間の取引や家族関係などを規律する法律だが、その第2条は民
法全体の解釈原理についての宣言である。
 「第2条 この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない」
 こうした不動産取引において「個人の尊厳を旨とする」とは、どういう意味を持つのか。多くの裁判例が安易に心理的瑕疵を肯定す
る中で、自死と個人の尊厳との関係に踏みこんだ裁判例を見たい。90年10月2日の福岡地裁決定がそれだ。
 「およそ個人の尊厳は死においても尊ばれなければならず、その意味における死に対する厳粛さは自殺かそれ以外の態様の死かに
よって差等を設けられるいわれはなく、それゆえ自殺という事実自体が本来忌むべき犯罪行為などと同類視できるものではなく、また
自殺という事実に対する評価は心情など人の主観的なものによって左右されるところが大であって、自殺があったそのことが当該物件
にとって一般的に嫌悪すべき歴史的背景であるとか、自殺によって交換価値が損なわれるものであるとかいうことは、とうてい客観的
な法的価値判断というに値するものではない」
 福岡地裁決定は、自死と他の死の態様を区別し、自死によって心理的瑕疵が生じるという考え方を、個人の尊厳に照らして「とうて
い客観的な法的価値判断というに値するものではない」と退けた。

 ▽生の終着点である死は等価
 学問の世界はどう見ているのか。
 横山美夏・京都大教授は「個人の尊厳と社会通念―事故物件に関する売主の瑕疵担保責任を素材として」(『法律時報』85巻5
号、2013年5月)と題する論文で次のように述べる。
 「民法2条により、民法の解釈にあたっては、生の終着点である死はその態様いかんに関わらず等価値に扱われるべきであり、ま
た、不必要な死は極力回避されなければならないが、生じてしまった死それ自体を否定的に評価すべきではないといえる」
 「自殺の事実に対する消極的評価を前提として、通常一般人が『住み心地の良さ』を欠くと感じるときは自殺の事実が瑕疵となると
する裁判例は、民法2条の趣旨に反する。同条の趣旨からすれば、たとえ通常一般人がそのように感じるとしても、まさに規範的な意
味でその合理性が否定されるべきではないか」
 最後の「規範的な意味で」は説明が必要かもしれない。状況をそのまま受け入れるのでなく、一定の価値判断に基づいて、何が正し
く、何が正しくないかを考察する姿勢のことだ。裁判所は迷信や俗説、非科学的な忌避感や嫌悪感に依拠せず、個人の尊厳に基づいて
法を解釈・適用するべきだという主張だろう。
 横山教授は告知義務についても、同じ論文できっぱりと否定する。
 「民法2条により、売主は、相手方がその意思決定に際して個人の尊厳に反する事項を勘案できるよう助力する義務は負わない。し
たがって、売主は事故の事実につき告知義務を負わないというべきである」

 ▽追い込まれた側をさらに追い込む

 自死に心理的瑕疵を認める考え方は、国自身の基本姿勢にも背いている。
 すなわち自殺対策基本法第1条は「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指して」と目標を明記する。逆に言えば、今
の日本社会では「追い込まれた末の自死」があることを認めているのだ。
 国の自殺総合対策大綱はもっと明確だ。基本理念として「自殺は、その多くが追い込まれた末の死である」と言い切り、さらに「自
殺の背景には、精神保健上の問題だけでなく、過労、生活困窮、育児や介護疲れ、いじめや孤立などのさまざまな社会的要因があるこ
とが知られている」との認識を示す。
 心理的瑕疵を認めるということは、自死という態様の死をおとしめることを意味する。賃貸住宅で亡くなった場合なら、個人の自発
的選択であるとみなすことで、その損失を遺族の側だけに負担させる結果を招く。多くが「追い込まれた末の死」であるのに、追い込
まれた側をさらに追い込むのだ。
 自殺総合対策大綱の基本方針は「経済・生活問題、健康問題、家庭問題等自殺の背景・原因となるさまざまな要因のうち、失業、倒
産、多重債務、長時間労働等の社会的要因については、制度、慣行の見直しや相談・支援体制の整備という社会的な取組により解決が
可能である」と述べる。立法や行政を含む社会の側がもっと動きなさい。そう促している。
 そもそも、欧米の多くの地域では、建物内での自死を心理的瑕疵とみなさない。日本社会での偏見・差別がにわかに是正できないな
ら、せめて自死が起きた場合に備えた保険制度によって、公平な負担を図るといった現実的な対応も進める必要がある。
 大綱の基本方針は、関係機関に社会的要因を解決するための「制度、慣行の見直し」を求めている。国交省は自死差別の根本に切り
込み、制度・慣行の変革を目指すべきだ。