以前、図書館に入り浸るようにして本を乱読していた頃、偶然、椎名誠の本を読んだことがある。何冊か立て続けに読んだ。あの、「ワニ目のナントカカントカ」というのが出てくる本は言葉の調子その他が好きではないが、ふとしたことで純文学系の彼の作品を読み、ああ、やはりこの人はこういうところのある人なのだ、と思った。もちろんこちらの勝手な感想でしかないけれど・・・。そんなとき、彼の書いたことの中に、変な女につきまとわれている、ということが書かれていて興味深く読んだ覚えがある。椎名誠の知らない人の様なのだ。その女はこう言うそうである。椎名誠の書いた文章を、自分が書いたものだ、と。変なことを言うものだと思った。誰が聞いたって自分たちがたった今楽しんで読んでいるその本の文章は、椎名誠が書いたもの、ワープロかもしれないが、おそらくは1字1字原稿用紙のマス目を埋めて書いたもの、と思っているだろう。それが当然だ。ところが、それを、自分が書いたと言って、それも言うだけではなく、言いつのって、つきまとったらしいのである。そういう女がいたそうなのだ。どの程度つきまとったかは知らないが、ずいぶん迷惑だったらしい。ゆがんだ読者か何かだったのかもしれない。ファンの中には気持が高じ過ぎて、その人が書いたものを見た瞬間に、そうそう、と思い、思う間もなくトンネルの・・・、ではなく、自分が書いたような気になるという人は、少しはいるかもしれない。しかし、その女は自分が書いたと言ってはばからなかったそうだ。やはり変だ。椎名誠の側が迷惑ということで訴訟でも起こしていれば、その相手側の分からないところがどういうものか、詳しいところは裁判で明らかにされたかもしれない。
面倒だったのだろうなと思う。出版社もガードはしただろうけれど、それにしても・・・。
一時期、テレビなどで椎名誠が仲間の人たちとカヌーで川遊びをする風景が放送されたりして、楽しそうなので時々は眺めていたのだが、いつもその時に気になったのが、あの画面の後ろの方の川岸に映っている人たちである。皆一様に無表情で黙ったまま突っ立っている。中には比較的若い女もいたようだ。仲間とやって来て楽しくしゃべりながら見ているという感じではまるでないことが多いのだった。見ていて何か不自然で不気味だった、という記憶がある。
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