何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

あいこが 勝つ ①

2020-12-01 07:07:07 | 

事程左様に勝負の世界は厳しく、勝者と勝ち方には品格が求められるが、その世界そのものが発展するためには、敗者や二番手にこそ品格が必要なのかもしれない。
だが、白黒つけなければいけない世界ばかりではない、かもしれない。

人生には往々にして、負けるが勝ち、ということもある。

また、あいこでいくことが良いことも多い。
そう思いたい今日は、敬宮愛子内親王殿下のお誕生日だ。

いつだったか、女性天皇議論が白熱していた時に、男子高校生が呟いた言葉が印象に残っている。
「勝ちでも負けでもなく、愛子」

このところ立て続けに、能力のある女性が、女性であるがために跡目を継げなかったり、能力に相応しい地位につけない本を読んでいた。

江戸時代の呉服商のお話し「あきない世傳 金と銀」(高田郁子)では、遊び人と非人情と優男の三兄弟が何度も潰しそうになるお店を、元女衆の幸が知恵と努力で救う話なのだが、三兄弟の妻として如何にお店を盛り立てようとも、「女名前禁止」の風習の前にはどうしようもなく、そのような風習のない江戸で本領を発揮し商いを広げようというところで、現在シリーズ9巻目。

もう一冊は、兄よりも並み居る男兵士よりも剣術や闘いの流れを読む力があるのに、女性ゆえにその活躍に相応しい地位を与えられないもどかしさが印象的な「震雷の人」(千葉ともこ)

長く続いている風習や伝統には意味があり重んじなければならないことも多いが、あまりに時代に合わぬものは因習にしかならないし、次の時代を切り拓く力を失うことになる。
その思いが強いので、粛々と伝統を守ったというよりは、力づくでど真ん中に割り込んでくる禍々しさと又それを許してししまった世界に失望し、もはや尊崇の念を抱くことは難しいとすら感じてもいるが、理不尽を嘆きながらも、強くしなやかに生きている「あきない世傳」「震雷の人」の女性の話を読み返せば、そこから違ったメッセージを感じ取ることもできる。

タイトルにもなっている「震雷の人」は、作中重要な意味をもつ「一字、震雷の如し」からくるもので、力ではなく書(法)で世を治めることを夢見た文官の意志をその幼馴染と許嫁が継いでいくのだろう、という物語なのだが、真に民の心を動かすこと、その重要性について記された件がある。

(『 』「震雷の人」より)
『なぜ人は字を書くのか。そして、字を言葉として口にするのか。
 筆鋒日月を巡らし、字勢乾坤を動かすと聞く。要は、書生が俺に言った言葉と同じであろう。
 一字は、天地を揺るがすほどの力を持つと
相手の心を動かさねば、真の意味で、人の身体は動かぬ。書生が言った言葉が、ようやく分かった。 
 俺が帝位に就けば、麾下の者は離れていくだろう。これまで、力だ屈服させてきたからだ。長安で、つくづく痛感した。このやり方では、駄目だと』

この件を再読すると、その世界に失望しもはや尊崇の念を抱くことはできないとう思いの一端が揺らぐ。
そう思わせる文章がある。

女の子であるが故に、御誕生直後から困難な道を歩んでこられ、女性であるが故に父の跡を継ぐことができない人の、この御方にこそ、次の世の光となって頂きたいと思わせる、文章がある。

それは、つづく


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