テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

父と暮せば

2018-08-10 | ファンタジー
(2004/黒木和雄 監督・脚本/宮沢りえ=福吉美津江、原田芳雄=竹造、浅野忠信=木下正/99分)


 「TOMORROW 明日 (1988)」で長崎原爆をテーマにした黒木和雄監督の、今度は広島を扱った作品。
 元々は井上ひさしの戯曲だったそうで、確かに実質二人の出演者による会話劇だし、舞台も殆どヒロインの家の中かその玄関前しか出てこないのでそれははっきりわかりますね。
 それでも約100分がだれることなく観れるんですから、二人の熱演の賜物でしょう。カメラワークは舞台劇に見せないように柔軟になされてますが、いかんせん台詞の多さ、会話のリズムから舞台劇感はぬぐえません。ただ、その父と娘の飾らない会話無くして生まれないドラマではあります。
 父親を原爆で亡くした一人娘とその娘を案じて亡霊となって現れた父親の物語であります。

*

 時は昭和23年。
 福吉美津江は幼い頃に母親を亡くし旅館を営む父親と二人暮らしだったが、3年前のピカ(原爆)で父竹造を亡くしていた。雨が降るとあちこちから雨が漏れてくる元旅館が今の住まい。広島市内の公立図書館で受付をしているが、ある日、原爆の資料を集めているという青年が図書館を訪ねてきてから、家では亡くなったはずの竹造の亡霊が現れるようになった・・・。

 オープニングは雷鳴轟く雨の中、美津江が帰宅したところから。
 雷を怖がる美津江に押し入れの中の竹造が声を掛けるという奇妙なシーンからで、奇妙ながら最初は竹造が亡霊とは見えない。だけど、その後の長い会話の中で察せられます。
 何故、竹造の亡霊は現れたのか?
 それは、青年木下に淡い恋心を感じた美津江の想いが生んだもの。
 『沢山の友人や知人、身内が亡くなった原爆から逃れて生き残った自分が幸せになっては申し訳ない』。そんな思いを胸に秘めた美津江の心を開かせようと現れたのです。
 先日放送されたTVドラマ「夕凪の街 桜の国」でも似たような心情の少女が出て来ましたが、なんとなく分かりますね。
 被爆者という立場が、将来に対して消極的にさせているというのも分かります。

 岩手出身で戦時中は呉で海軍に所属していたという木下と美津江の交流が父娘の会話の中で語られ、ひとつの大きな軸になっていますが、折々に語られる8月6日当日及びその後の悲惨な体験が、まさに戦争の語り部としての説得力をもっています。
 ツイッターにも書きましたが、終盤の父と娘のじゃんけんには何度見ても胸が痛く、ウルウルとしてしまいます。

 お勧め度は★四つ。
 宮沢りえも原田芳雄もこんなにじっくりと観るのは初めてで、特に原田の時にユーモラスな時に激しい感情を持った演技には感心しました。
 2004年のブルーリボン賞で主演女優賞を受賞したそうです。





・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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