標記の事件、昨日の日経法務面に載っていた事件です。
元社員の発明者が、野村證券に対して、職務発明対価請求をしたというものでした。
野村證券というと証券会社であってメーカーではないですが、業務に用いるコンピュータシステムなどの発明が生まれることはあります。
原告となった元社員さんは解雇無効も争っていて、この発明対価請求では、もとは290億円請求できるけど、そのうち2億円を請求するんだという話になっていて、会社とガチンコで争ってます。
日経の記事にあったように、本件の特色は、会社が設けた職務発明規程の合理性を判断する基準を裁判所が示したところにあります。
ここが、これまでにあった発明者による対価請求事件とは少し違うところ。
まず、前提として、従前、特許法の職務発明既定(35条)では、会社に権利を譲渡した際の対価は裁判所が定めるという形になっていました。
そんな中で、例の青色LED訴訟のように、600億円というビックリ金額を裁判所が認定するという事態も生じ、対価を予測できないのは問題だという企業側の要望もあって改正されました。
すなわち、発明譲渡の対価は、原則として会社が定めた規程によること、その規程が不合理なら裁判所が定めるという現行の形になりました。
会社が職務発明規程が合理的かどうかは、以下の事情を考慮して判断すると定められています(特許法35条4項)。
A 対価決定のための基準の策定に際しての従業者等との協議の状況
B 基準の開示の状況
C 対価の額の算定についての従業者等からの意見聴取の状況
D その他の事情
※ ちなみに、現在は、これをさらに改正しようとしています。
これまでの対価請求事件は、特許法の旧規定に基づくものがほとんどでした。
それに対し、本判決は、改正後の職務発明対価に関して、会社が定めた規程の合理性を判断するうえでの基準を示したというわけです。
具体的には、
・まず、考慮要素として法律で例示された上記A~Cの手続を経ているか判断する
・上記A~Cの手続を欠くときは
「これら手続に代わるような従業者等の利益保護のための手段を確保していること,その定めにより算定される対価の額が手続的不備を補って余りある金額になることなど特段の事情がない限り,勤務規則等の定めにより対価を支払うことは合理性を欠くと判断すべきものと解される。」
という基準を示しています。ここが新しいところ。
その上で、野村證券が定めていた職務発明規程について、判断しているわけですが、
・規程を定めるうえで、従業員の意見も聞かず、具体的な算定基準も開示していない
・金額算定について従業員の意見を聴くことも予定していない
・代替手続もなく、算定金額も他の会社とあんまり変わらない(手続的不備を補うような高額ではない)
という理由から合理性ないねと結論づけました。
で、このように野村証券の職務発明規程は不合理だとされたので、対価は裁判所が判断します。
でも、結局対価は認められていません。
なぜかって、この発明、出願したけれど、権利(特許権)が成立しなかったからです。
特許権という独占的権利がない以上、会社は発明によって利益を得ているわけではないですからね。そりゃそうです。
というわけで、本件は、職務発明規程を設けている企業にとって、規程を作る上でどうすればいいのか、一つの参考になる案件です。
野村證券と同じように、規程はあっても手続を踏んでないゾという場合は、早急に対処すべきですね。
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