はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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臥龍的陣 涙の章 その80 合流 その2

2022年12月08日 10時05分20秒 | 臥龍的陣 涙の章
「まずは礼を言おう。助かった、ありがとう」
孔明が言おうとするのを、趙雲は手で留めて、おのれの口の周囲についた返り血をぬぐいつつ、に言った。
「俺がいま、いちばん言いたいことを教えてやろうか」
「なんだ?」
ひゅっと風を切り、趙雲の、刀剣を持たないほうの拳が、かるく頬に当たった。
「そういうことだ」
「悪かった。こんど、ちゃんと殴られる」
「そうしてくれ。そちらも、言いたいことは山ほどあろう。
だが、いまはまず、襄陽城を出ることを最優先に考えよう。

俺のほうから状況をかいつまんで言うと、まず斐仁が新野に戻り、わが君に援軍の要請をしに戻った。
そして俺と黄忠…あの瓜売りの老人のことだが、ふたりで襄陽に戻った。
黄忠は俺を侵入させるために、俺のフリをして、正門にて、ひとりで戦っている。
だが、以前に諸葛玄どのの部下だったという男がいて、そいつが助っ人に向かった。
正門の兵士たちが城内になだれ込んでこないところを見ると、まだ保《も》っているのだろう。
ただ、城内は混乱しているとはいっても、脱出口が見つからないのが現状だ。
強行突破になるが、動けるな? 怪我はないか?」

「怪我はないよ。あなたのほうこそ、大丈夫か?」
「これはすべて返り血だ。ひどい顔色だな。なにをされた」
「なにも。そうだな、わたしのほうも状況を説明しよう」

孔明は、いままでのいきさつを趙雲に話して聞かせた。
趙雲は、ときおり瞑目し、じっと黙って孔明の話を聞いている。

「劉州牧が『壷中』の総元締めか。
しかも中毒状態とは、ずいぶんと浅ましい身体になったものだな」
潔癖な趙雲が、最初にもらしたのはその言葉であった。
「花安英《かあんえい》に助けられたよ。
かれがいなかったら、いまごろは、あの城門に飾られている男のようになっていたかもしれない。
ともかく脱出するのもそうだが、まずは『壷中』の子供たちを助けなければ」

「みな、『狗屠《くと》』とやらに殺されたのではないのか?」
「わたしが見た死んだ子供は、ほんの数人だ。もっと大勢の『壷中』がいる」
「自力で逃げたのなら、もうそれでよいではないか」
「かれらが自分たちの力だけで、ふたたび世間に馴染めるとは思えないのだ。
いまのわたしの立場ならば、かれらを擁護し、すこしずつ世間に馴染ませてやることができる」
「子供たちを助けるまで、ここを出ないというのか」
「そうだ。それに花安英は、『狗屠』を倒しに行った。これも止めねばならぬ」
「『壷中』の者たちとともに襄陽城から逃げ、かつ、花安英と『狗屠』を止めねばならぬのか」
「そうだ」

孔明がつよく|肯《うなず》くと、趙雲はかるくため息をついて、肩の力を抜いた。
「俺はお前と言う人間にだいぶ慣れてきたと思う。止めても聞かないだろうな。
ただ、ひとつだけ言わせてくれ。
おまえがかれらのことを擁護しても、かれらは逆におまえと叔父君を恨んで、かえって仇為《あだな》すようになるかもしれぬ。
それどころか、ふたたび闇に舞い戻ってしまうかもしれぬ。それでもかまわぬのか」
「もとより、人を引き受けるというのは、そういうことではないのか。
意のままにならなくなったという程度で、わたしは人を恨みに思ったりしないさ。
思う結果が出せなければ、そのときにまたどうすればよいか考えればいい。
見るべきものさえしっかり見ていれば、それほど悲惨な結果にはならないと思うよ」

血まみれの姿で、趙雲はあきれて言った。
「この期に及んで、たいした楽観主義だな。性善説か?」
「いいや、単に自分を信じているだけだ」

趙雲は、しばらく孔明の顔をじっと見ていた。
なにを考えているのかわからず戸惑っている、というふうではなく、むしろこれから起こるであろうことを楽しんでいるように見える。
強面の表情に、めずらしく笑みが浮かんでいた。

が、ふと笑みをひっこめ、趙雲は踵《きびす》をかえした。
「どこへ?」
「『狗屠』の狙いがわからぬが、まずはそいつを捜さねばならぬだろう。
仲間たちを殺して回っているようだからな。それと」
「それと?」
趙雲は背中を向けたまま言う。
「もしこれから先、うまくいかなくなっても、俺は、わずかばかりのことしかできぬかもしれぬが、まあ、一緒に泣いてやるくらいのことはできる」
孔明は、ようやく強ばり続けていた全身の力が、ゆるやかに抜けていくのを感じた。
「ありがとう、子龍」
言うと、趙雲は照れているのか、なにも言わずに、わかった、というふうに手を軽く挙げた。

「あの」
不意に声をかけられ、孔明はぎょっとして、白髪《はくはつ》の者のほうを見た。
孔明があらわれてから、廊下の隅っこに隠れていた白髪の者は、孔明と趙雲の前にあらわれると、なにも映さない濁った目を、それでもしっかり二人に向けて、丁寧に作法どおりの拱手をした。

白髪の者が心を失っているのだと思っていただけに、孔明は、不意に発せられた言葉に、ただおどろく。
その気配を感じたのか、それまで表情らしい表情をまるで浮かべなかった白髪の者が、わずかに口はしに笑みを浮かべた。
そうして口を開く。
その声は、少女のように高く、大人のように落ち着いていた。

「わたくしは襄陽城から脱出するための抜け道を存じております」
「まことか」
白髪の者のほうに向き直った趙雲に、その気配でわかったのか顔を向けた。
少年か年寄りか、正体のわからぬ白髪の者は言った。
「はい。ただ、お二方にお願いがございます。『壺中』のわが仲間をお救いください」


つづく


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さて、臥龍的陣の続編は、2月中旬に第一稿ができる計算です。
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