はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る 一章 その6 打ち合わせ その2

2024年03月06日 09時59分16秒 | 赤壁に龍は踊る 一章
趙雲は周瑜と胡済が会った……あるいは再会した場合の「まずさ」について、素早く頭を回転させた。
まず、胡済が刺客として江東に派遣されたことがある場合で、周瑜がそれを知ってる状態が、いちばんまずい。
孔明が、かつて自分の命を狙った人物を連れてきたと思われてしまう。
それでは喧嘩を売りますよと思っているのだと、勝手に受け止められてしまってもおかしくない。
胡済だけが周瑜を知っていて、向こうが胡済を知らない、というのが一番穏便だ。
胡済はおもしろくないだろうが、ここは我慢してもらうほかない。
どちらかわからない以上、二人を対面させる機会はないほうがよさそうだ。


「偉度と周公瑾を会わせるのはまずいな」
趙雲が言うと、孔明もわが意を得たりという風に深くうなずいた。
「周公瑾がまだ鄱陽湖《はようこ》にいるというのは幸いだ。
明日、いきなり対面してしまうということがないからな。
子龍、いろいろ気を配らなくてはいけないところすまないが、あの子のことも頼めないだろうか」
「偉度と周公瑾を会わせないようにすればよいのだな」
「そうだ。それと、あの子が逃げ出さないよう、注意してくれ。わたしも気を付ける」
「逃げ出すかな……たしかにつんつんした態度を取ってはいるが、おまえにはなついているようだ」
「油断してはダメだ。あの子の闇は、わたしが思っている以上に深いのかもしれない。
広い世界を見せれば、あの子の闇の気配も薄まると期待して連れてきたが、いきなり失敗だったとはな。
やれやれ、わたしも修練が足りないというところだな」


孔明はぼやいて、それから部屋の周りを見渡し、さいごに鞘に収まった状態で置かれている長剣に目を向けた。
趙雲が手入れをしようと置いておいた、曹操の従弟から奪った青釭《せいこう》の剣である。


「明日はあなたも門前で武器を取り上げられてしまうだろう。
とはいえ、なるべくあなたがあれを使わずに済むことを願っているよ」
孔明はそう言って、ふうっと息を吐いた。
「明日が気になるか」
愚問だったかなと思いつつも趙雲がたずねると、孔明は目線を趙雲に戻して、肩をすくめてみせた。
「気になるさ。明日は派手に太鼓を打つために、『尊大な劉豫洲の軍師』を演じ切らねばならない」
「太鼓を打つために? どいう言う意味だ?」
「孫将軍は打てば響くような人物だそうだ。叩けば必ず答えを出す。
とはいえ、その打ち加減はむずかしい。
弱ければ音は小さくなり、強すぎれば、太鼓のつつみがやぶける。
短時間で孫将軍の人物を見究める必要がありそうだ」
「なんだかよくわからんが、いざというときは、おれが血路を開いて柴桑城から脱出できるようにしておく。
変な言い方かもしれんが、安心しろ」
趙雲の微妙な励ましに、孔明は軽く声をたてると、言った。
「ありがとう、あなたがいっしょでよかったよ。
一人でここにきていたら、もっと不安でたまらなかったろう。
あなただからわたしは安心して背中を預けられるのだ」


こいつは本当に、照れるという言葉を知らないのかと感心しつつ、趙雲は言う。
「またいつもの、言える時に言っておく、か」
「そのとおり。明日もよろしく、子龍。さて、明日は早いようだから、わたしも眠るとするよ。
あなたも休んでくれ」
そう言って、二歩ほど扉のほうに行ってから、孔明はくるりと首だけ振りかえさせ、言った。
「かならず、生きてわが君の元へ帰ろう。みなでな」
「もちろんだ」
「明快だな、子龍、本当にあなたがいっしょでよかった」
そう楽し気に笑いながら、孔明は今度こそ割り振られた部屋に消えた。
その足取りはきわめて軽く、明日に待ち受ける大仕事については、なんにも苦にしていないように見えた。
いや、そういうふうに振舞っているだけだ。
孔明の背負っている重責は、誤魔化してなんとか忘れられるような類のものではない。
ああやって軽快な言動をすることで、自分に『自分は余裕があるのだ』と暗示をかけているのだろう。


「生きて帰る、か」
つぶやきつつ、趙雲は青釭の剣を手に取り、もくもくと手入れをはじめた。
これを使う時が来ないといいなと、こころから思いながら。




つづく

※ いつも閲覧してくださっているみなさま、どうもありがとうございます!
ブログ村に投票してくださったみなさま、あらたにフォローしてくださった方、ほんとうにうれしいです!!
とても張り合いになります(^^♪
おかげさまで創作も順調、「赤壁に龍は踊る」の一章目の下書きも昨晩、書き終えました!
今後もこの調子で頑張りまーす!

ではでは、次回をおたのしみにー(*^▽^*)


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