弁護士早瀬のネットで知財・法律あれこれ 

理系で特許事務所出身という経歴を持つ名古屋の弁護士があれこれ綴る雑記帳です。

東京地裁平成26年10月30日判決(平成25年(ワ)第6158号)

2015-01-13 18:53:02 | 特許

標記の事件、昨日の日経法務面に載っていた事件です。

元社員の発明者が、野村證券に対して、職務発明対価請求をしたというものでした。

野村證券というと証券会社であってメーカーではないですが、業務に用いるコンピュータシステムなどの発明が生まれることはあります。

原告となった元社員さんは解雇無効も争っていて、この発明対価請求では、もとは290億円請求できるけど、そのうち2億円を請求するんだという話になっていて、会社とガチンコで争ってます。

 

日経の記事にあったように、本件の特色は、会社が設けた職務発明規程の合理性を判断する基準を裁判所が示したところにあります。

ここが、これまでにあった発明者による対価請求事件とは少し違うところ。

 

まず、前提として、従前、特許法の職務発明既定(35条)では、会社に権利を譲渡した際の対価は裁判所が定めるという形になっていました。

そんな中で、例の青色LED訴訟のように、600億円というビックリ金額を裁判所が認定するという事態も生じ、対価を予測できないのは問題だという企業側の要望もあって改正されました。

すなわち、発明譲渡の対価は、原則として会社が定めた規程によること、その規程が不合理なら裁判所が定めるという現行の形になりました。

会社が職務発明規程が合理的かどうかは、以下の事情を考慮して判断すると定められています(特許法35条4項)。

 A 対価決定のための基準の策定に際しての従業者等との協議の状況

 B 基準の開示の状況

 C 対価の額の算定についての従業者等からの意見聴取の状況

 D その他の事情

 ※ ちなみに、現在は、これをさらに改正しようとしています。

 

これまでの対価請求事件は、特許法の旧規定に基づくものがほとんどでした。 

それに対し、本判決は、改正後の職務発明対価に関して、会社が定めた規程の合理性を判断するうえでの基準を示したというわけです。

 

具体的には、

 ・まず、考慮要素として法律で例示された上記A~Cの手続を経ているか判断する

 ・上記A~Cの手続を欠くときは

  「これら手続に代わるような従業者等の利益保護のための手段を確保していること,その定めにより算定される対価の額が手続的不備を補って余りある金額になることなど特段の事情がない限り,勤務規則等の定めにより対価を支払うことは合理性を欠くと判断すべきものと解される。」

という基準を示しています。ここが新しいところ。

 

その上で、野村證券が定めていた職務発明規程について、判断しているわけですが、

 ・規程を定めるうえで、従業員の意見も聞かず、具体的な算定基準も開示していない

 ・金額算定について従業員の意見を聴くことも予定していない

 ・代替手続もなく、算定金額も他の会社とあんまり変わらない(手続的不備を補うような高額ではない)

という理由から合理性ないねと結論づけました。

 

で、このように野村証券の職務発明規程は不合理だとされたので、対価は裁判所が判断します。

でも、結局対価は認められていません。

なぜかって、この発明、出願したけれど、権利(特許権)が成立しなかったからです。

特許権という独占的権利がない以上、会社は発明によって利益を得ているわけではないですからね。そりゃそうです。

 

というわけで、本件は、職務発明規程を設けている企業にとって、規程を作る上でどうすればいいのか、一つの参考になる案件です。

野村證券と同じように、規程はあっても手続を踏んでないゾという場合は、早急に対処すべきですね。

 

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東京地裁平成26年(ワ)第18199号(平成26年12月18日判決)

2015-01-07 23:07:37 | 法律一般

特許に関して、昨日から話題になっていると言えば、このニュースでしょうか。

 トヨタが燃料電池車の特許を無償開放へ

トヨタが所有している燃料電池や水素ステーションに関する特許を無償開放するというものです。

無償開放というと、勝手に使っちゃっていいんだ?と思ってしまいがちですが、ニュースリリースを読むとそうじゃありません。

きちんと利用申し込みをして、契約により、2020年末くらいまでの間(水素ステーション関係は期限なしです。)、無償の実施権が得られるということのようです。

一部を除いて期間限定だし、特許権を一般に開放するというのはあまり例がないので、どこまでの効果が見込めるのか、わかりませんが、トヨタさんの目論見通りに行くといいですね。

 

さて、今日は、判例検討したいと思います。

表題にある通り、東京地裁平成26年(ワ)第18199号(平成26年12月18日判決)です。

本件は、発信者情報開示請求事件。

原告が、あるウェブサイトのデータを記憶するサーバの管理者に対し、当該サイト運営者の情報(住所とか名前・名称など)を開示せよと求めました。

 

なぜ、こういうことをするか。

 ウェブサイトで原告の権利が侵害されているので、その侵害者に対して差止めや損害賠償を求めたい

 でも、サイトを見ただけでは侵害者が誰なのかわからない

というのが理由です。

 

本件では、原告は、「ケノン」という家庭用脱毛器を販売している会社です(よく売れているらしい…)。

一方、問題となったサイトは、他社が販売する家庭用脱毛器「ラヴィ」を、原告商品と比較しつつ宣伝するページ。

具体的には、

 ・他社商品の宣伝ページでありながら、ドメイン名が「ケノン.asia」となっていて、原告商品の名前を使っている

とか、

 ・商品スペックや機能等を比較する比較サイトを装いながら、結局、他社商品が優れていることを示して他社商品購入ページへ誘導する

  比較において、原告商品の出力は52ジュールだが、他社商品は78ジュールで業界ナンバー1と記載 (実際に測定してみると、原告商品の方が1.4倍も出力が高い)

といった内容でした。

 

そんなわけで、原告は、上記サイトの内容は、

 ・ドメインの不正目的使用(不正競争防止法2条1項12号)

 ・商品の品質誤認表示(不正競争防止法2条1項13号)

という不正競争行為であり、それにより自身の権利を侵害していると主張したのでした。

 

結論として、原告の主張が認められて、サイト運営者の情報を開示せよ、という判決になっています。

サイトの内容からすれば、そのサイトの運営者は、他社商品を販売する会社かその関連会社なんだろうと、たいだい想像つきますよね。

また、原告がいろいろ調べてみたら、他社商品の販売会社に関連する情報も出てきていたようです。

でも、確実な資料がなかったみたいなので、発信者情報開示請求をする必要があったのでしょう。

 

本件訴訟は、あくまで発信者情報開示請求です。

本件での勝訴によってサイト運営者の情報が開示され、それは、おそらく他社商品を販売する会社かその関連会社でしょう。

今度は、その会社に対して、不正競争行為によるサイトの差止めや損害賠償請求していくことになります。

侵害者が不明だと、いろいろ大変ですね。

 

ところで、本件で問題となった家庭用脱毛器のように、あるヒット商品が出ると、後発商品が出てくるというのはよくあることです。

そういう場合に備えた対策としてもっとも有効なのは、基礎となる技術について特許権を取得しておくことですね。

 

では、特許が取れなかった場合はどうするか?

技術では難しいとなると、考えられるのは、意匠権の取得ですね。

 

ただ、商品によっては意匠権でも対処が難しい場合がありますので、特許取れない、意匠でも難しいとなると、相手が不正競争行為をやってきた場合くらいしか、法的な対処はできない。

 

 

アイデアやデザインの利用は、特許や意匠が取られていない限り自由です。

だから、後発商品といえども、その方が優れていればそっちが売れる、というのが自由競争。

そうすると、特許や意匠での対策が難しければ、

 ・後発商品に負けないよりよい商品、価格、宣伝、これをしっかりやる

 ・商標権を取得し、名前までパクられないようにした上で、ブランド価値を高める

 ・客観的かつ根拠のある比較はいいけど、本件のように、ウソの宣伝広告するのはやりすぎなので、そういう場合はきっちり法的対処をする

と、こういうことなんだろうと思います。

 

※なお、不正競争行為が許されないのは、特許や意匠の取得とは関係ないので、特許や意匠を取っていても、不正競争行為への法的対処は可能です。

 

 

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年頭にあたり ~1年の目標~

2015-01-05 21:32:39 | その他

皆さま、新年あけましておめでとうございます。

本年も、このブログにて、知的財産やその他いろいろな記事をアップしていきたいと思いますので、引き続きお付き合いいただきますようよろしくお願いいたします。

 

さて、本日は仕事始め。

新年1回目の記事は、その仕事始めの日にあたり、今年1年の目標を書いてみようかと。

やっぱり、目標というものがあって、それを公言した方が、自身の行動の動機付けになるし、年度末に1年を振り返る際の指標にもなると思うので。

 

1 顧問先さらなる増加

おかげさまで、昨年は、2つのお客さまと顧問契約を結ばせていただきました。

本年も、同程度の数のお客様との間で顧問契約を結ばせていただければと思っています。

顧問はご縁というのもありますので、あくまで一方的な希望ですが…

 

2 新規プロジェクトの立ち上げ

昨年末に、知り合いの方から新規プロジェクトのお話をいただきました。

そのプロジェクト、なかなか面白い試みだなあと思っています。

まだ構想段階であり、クリアしなければハードルもあるのですが、一つ一つ乗り越えて、協力し合いながらうまく立ちあげたいと思っています。

 

3 他の士業との連携(コラボ)模索

弊所では、現在も、特許事務所との連携により、知的財産のワンストップ化が実現しています(AIGIグループ)。

これを強化していくことがまず一つに挙げられます。

が、それ以外の分野でも連携を広めていけないかなと考えています。

すでに知り合いの司法書士さんから事件を紹介していただくことがあるのですが(本当に有難いことです。)、こういう関係を、税理士さん、中行企業診断士さん、社労士さんなどの他の知り合いにも広げていきたい。

こういった士業同士のコラボというのは、すでに多くの事例があるので、目標としての目新しさというものは正直言ってありません。

それでも、弁護士以外の隣接士業の方々との連携を模索し、仕事を紹介し合うだけでなく、一緒に仕事をして、自分、連携する他の士業の方々、お客さま、みんなが喜ぶ関係が作れたらなと思っています。

 

年末年始のお休みの間に、考えていたのは以上の3つ。

この3つを念頭に、今年1年、活動していきたいと思います。

 

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