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ダイムノヴェルのアメリカ

2013年12月28日 | ノンフィクション
ダイムノヴェルってなに?
ダイムノヴェルというのは、19世紀後半のアメリカで発行されていた読み捨ての安い小説のことで
(ダイムは10セントのこと)、
おもに労働者階級をマーケットに発行されていたそうです。
現在の娯楽小説、ウェスタン、ハードボイルド、ミステリ、SF、恋愛ものなどの
大きな源流として認識されていたのですが、
日本でこのダイムノヴェルについて書かれていたのは野田昌宏のエッセイぐらいしか、
寡聞にして知りませんでした。
そのダイムノヴェルについての本が出るとは。

アメリカミステリの歴史を書いたものを読むと、
E・A・ポーのあとA・K・グリーンとM・D・ポーストが出てヴァン・ダインが出現、
ということになっていることが多いですが、
ポーの執筆期間とヴァンダインの出現までが約80年。
80年の間にグリーンとポーストの2人だけ?といささか不思議でした。
この約80年間に、じつは多くのダイムノヴェル作家がミステリやSFに近い作品を発表していたわけです。
A・K・グリーンの「リーヴェンワース事件」にしても、J・ヴェルヌの作品にしても、
酷似したダイムノヴェルの存在が指摘されています。
グリーン女史もヴェルヌもダイムノヴェルをネタにしていたんですね。

著者が論文として発表したものらしく、文章が硬いのはしょうがないにしても、
「ダイムノヴェル」の歴史が俯瞰できる稀有な本にちがいありません。
楽しかったなあ。
とくに4章「探偵小説とダイムノヴェル」は目ウロコでした。

ところで野田昌宏の「SF考古館」の「人造人間銘々伝」では、
野田さんが一読者の視点でダイムノヴェルのフランク・リード・ライブラリーを熱く語っていました。
ですが、こちらの第5章「SFダイムノヴェル」では、
ダイムノヴェル作家の描く男性によるアメリカ帝国主義みたいなものを著者は強く非難しています。
野田さんの本からも引用されていますが、
これは立場と時代の違いであって、これからもこういった研究成果の出てくることを期待したいです。

Steam man MK3



ところで一番笑えたのは、「荒野のスティ-ムマン」がじつは実在したってことですね。
ほんまか?
フランク・リード・ライブラリーに登場するメインマシンは蒸気駆動の人造人間で、
製作者は違えど3号まで造られているみたいです。
わが国の鉄人28号みたいなものですかね。
それは作家の想像によるものだと思っていたら、なんと実際に蒸気駆動の人造人間を造った発明家がいて、
その新聞記事をもとに作家が物語に登場させたんですって。
作品に登場する蒸気駆動の人造人間は、鉄人28号なみの破壊力を持った兵器ですが、
実際に製作された蒸気駆動の人造人間は、
アニメ「有頂天家族」に出てきた、カラクリ人形と人力車みたいな感じがします。

1868 - Zadoc P. Dederick - Steam Man
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