あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

肉の終焉

2016-07-03 05:42:38 | 空想コラム
食の終焉 食の終焉

世界を救うものとは何か。
それは今ある食の終焉である……。
それなくして世界を救うことは最早できないであろう。

わたしは、がむばるぞ。
食欲に負けて魚介類と乳製品と卵を買うのをやめるのだ。わかったか、じぶん。
くっそぅ、俺はやってやるのだ、負けるかァ、そうしなければ世界は破滅する。
つまり自分の食欲のせいで世界は破滅す。
わはは、世界の生命はわたしの食欲に懸かっている。これをやらぬならなにをやるのだ。俺は世界を救う。ははは。救う。
俺は、負けないよ、ばか。俺は負けたくない。俺は俺の食欲に負けたくない。俺はやってやるんだからね。ああ、やってやるともさァ。とにかく、俺はもう畜肉に加え魚介類や乳製品や卵も食べないからね。俺は頑張るんだ。頑張るんだキーオ。頑張るんだキーオ。俺が世界を救わないで誰が救うんだ。ははは。俺の世界を。ぱはは。もう嫌だ。俺は俺が俺を情けなく想う。俺はもう食べたくない。動くものたちをせめて犠牲にはしたくない。痛みを感じるものたちを犠牲にしてまで食欲を楽しみたくはない。充したくはない。俺は神から与えられた食物たち、すなわち植物だけを食べて生きて死ねば良いのだ。そうなりたい。ずっとそう思ってきた。できないはずはなかろうが、やればできる、やってればできている、やってればできてくる、やればいい、やりたいことを、やりなさいとそう神は僕に言っている、そう、聞こえ、る、僕はやりたいことをやろう、そうして一人で死ぬる。るるるる。るるるる。ぬるぬるな街を気づけば俺は歩いていた。すべてがもう、も、ぬるぬるやった。何がこんなぬるぬるなんだと思ってよく見たらば、ははは、ははは、ははは、笑う、笑えない、全部、街じゅうが鮮血でぬるぬるやった。ははは、笑う、笑えない。ははは、至る所に肉片らしきもの、なにがどうなってこうなったんだ、ははは、笑えるだろうか、笑えない。生きてるもんはおらんのかあっ。俺は叫ぶ。どれだけ歩いても肉の塊しか落ちていない。何故だかどれも新鮮だ。よく見ると動いてるものも多かった。気づくの遅すぎ。なにをしてやることもできなかった。彼らは死が降りてきている。俺はというとまだ死は遠くから俺を眺めてにやにやとしている。絶望的に血の匂いしかしない。転がった肉片を焼肉にして食べたところで、どうやって暮らせばいいかわからない、肉しかない、肉町。肉町を生きる人間を俺は探し歩いた。すると知らない男がぬるぬるの血カフェに座っているのを発見した。俺は男に向かって言った。「おい、お前はなにをのんきにコーヒーを飲みくさっとるんだ。おまえの座っとる椅子、血でぬるぬるやないか。気にならんの?俺は絶対そんな椅子に座りたくない。おまえは気がおかしくなったんじゃねえの?おまえの履いてる白のジーンズ?血でぬるぬるやないか。なんでそんな涼しい顔で座っていられるのか意味がわからない。俺にわかるように説明する気はあるかどうか今俺はおまえに問うている。あるのか」男は俺の方を向くと咄嗟に口を手で押さえて笑いだした。そしてこう返した。「なんか言ってるよ、生きてないくせに。なんか言ってるよ。生きてないくせに。なんか言ってるよ。生きてないくせに。なんか言ってるよ。生きてないくせに」俺はゾッとした。こいつ気が狂ってもうたんだ。と思う恐怖と、あ、俺も死んでるんだ。という恐怖が二つ同時に襲ったので俺はほんまにゾッとした。俺は咄嗟に自分の手を見た。もしこれが夢ならば、指が6本から7本はあるか、全部が小指の長さなど、どこかおかしいはずだ。しかし指は5本でおかしいところは何もなかった。さらに足元を見た。これが夢なのならば足は靄がかかったように見えなくなっているはずだ。しかし足はちゃんと見えた。これは夢ではない。これは夢ではない。これは夢ではない。血塗られた世界に気が狂った男と死んでるかもしれない俺が生きてるかもしれないという現実のようだ。俺は男に話を合わせ、質問の続きをすると男はこう言った。「何が起きているかも知らないなんて、さすが死んだ人間だね。哀れだ。では俺が教えてやるよ。何故こんなことになったか。まず、世界は雨を降らすことを忘れてしまった。原因は人間が齎した環境破壊による異常気象。阿鼻叫喚地獄が世界中で延々と続いた。そして最後に生き残った人間たちはやっと心を入れ替えたんだ。他者の肉を散々貪り尽くした彼らが最期に選んだのは、人間らしい、来世の報いへの恐怖から自分を犠牲にして死ぬことで少しでも来世は楽に生きたいと願う死に方だった。彼らは皆、悔い改めながら、自分の肉体に拷問をかけた。自分で自分の肉体を解体していったんだ。自分で解体できなくなると側にいる人間に頼んで解体してもらった。そして飢えた肉食獣たちに自分の肉を与えようとすることで、神に赦しを請うた。しかし肉食獣たちは皆人間たちによって滅ぼされた後だった。誰も彼らの肉を、食う者はいなかった。彼らは誰の為にも死ねなかったんだよ。それが彼らへの最高の報いだ。君はあんまり酷い記憶なんで記憶を喪失させたんだ。教えてやろう。最後の最後に人間たちを解体し、最後自分を解体しながら自分の肉を食べ、その排泄物の中で死んでいたのは君だよ」俺は男に向かって「おまえは一体なんでそこまで知ってるんだ」と問うた。男はその瞬間椅子から立ち上がると俺の目のまえでまるでたたんだ洗濯物のように解体されかけている肉体の姿に化すと顔のないその肉の塊は俺に向かって「おまえが初めて食べた肉が俺だ。俺はおまえの重要な一部と化したからだ」と言った。


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