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ポケットにライ麦を 新訳

2020年08月28日 | ミステリ
40年ぶりに「ポケットにライ麦を」を再読。
もちろん新訳。
若いころと今とでは読後感がまったく違うのが不思議。
若いころは、アーサー王の子分にランスロット、パーシヴァルってのがいるんだ、
くらいの感想しかなかったのに、
この歳になって読む「ポケットにライ麦を」はまったく別の本になって、立ち現れてきました。
出てくる男たちは警察以外はぜんぶ悪党、
その悪党に恋する女や、逆に手玉にとろうとする女たち、
クリスティは、女たちの行く末を描いた時点で話を切り上げ、
あっさりとした幕切れを用意していました。
ラストの手紙は「アルジャーノンに花束を」を(タイトルの語感が似ている)連想させ、
不覚ながら落涙一歩手前。

プロットはクリスティお得意のパターンの使いまわしではあるけど、そんなことはどうでもよく、
本格ミステリ然とした構成を持った「予告殺人」がどうにも退屈だった反面、
ライトなタッチの「ポケットにライ麦を」のほうがなぜ面白いのか。

「予告殺人」はキャラクターが多すぎて、クリスティでも描ききれなかったかも。
それにたいして「ライ麦」では、一族中の女たちの描写が大部分なので、
そうなるとクリスティの筆が冴えわたる。
夫が死んだと聞かされた瞬間、芝居そうろうで警部にもたれかかり、
涙を拭くと見せかけたハンカチの陰で笑みをこぼす若い後妻がいいですね。

ミス・マープルのキャラクター変化は解説にあるとおり。
でも、昔は「小柄な老婦人」と描写されていたと思うけれど、
この「ライ麦」では「姿勢の良い背の高い老婦人」とあって、
少しばかりイメージの変更を促されました。
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