はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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臥龍的陣 涙の章 その79 合流

2022年12月07日 10時25分51秒 | 臥龍的陣 涙の章
不意に、長剣を突き立てられ、苦痛にゆがむ叔父の顔、崩れ落ちるすがたが脳裏に浮かんだ。
叔父と甥とで、おなじ運命を辿るのか。
そう哂《わら》ったのは誰であったか。
だれでもいい。
そんなのは嫌だ。
せっかく命を賭《と》してまで救ってくれた叔父のことを思う。
救われておきながら、このまま何も為さずに、死ぬなんて嫌だ。

『切羽詰ったら、足を狙え。戦いなれてないヤツなら、たいがいは足が無防備になる。
足を動かなくさえしてしまえば、敵の動きを封じることができる』
突然に、孔明の脳裏に、なつかしい兄弟子の声が響いた。
自分に剣を教えてくれた男…徐庶の声だ。
『そうしてその隙に逃げるのさ。
だから、足だけは鍛えておけよ。
俺はそうして生き残ってきたのさ』

足を。
孔明は、息を整え、ほんのすこしまぶたを閉じると、目を開き、目の前に立つ二人の男を見た。
怖じるな。
先手を打て。

自分に言い聞かせると、孔明はふっと表情をやわらかくゆるめて、首をのばし、叫んだ。
「子龍、来てくれたのか!」
その喜色をふくんだ声に、兵士たちはぎょっとして振り返り、孔明から目をそらす。
かれらがもっと修練を積んだ兵士であったなら、こんな詐術にはひっかからなかっただろう。
孔明はかれらの隙を逃さず、姿勢を低くして、兵士たちに向かっていった。
とはいえ、やはりこちらも訓練などされていない士人のかなしさ。
徐庶がおしえてくれた足など狙えるはずもなく、鎖帷子《くさりかたびら》から守られていない二の腕をそれぞれ、ほんの少し傷つけただけに終わった。

とはいえ、それでも肉を断つ、なんともいえない重く鈍い感触がある。
血しぶきが立つのがわかった。
兵士たちが思わぬ攻撃に悲鳴をあげる。
だが、振り返らず、孔明はそのまま、兵士たちのあいだを抜けるようにして身をかわすと、立ち尽くしている白髪《はくはつ》の者の手を取って、走り出そうとした。

しかし、足首がつよく引き戻される。
ぎょっとして見下ろすと、さきほど鼎《かなえ》をぶつけて気絶させた兵士が、割れた額を抑えつつ、憤怒の形相で孔明の足首をしっかりつかみ、立ち上がろうとしていた。
蹴り上げて振り放そうとするが、兵士の力はつよい。

そのあいだにも、二の腕を切られた兵士たちが、うめきつつもふたたび剣を構え、孔明に向かってくるのが見えた。
そうして、兵士の一人が、孔明にむかって剣を振りかざした。

風を切る音がした。
同時に、だん、だん、と太鼓を軽く打ったような音が、ふたつ。
孔明に刃をかざしていた男たちの額に、それぞれ一本ずつの矢が突き刺さっていた。
男たちは、目を見開いたまま、射抜かれた衝撃で、そのまま後ろに倒れていく。

鼎で額を割られていた男は、孔明の足を掴んだまま、獣じみた咆哮をあげて立ち上がろうとする。
しかし孔明が姿勢を崩すより早く、起き上がろうとするのを押さえつけるように、脳天から顎にかけて刃をふかぶかと突き立てられ、そのまま絶命した。

よろめく身体を支えてくれる姿に、孔明は言った。
「弓、うまいじゃないか」
「吹っ切れた」

ぶっきらぼうにそれだけいうと、趙雲は、男の頭部に足をかけて、つきたてた剣を抜く。
なんとも形容しがたい生々しい音がひびく。
孔明は思わずぞっと身を震わせた。

ほんの一瞬であった。
どうやったら倒せるかと、懸命に悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなるほど、あっさりと、三人は死んでいた。

あらわれた趙雲の姿は、それはすさまじいものであった。
ここに至るまで、なにがあったのか。
そういえば、内門の警備兵が全滅とか言っていなかったか。
血に汚れていないところを探すのがむずかしい。

さらにおどろくべきは、孔明がいまだに息を整えるのに苦労しているというのに、趙雲はほとんど息を乱していないことだ。
小競り合いで敵にあたる趙雲の姿をみたことがあっても、戦場での姿を見たことがなかった孔明は、これが趙雲の武将としての本来の姿なのだろうと思いつつも、見慣れぬ姿に戸惑っていた。
しかし、ふしぎと恐ろしさがないのは、自分を助けに来た者だと、わかっているからなのか。


つづく

※ いつも当ブログに遊びに来てくださっているみなさま、ありがとうございます(^^♪
そして、ブログ村及びブログランキングに投票してくださっているみなさまも、多謝です、うれしいです!(^^)!
本日は更新が遅めになってすみません; リビングのこたつ布団の入れ替えをしていたら、こんな時間に…
めっきり寒くなりましたねえ、みなさまのお住いの土地ではいかがでしょう?
どうぞ温かくしておすごしくださいね。
それと、「涙の章」、終盤にさしかかっております。
え? 趙雲と孔明、合流したからこれでいいんじゃないの? と思われたでしょう。
まだまだ続くのですよ…「太陽の章」もお付き合いしていただけるとうれしいです!


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