今日は、私にとって特別な思いのある日だ。
1981(昭和56)年、10月6日。 当時、高校3年生。
この日は、校内の合唱コンクールが開かれた日だ。
普通の公立校である。 特別レベルが高いわけでもなく、 そこらの学校の合唱祭である。
しかし全校3学年で25クラス。 その中で3位まで入るのはかなり難しい。
私はそのコンクールの指揮者に選ばれた。
私のクラスは担任も音楽の先生で、
クラスメートの半分以上が何らかの楽器を経験しているなど、
「最強の音楽クラス」だった。
誰が指揮者になってもおかしくないクラス。
そんな中、 なんとなくマジメで、 なんとなくクラシックに詳しく、
なんとなく指揮者が似合っていそうだった?という、 私が選ばれたのだ。
当然ながら、 我が3年7組は優勝に一番近いクラス、とも言われていた。
そして、 ピアノ伴奏者に選ばれたのが、
その時私が、クラスで一番好きだった子になった。
でも、同じクラスにいながら ほとんど話をした事がなかった。
ピアノが弾けることもこの時初めて知ったくらいだ。
発表は自由曲一曲だけ。一発勝負だ。
私たちは、かつてこの学校の合唱コンクールの歴史で、
まだ一度も歌われたことのなかった、英語(原語)の歌に挑戦した。
今は、英語の歌詞の合唱曲など当たり前かもしれないが、
この時は、私のいた普通高の普通の合唱コンクールの普通クラスが
英語で歌うとは誰も考えていなかった。
『マイ・ウェイ』。
今となれば、それほど難しい曲ではないし、 むしろ英語で歌うほうが楽だ。
しかしこの時は、私達とすれば大英断だった。
『優勝に一番近い最強のクラス』だったが、 練習は思うように進まない。
とにかくほぼ全員が進学希望だった。
大事な時期に放課後の練習時間は増やせなかった。
ある日、伴奏の彼女と衝突した。
テンポをゆっくりめに、と言っても従ってくれずマイペースで弾き飛ばす。
指揮と伴奏がズレるという、一番あってはならない型となった。
戸惑うクラスメート。結局練習を切り上げる。
そのあと放課後、音楽室でピアノ練習している彼女に、
一言言ってやろうかと思い部屋に入ったが、
真剣な表情で弾いていた彼女を見て、気持ちが揺れ動いてしまい、
「さっきはごめん」と謝ってしまった。
彼女は ちょっと恥ずかしそうに、『私こそごめんね』と謝ったあと、
『優勝しようよ。卒業の一番の思い出にしたいわ』
そう言ってくれた。
それからのクラスは、大変なまとまりを見せた。
皆、私が彼女を好きでいる事も知っていた。
「指揮者と伴奏者に、花を持たせてやるよ」とまで言われた。
そして、運命の27年前の今日を迎える。
私達は、英語で「マイ・ウェイ」を歌い始めた。
ざわつく場内。 先生達もが驚いたという。
私達のクラスだったからこそ、 正統派の合唱曲で来ると思ったのだろう。
しかし、誰もが驚いた英語の歌詞だけでなく、
音量、ハーモニー、すべてにおいて完璧だった。
私の指揮も、担任の先生に指導を受けた甲斐もあり、 100点の出来だった。
優勝を確信して、私達はステージを降りた。
そして、結果発表。
優勝は、1年生のクラス。 私達は、準優勝だった・・。
呆然とする私達のはるか前列の席で、
狂喜乱舞する1年6組の姿が、今も忘れられない。
私達は、なぜ優勝できなかったのか・・。
決して、最強クラスの驕りはなかったと思っている。 練習は真摯で、本番も完全で・・。
もしあるとすれば、 1年6組の、1年生とは思えない素晴らしい出来が優っていたという事だ。
1年6組の声量はすごかったが、
合唱としてのまとまり、レベルは3年7組の方が間違いなく上だったようだ。
しかし、これはNコンのようなハイレベルなコンクールではない。
大きな声で、男子の音程さえしっかり聴こえれば高得点という、
『普通の合唱コンクール』での結果として、受け入れなければいけなかった。
真剣に向き合った私達は、3年生ゆえに負けたのだ。
その後・・、
私は、この指揮者をした経験と、 準優勝に終わった悔しさから、
社会人になってから、合唱団への入団に至った。
そして、伴奏の彼女は、 ピアノを活かして短大の幼児教育の道へ進む。
卒業して数年後。 彼女と電話で話す機会があった。
『あの頃、私はピアノ教室で5冊の楽譜の練習をしていたの。
そこへ合唱コンクールなんて押しつけられたから、気が立ってたのね。
でも、みんなの前で私達、ぶつかるのは良くなかったね。
反省してる。迷惑かけて本当にごめんね。』
続けて
『順位は二番だったけど、やっぱり思い出は一番だったよ。
頑張ったよね。私達のクラス』と、楽しそうに語ってくれた。
それだけでも、私の高校生活は幸福だった。
あれから27年という長い年月。
しかし、今でも鮮明な記憶に残るあの秋の日・・。
18歳の、私のすべてだった。
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