はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る 二章 その7 劉備と周瑜

2024年05月10日 10時15分59秒 | 赤壁に龍は踊る 二章



樊口《はんこう》には先に周瑜たちが上陸した。
すでに夏口《かこう》からきている劉備たちもいるようで、港の浅瀬に停泊している船に『劉』の字が染め抜かれている旗がひるがえっているのが見えた。
孔明の乗った船もまた、浅瀬に停泊し、その後、小舟に乗り換えて樊口に入る。
江東の大きな楼船《ろうせん》が港のほとんどをふさいでしまっているので、孔明の乗った船は浅瀬に停まらざるを得なかったのだ。


趙雲が漕ぐ小舟に揺られてしばらく行くと、孔明はおどろくべきものを見た。
劉備の精鋭たちが、劉備と関羽を中心に整列し、周瑜たち江東の軍を待ち受けていたのだ。
とくに関羽の、深緑色の戦袍《せんぽう》に身を包んだ姿は戦神そのもので、川の風に長いひげをなびかせ、あたりを厳しく睥睨している。
劉備も威風堂々といった姿で周瑜を待ち受けており、その姿はまさに川辺に休んでいる龍のように落ち着いていた。
精鋭たちも、ぴかぴかに磨き上げた甲冑に身をつつみ、なにひとつ負けてなるものかと江東の兵たちを待ち受けている。
負けず嫌いの関羽の率いる精鋭たちらしかった。
かれらの上空を川鳥たちが白い翼をひろげて飛んでいる。
風は北東へ向かってなびき、『劉』の字の旗もまた、ばたばたと勇壮にはためていた。


周瑜がまず樊口に上陸し、魯粛と共に劉備と対面した。
そのあとを孔明と趙雲がつづく。
劉備はあいかわらず、動じない落ち着きを備えていて、星のように輝く周瑜を見ても、おだやかな笑みもそのままに、過度に圧倒されているところは見えなかった。
むしろ周瑜のほうが、あまりに劉備が落ち着いているのでうろたえているように見える。
おそらくだが、周瑜は、初対面ではおのれの魅力に負ける人間をこれまで多く相手にしてきたのだろう。
はったりの効かない相手……劉備をそう見たのはまちがいない。


劉備は孔明を見るなり、穏やかに微笑んで、
「よくやってくれた」
と短く言った。
身内だけの場であったなら、劉備は言葉を尽くして孔明をほめあげただろう。
そのことがわかっているので、孔明も同じく微笑んで、丁寧に礼を取った。


劉備はすでに幕舎を建てていて、会見はそのなかで行われた。
孔明も同道し、幕舎の中に入る。
劉備のそばには関羽がぴったりと寄り添っているので、仮に周瑜とその水軍が劉備軍を急襲したとしても、下手はできないようになっていた。
仮に周瑜が襲ってきても、逆に関羽が周瑜を捕えるだろう。





周瑜と劉備の会合は、終始おだやかに行われた。
関羽が眼光鋭くあたりを警戒していることもあり、不審な行動をする兵はひとりもいない。
それ以前に、周瑜の率いる兵はよく調練されていて、幕舎のまわりでおかしな動きをしたり、無駄口を叩いたりする者は皆無だった。
これから、自分たちの倍以上の兵数を持つ曹操軍に立ち向かっていくのだという気概が、だれからも感じられた。
そのかれらに対峙するように並ぶ劉備軍の兵もまた、主君を守らんとする気概にあふれており、両者のあいだには、ほどよい緊張感がみなぎった。


「これからわれらは陸口《りくこう》へ急行いたします」
長いよもやま話のあとにそう周瑜が切り出すと、すかさず劉備が言った。
「それでは、われらも陸口へ同行させていただきましょう。兵はすぐに用意できます」
すると、意外なことに、周瑜は手ぶりでそれをとどめた。
「いや、それはしばらく。劉豫洲には、陸口の手前に船団を配置してもらい、われらが屠る曹操軍を北から襲撃していただきたい」
「北からというと、周都督は戦場は陸口ではなく、その手前の水上になるとお考えか」
劉備の問いに、周瑜は大きくうなずく。
「左様。陸口には上陸させませぬ。われらの力は水の上でこそ、もっとも発揮できます。
やつらが陸口へ入り、江東を横断しようとするまえに、対岸から陸口へ渡ろうとする曹操の船団を水上で迎え撃ちます」
「なるほど。しかし曹操も電光石火の勢いで、江陵から進んでいるはず。
船に乗り換えたのち、長江を進んで陸口を押えようとするでしょうな。
われらの細作の情報では、曹操の水軍を率いるのは、襄陽で水軍を調練していた蔡瑁とのこと。
やつらの実力はわれらもよく知っておりますが、なかなかどうして、舐めてかかってよい相手ではありませぬぞ」
「それはわかっております」
と、周瑜は自信に満ちた口調で言い、微笑んだ。
「仮に蔡瑁がわたしをしのぐ実力の持ち主だったとしても、やつの乗せている兵卒たちは北の兵がほとんどで、まともに水上で戦ったことのない者たちばかりでしょう。
いかに曹操が鬼才の持ち主だったとしても、この事実は覆りませぬ。
付け焼刃で戦うとどういう目に遭うか、わたしとしても曹操にたっぷり味合わせてやるつもりです」
「それは、なるほど」
百戦錬磨の劉備も、自信満々の周瑜の態度に、さすがに気おされたようである。


劉備のかたわらで聞いていた孔明は、誇り高い周瑜のことばに、不安をおぼえた。
曹操軍の恐ろしさを徐州でも目の当たりにしたし、荊州でも同じく知った身としては、そんなに単純に曹操を舐めてかかってよいものかと、つい思ってしまう。
とはいえ、意外に残酷な面を見せてもなお、周瑜が邪悪に見えないところは、うらやましいほど得なところだなと、孔明は感心した。


会見が終わると、周瑜は曹操も狙っているだろう陸口へ向けて、このままさっそく出立すると言って、劉備らをおどろかせた。
「電光石火の勢いなのは、われらも同じということですよ」
と、周瑜は笑って見せた。
「さすがとしか言いようがありませんな」
劉備は、うまく周瑜をおだてる。
すると、それまで孔明の存在を全く忘れているかのように振舞っていた周瑜が、ちらっと孔明のほうを見た。
なんであろうと孔明が構えていると、周瑜は切り出した。
「ときに劉豫洲、貴殿の軍師もわれらと同道することは、もちろんお許しいただけますな」
そう周瑜に問われ、劉備は一瞬、虚を突かれたような顔になった。
ほんとうに一瞬だったのだが、孔明はむしろ劉備の反応のほうを意外に思った。
それというのも、事前の打ち合わせで、同盟のゆくえを見届けるため、孔明は江東の軍と行動をともにすることを決めていたからである。
「ええ、もちろん。孔明はわが股肱にして手足のようなもの。
どうぞ大事にあつかってやってください」
劉備が言うと、周瑜はほがらかに笑って、もちろんと返してきた。
それで、そのまま会見は終わりとなった。


つづく

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さて、土日の更新をしようかと迷いに迷っていますが、結論がまだ出ないでいます。
それというのも、やはり原稿の進行具合がイマイチなためでして……
ああ、優柔不断。
決まりましたら、またご連絡させていただきますね。

ではでは、またお会いしましょう('ω')ノ


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