不衛生? 安くて早い「1000円散髪店」大ピンチ!
ヘアカット専門店「QB HOUSE」
業界団体が「不衛生だ」と物言いを付け、それを受けて店内の洗髪台設置を義務づける条例改正を行う自治体が続出しているのだ。
専門店には新規開店の大きな足かせ。愛用者も、“安くて早い”散髪の機会を奪われると心配している。
約7万5000人の理容店主が組織する「全国理容生活衛生同業組合連合会」(全理連)などによると、
全国で理容店の洗髪台設置義務を条例化しているのは別表の21道県。ほかに千葉、群馬、大分の各県議会でも条例案を審議中という。
“1000円専門店”では、切った髪の毛を掃除機のような強力吸引機で吸い取るのが一般的。
これについて全理連は「周辺の飲食店から『散髪後に訪れる客の毛が食べ物に落ちて不衛生』といった苦情が寄せられている」と訴える。
実際に「不衛生」なのか。月に1−2回、専門店を利用する男性会社員(35)は「たしかに、細かい髪の毛が首まわりや襟足に残ることはあります。
それでも、毛の量はごくわずか。
飲食店から苦情が出るほど髪の毛が落ちるとは思えない。苦情を口実に専門店の新規出店を妨害しようとしているとしか思えません」
“1000円店”は、その安さと手軽さから女性客も増えているが、洗髪台の導入が義務化されるとコスト的に1000円を維持するのは困難。
さらに洗髪が義務化されれば、10分で散髪を終えることも不可能だ。
全国に約400店の簡易型散髪専門店「QB HOUSE」を展開する「キュービーネット」の担当者は「創業以来、不衛生との指摘は一度もない。
くしや首に巻く紙も、すべて使い捨てです。
洗髪しないのが不衛生だというのなら、洗髪台設置だけでなく洗髪そのものを義務づけるのが理屈でしょう。
一連の条例は、完全にお客さまを無視しています」と語気を強める。
とはいえ、今後も条例を改正する自治体は増える見込み。営業中の店は経過措置として「黙認」されるが、新規出店については
条例がない自治体も洗髪台の設置を“指導”するとみられる。
実際に洗髪するかしないかは、客の判断となる。
東京都内の専門店スタッフは、「東京や大阪などの大都市で条例が改正されれば、今後も1000円でやっていけるかどうか…。
値上げとなれば、お客さまは大迷惑でしょう。
誰のための条例改正なのか分かりませんね」とぼやく。
これに対し、全理連は「洗髪自体の義務化は現実的には難しく、最低限の措置として洗髪台設置の条例化を求めています。
子供の毛ジラミなどの問題に対応する意味からも、洗髪台は必要です」(広報担当)と話している。
「10分」という早さと「1000円」の安さを武器に、全国に368か店(2007年12月25日現在)を展開する「QB HOUSE」「QB Net」(キュービーネット)。
07年11月にイオンモール羽生店(埼玉県)や大塚駅前店(東京都)など5カ店、12月にもイオン富士南SC店(静岡県)と
百合ヶ丘店(神奈川県)を出店し、相変わらず勢いがいい。
ところが、理容業界からは「ひと頃ほど攻勢が強まっているという印象はない」(全国理容生活衛生同業組合連合会)との声が漏れる。
激安店の出店は曲がり角にきたのか。
激安店は、女性が利用する美容院にも広がっている
「QB HOUSE」の店舗数は年々増加している
「QB HOUSE」の店舗数は2005年6月末で291か店、06年6月末が337か店で、07年6月末は357か店と年々増加している。
07年6月以降も11か店増えていて、引き続き増勢傾向にある。ただ、一方で池袋メトロピア店(東京都)を11月に、真駒内駅店(北海道)を
12月19日に閉店するなど、「スクラップ&ビルド」を繰り返している。
理容業界の激安店は、女性が利用する美容院にも広がっている。
「早い」「安い」「安心」をモットーに「オンリーワン プライス」の美容室「Shampoo」を展開する田谷は、全国に141か店
(うち、Shampooは31か店)をもつ。
「通常であれば5000円から6000円の料金をいただいていて、それを1900円でやるわけですから、単純に3倍の利用がないと採算はとれません。
そうなるとおのずと出店できる場所は決まってきます」と話す。
実際に地方の店舗を閉鎖したこともあるという。
集客力のある、立地条件のよい「場所」でないと採算に合わないし、「同じ地域であっても、(立地を)見直して移転出店することもある」という。
田谷では、新規出店の余地はまだあるとしたうえで、ただし「若いスタッフが育たないと新規出店はできません。
それもあって、最近は出店を見合わせています」としている。
「安かろう、悪かろう」では「看板」にかかわる。スタッフ教育に腐心している。