シャープ & ふらっと

半音上がって半音下がる。 それが楽しい、美しい。
思ったこと、感じたことはナチュラルに。  writer カノン

歌えることの幸せ

2011-05-24 04:00:39 | 音楽を聴く

先日、ひとりの人と道で会った。 私が昔いた、合唱団の人だった。

『どうですか。また歌いに来ませんか?』

 

アルトの女性。 もう30年近く、合唱団にいる人だ。

年々、団員は減少している。 テノールだった私は、今でも「貴重な」存在らしい。

昔話を楽しんだのだが、 彼女がふと口にする。

『そういえば、ソプラノの○○さんや、ベースの△△さんも、 もう亡くなられたのよ・・。』

あの当時、若かった私と対等に接して下さった年配の方々が、

次々に他界されていると聞く。

『歳をとって死ぬとは限らない。震災で亡くなった方もいるし、

生きているうちに、出来ることをしたいわよね。』

彼女はそう言った。

 

私がここをやめて、 次に入った合唱団では、

Fさんというソプラノの女性がいた。

ある時、若い団員のK君が、

「練習がつまらない。好きな曲ではないし、団を辞めたい」 と言った。

するとFさんは、

『歌を歌えることが、どんなに幸せか考えてね。

生きているうちしか、音楽なんてできないのだから』

穏やかな口調で、そう言ったという。

K君は、結局団に残った。

 

半年後、Fさんはがんで他界する。

K君は、その時の言葉を合唱団の会報に寄せ、 皆の知ることとなる。

Fさんの言葉は団員の胸を打った。

 

前述のアルトの女性には、 ひとつ約束をしておいた。

「二年後に50歳になるので、その時また戻ろうと思います。」

これは社交辞令でもなんでもない。

50歳になったら、新しいことを始めるのではなく、

好きだった合唱に戻ろうと、ずっと考えていた。

娘も、二年後に20歳になる。 私の時間も作れることになるからだ。

 

歌をうたえる幸せ。

生きているからこそ、音楽に接していけるのだ。

人生の後半も、自分の中にあるといいなと思う。