spin out

チラシの裏

毒入りチョコレート事件

2012年02月23日 | ミステリ
わはははは、面白い!「毒入りチョコレート事件」!
こんなに面白いんだったら、10代のころに読んでおけばよかった…。

最初から最後まで「謎解き」パートだけで長編を1冊書いてみましたけど、
という俊才の閃きに見事にやられました。
「毒入り~」の趣向は、
(安楽椅子)探偵の複数化によるテキストクリティークの積み重ねから事件を再構成させること、
というあたりでしょうか。

しかも、【以下ネタバレ 反転】

実は●●が●●だったというクイーンの超有名作品(ロス名義の4部作のアレ)を先取りしてます。
これは当時のデティクションクラブ会長だった
チェスタトンの「木の葉は森に隠す」を実践したものではないでしょうか。
ミスディレクションも巧妙で、
探偵同士が互いに犯人扱いしたり、
あげくの果てに「この論理の結果によると、犯人は私だ」
というおバカ推理を披露させたりするところなぞ、
ギャグに見せかけたミスディレクション…ですよね? 
【ここまで】

現在地点からならばいくらでも批判できるのですが、
発表された1929年という時代を考えるとバークリーの俊才ぶりが際立ちます。
1929年といえば、クリスティは「七つの時計」を発表(まだ傑作群を書く前)、
クイーンは「ローマ帽子の謎」を発表、
カーにいたっては翌年に「夜歩く」(1930年)でデビューするんですからね。

6人の探偵がそれぞれの推理を順に披露していくのですが、
そこに「犯人あて本格探偵小説」の進化過程を押し込めてみせ、
最後のチタウィック氏に「犯人あて本格探偵小説の限界」を言わせたところに、
バークリーの慧眼と本格探偵小説への愛と絶望を読み取るのはうがちすぎでしょうか。


さすがに発表から80年近くたつと社会構造もまったく変わり、
ましてや日本人が読むことなぞ想定してないでしょうから、
たしかに時代背景風俗がとっつきにくいですね。
そこで作中の「犯罪研究会」を、現代の大学ミステリ研究会にあてはめてみました。
本邦の新本格モノによく出てきますでしょ?
意外に笑える設定になって楽しく読めました。

ちなみにこの「犯罪研究会」のメンバーにはモデルがあって、
ミス・ダマーズはドロシー・セイヤーズではないかと言われているそうです。
バークリーはデティクションクラブのメンバーをモデルに「犯罪研究会」を書いたのでしょうか。

ほかの人物も、もしかしたら当時のデティクションクラブのメンバーかモデルもしれません。
勝手にあてはめてみましたが、確証はありません。
ワイルドマン卿のモデルは、経歴からするとヘンリー・ウェイドのような気がします。
また、フィールダー・フレミング女史はクレメンズ・デインがモデルかも。
【クレメンズ・デインは「Enter Sir John」「Re-Enter Sir John」の協作者で、
ジョン・バリモアやグレタ・ガルボの映画原作を書いているそうです】
ブラッドレーのモデルは思いつきです。

チャールズ・ワイルドマン卿 → ヘンリー・ウェイド?
アリシア・ダマーズ → ドロシー・セイヤーズ
フィールダー・フレミング → クレメンズ・デイン?
モートン・ハロゲート・ブラッドレー JJ・コニングトン?


■毒入りチョコレート事件 アントニイ・バークリー 創元推理文庫
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ミルキーホームズ クリステ... | トップ | 連続殺人事件を花束に »

コメントを投稿

ミステリ」カテゴリの最新記事