はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る 二章 その2 出立を前に

2024年04月29日 10時07分37秒 | 赤壁に龍は踊る 二章
つぎつぎと家臣たちがあらわれては、赴任先へ向かっていったが、孔明が孫権のもとにいるあいだ、噂の周瑜は、けっきょく一度も顔を見せなかった。
避けられているのだろう。
明日には出立だという、そのときになっても、わざわざ孔明のいない時を見計らって、孫権と面談しているようだ。
ずいぶん嫌われたものだと思うと、孔明は落ち着かなく、またむずむずするほかない。


その様子を見て、趙雲はすっかり周瑜に悪感情を抱くようになったようで、めったに人をあしざまに言わないのに、
「周都督は噂とちがって狭量なところがあるな」
と、言い出した。
もちろん、人目のすくない客館に帰ってきてから言い出したのだが、孔明は申し訳ない気持ちである。
というのも、思わず悪口が出るほどに周瑜の態度があからさまなのは、自分が至らないせいだと思ってしまうからだ。
賢明な趙雲をして、つい悪口を言いたくなってしまうほど、周瑜はこちらを睨んでいる、ということでもある。


孔明は、客館の主人が用意してくれた白湯《さゆ》を飲みつつ、頭を下げる。
「すまないな、わたしが至らぬせいで」
素直に申し訳なく言うと、趙雲は器用に片方の眉だけ動かして、抗議してきた。
「おまえが謝ることではなかろうに。都督の態度が大人げないのがいけないのだ」
「そうかもしれないが、しかし人には相性というものがある。
わたしはあのひととろくろく口を利いていないうちから嫌われてしまったが、なにかこう、自分ではわからないところが向こうにカチンとくるのではないかな」
「まともな人間なら、おまえを嫌ったりしないさ」
「そうだろうか。それは贔屓ではないかい。
うれしいけれど、でも都督がわたしを嫌っていることは動かないよ、子龍」
孔明がやんわりたしなめると、趙雲は興奮を抑えるように、ふうっと息を吐いた。
そして、趙雲もまた、白湯をごくりと飲み干した。


それからしばらく黙っていたが、やがて声を落として語りだした。
「陸口《りくこう》をめぐって、すぐに戦になる可能性もある。
その場合、乱戦にかこつけて、都督がおまえに害をなそうとする危険がある」
「そこまで憎まれているだろうか」
おどろいて孔明が言うと、趙雲は表情を崩さぬまま、つづけた。
「憎んでいるというより、あれは嫉妬の目だな。
おそらく、おのれと互角に戦えるだろう人物を見出したことで、危機感をおぼえたのだ。
仮におれが都督の立場なら、さっさと敵になりそうなやつは排除する」
「おや、あなたは正々堂々と戦う人だと思っていたよ」
「都督だったら、ということだ。あの男はこの戦の先を読んでいるのだ。
おまえを見る目だけではなく、おれを見る目も冷たい。
おそらく、おれたちだけではなく、『劉玄徳の軍との同盟』そのものをうとましく思っているのだろう」
「自分だけで勝てると、そう思っているのかな?」
「そうかもしれん。それだけ自信があるのだろう。
仮に都督が戦に勝った場合、おれたちが夏口《かこう》にいることで、荊州の領有権の問題が出てくる。
おれたちがいなければ、江東は荊州を獲れるが、そうでなかったら、おれたちに荊州を割譲する必要が出てくる。
それが厄介なのではないか」
「そうか……われらの元には劉公子(劉琦)もいることだしな」


「そこで、だ」
趙雲はあらためて姿勢を正すと、孔明に向き直って来た。
「この同盟を見届ける役目、おまえではなく、おれにしたほうがいい」
「何を言い出すかと思えば。そんなことができるはずがない。
あなたをわたしの代理に差し出すというのか」
「おれ一人なら、乱戦になってもなんとかなる。しかし、おまえの場合はちがうだろう」
「いや、だめだ。あなたをわたしの代理にすることはできない。
第一、当の都督がわたしが同行しないと、こちらの腹を無用に探ってくるだろう。
わざわざ痛くない腹を探られるのは、避けたほうがいい」
「それはそうだが」
尚も言いつのろうとする趙雲を、孔明は手ぶりで止めた。
「だめといったら、だめだ。
わたしの身を案じてくれるあなたの心遣いはありがたいが、その提案は却下だ。
陸口にはわたしも同行し、そしてこの戦を見届ける。その方針は変えない。
そして、この話も打ち切り。いいな?」
孔明がきっぱり言うと、趙雲はむすっと唇を閉じてしまった。


こんな無用な言い争いの原因も周瑜だと思うと、つくづくこちらをなぜだか嫌っている周瑜がうらめしい。
『嫉妬だと子龍は言うが、ほんとうかな?』
あれほど美点の結晶のような男が、自分に嫉妬を抱くものだろうかと、孔明は考えてしまう。
しかし、趙雲の目がたしかなのは、これまでの経験でわかっているので、外れてはいないのだろう。


しばし気まずい沈黙のあと、孔明は気分を変えるために趙雲にたずねた。
「そういえば、偉度《いど》(胡済《こさい》)はどこにいる?」
「明日の出立の準備をしているようだ。
軍師、もちろん偉度は陸口には同行させないよな?」
「それはそうさ。今日まで偉度と都督が会う機会がなくてよかった。ほっとしているよ。
あの子も、同じじゃないのかな」
「さっき声をかけたら、『明後日には軍師のお守りから解放されると思うと、肩の荷が下ります』とかなんとか憎まれ口をたたいていたぞ」
「あの子らしいな。ともかく、わたしたちも明日に備えて眠ったほうがいいな」
「またしばらく船の生活か」
ぼやく趙雲に、孔明は、
「船酔いによく効く頓服をあげるから、行きよりはマシになるさ」
となぐさめた。


つづく

※ いつも閲覧してくださっているみなさま、どうもありがとうございます!
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めちゃくちゃ励みになります! 今後もがんばってつづきを書いていきます!
「なろう」のほうも7万PVにそろそろ行きそうで、ほんとうにありがたい……!
今月はこれまでで一番「なろう」にお客さんが集まってくれた月となりました(^^♪
みなさま、今後もお付き合いくださいませね!

あ、それと「春に寄す(仮)」をちょっとずつ書き始めております。
どんどん書いてまいります!
出来上がったら読んでやってくださいね♪

ではでは、次回は水曜日です!
またお会いしましょう(*^▽^*)


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