2012年7月15日-4
Bunge哲学辞典:reduction 還元
reduction 還元 [BungeDic1: 242-244]
【a 概念】認識的操作の一つであり、より精確には、分析の一種類であって、それによって、還元される対象は、論理的または存在論的にそれに先立つ他のものに依存していると推測されるか示されるのである。もしAとBが両者ともに、構築体であるか具体的存在者のどちらかであるならば、AをBに還元することとは、AをBと同定することであるか、AをBに包含することであるか、あらゆるAは或る集合体 aggregate か、或る組合せか、あるいはBの平均であるか、そうでなければBの顕在化か像なのだと主張することである。そのことは、AとBは互いに大変異なっているように見えようとも実際は同一であると主張すること、あるいはAはBという属の一つの種であると主張すること、あるいはどういうわけかあらゆるAはBから結果すると、もっと漠然と言えばAはBに『煮詰まる』、または『つまるところ〔in the last analysis〕』すべてのAはBであると主張することである。_概念的還元_の例。整数は、素数であるか素数の積のどちらかである。静力学は、力学の一章〔一部分〕である。光学は、電磁気学理論の一章である。存在論的還元の例。熱は、分子のランダム〔乱雑、でたらめ〕運動である。心的過程は、脳の過程である。社会的事実は、個人的行為の結果である。
【b 還元の論理】還元について、四つの場合を区別すべきである。すなわち、概念の還元、命題の還元、理論の還元、そして説明の還元である。
概念Aを概念Bに還元するとは、AをBによって定義することである。ここでBは、Aの指示対象の【↑水準 level 】と同じか、より低い(または高い)水準にある或る物、性質、または過程を指示する。このような定義は、_還元的定義_と呼ばれよう。(哲学的文献においては、還元的定義は『架橋仮説〔橋渡し仮説〕』と通常呼ばれている。おそらくは、それらはしばしば当初は仮説として提案されたからである。分析の無い歴史は、誤解を招く可能性がある。)概念の還元的定義の三種類とは、(a) 『光 =df 電磁気的放射〔線〕』におけるような、_同一水準_のもの、(b) 『熱 =df〔→ =def〕 分子のランダム〔乱雑、でたらめ〕運動』におけるような、上から下への、または_微視還元的 microreductive_なもの、(c) 『自然淘汰 =df 環境圧による生物個体の除去』におけるような、下から上への、または_巨視還元的 macroreductive_なもの、である。
_命題_の還元は、その命題に現われる少なくとも一つの述語を、還元的定義の
定義項によって置換することから起こる。たとえば、『言語的表現の形成 =df ウェルニッケ野の特異的活動』という還元的定義によって、『花子は言語的表現を形成していた』という心理学的命題は、『花子のウェルニッケ野は活動的だった』という神経科学的命題に還元される。
或る_説明_が還元的だと言われるのは、その説明での説明項の前提の少なくとも一つが還元された命題であるとき、そしてそのときに限る。たとえば、システム〔系体 system〕の形成を、その〔システムの〕構成要素の自己集成 self-assembly によって説明することは、微視還元的な(または下から上への)類いの説明である。組み立て列〔組立作業工程 assembly line〕での作業、または生命の起源についての仕事は、この類いの説明を誘導している。対照的に、システムの構成要素をの振る舞いを、システムにおいてそれが保持する位置かまたはそれが演為する〔遂行する perform〕役割によって説明することは、巨視還元的な(または下から上への)型の説明である。自動車整備士と社会心理学者は典型的に、この型の説明に訴える。最後になるが、理論の還元についての分析は、次のように進めることができよう。二つの理論(仮説演繹的体系)をT1とT2と呼ぼう。両者はいくつかの指示対象を共有すると仮定し、還元的定義の集合をRと呼び、T1またはT2のどちらかには含まれない補助的仮説の集合をSと呼ぼう。すると、(1) T2は、T1に完全に(または強く)還元できる =df T2は、T1とRの和集合からの論理的結果である;そして (2) T2は、T1に部分的に(または弱く)還元できる =df T2は、T1とRとSの和集合からの論理的結果である、と規定される。
【c 理論の還元についての制限】光線光学〔ray optics〕は、『光線〔light ray〕 =df 光波面と直角をなす』という還元的定義を介して、波動光学に強く還元できる。同様に、波動光学は、上記の(a)という還元的定義によって、電磁気学に強く還元できる。他方、気体の運動理論〔運動論〕は、質点力学〔particle mechanics〕に弱く還元できるだけである。というのは、気圧と温度の概念の還元的定義に加えて、気圧の概念は位置と速度のランダムな初期分布という補助的仮説を含むからである。同様に、量子化学、細胞生物学、心理学、そして社会科学は、それぞれの対応する下位の専門分野に弱く(部分的に)還元できるだけである。量子理論でさえ、いくつかの古典的概念(たとえば、質量と時間という概念)だけでなく、巨視物理学的境界についての諸仮説を含んでいる。そのため、完全な微視的還元とはならない。同様に、微視的経済活動は、現行の公定歩合と政治的状況といった巨視的特徴を特定すること無しには、適切に記述することはできない。新古典派の微視経済学によって企てられた微視的還元が不成功であるのはまさに、巨視的環境に対する余地が無いからである。他の多くの還元したという主張も、正当化されない。対照的に、生化学とか認知神経科学といったように、専門分野を学際的専門分野に併合することは、はるかにより一般的であり、また大変成功的であった。【↑還元主義 reductionism】。
Bunge哲学辞典:reduction 還元
reduction 還元 [BungeDic1: 242-244]
【a 概念】認識的操作の一つであり、より精確には、分析の一種類であって、それによって、還元される対象は、論理的または存在論的にそれに先立つ他のものに依存していると推測されるか示されるのである。もしAとBが両者ともに、構築体であるか具体的存在者のどちらかであるならば、AをBに還元することとは、AをBと同定することであるか、AをBに包含することであるか、あらゆるAは或る集合体 aggregate か、或る組合せか、あるいはBの平均であるか、そうでなければBの顕在化か像なのだと主張することである。そのことは、AとBは互いに大変異なっているように見えようとも実際は同一であると主張すること、あるいはAはBという属の一つの種であると主張すること、あるいはどういうわけかあらゆるAはBから結果すると、もっと漠然と言えばAはBに『煮詰まる』、または『つまるところ〔in the last analysis〕』すべてのAはBであると主張することである。_概念的還元_の例。整数は、素数であるか素数の積のどちらかである。静力学は、力学の一章〔一部分〕である。光学は、電磁気学理論の一章である。存在論的還元の例。熱は、分子のランダム〔乱雑、でたらめ〕運動である。心的過程は、脳の過程である。社会的事実は、個人的行為の結果である。
【b 還元の論理】還元について、四つの場合を区別すべきである。すなわち、概念の還元、命題の還元、理論の還元、そして説明の還元である。
概念Aを概念Bに還元するとは、AをBによって定義することである。ここでBは、Aの指示対象の【↑水準 level 】と同じか、より低い(または高い)水準にある或る物、性質、または過程を指示する。このような定義は、_還元的定義_と呼ばれよう。(哲学的文献においては、還元的定義は『架橋仮説〔橋渡し仮説〕』と通常呼ばれている。おそらくは、それらはしばしば当初は仮説として提案されたからである。分析の無い歴史は、誤解を招く可能性がある。)概念の還元的定義の三種類とは、(a) 『光 =df 電磁気的放射〔線〕』におけるような、_同一水準_のもの、(b) 『熱 =df〔→ =def〕 分子のランダム〔乱雑、でたらめ〕運動』におけるような、上から下への、または_微視還元的 microreductive_なもの、(c) 『自然淘汰 =df 環境圧による生物個体の除去』におけるような、下から上への、または_巨視還元的 macroreductive_なもの、である。
_命題_の還元は、その命題に現われる少なくとも一つの述語を、還元的定義の
定義項によって置換することから起こる。たとえば、『言語的表現の形成 =df ウェルニッケ野の特異的活動』という還元的定義によって、『花子は言語的表現を形成していた』という心理学的命題は、『花子のウェルニッケ野は活動的だった』という神経科学的命題に還元される。
或る_説明_が還元的だと言われるのは、その説明での説明項の前提の少なくとも一つが還元された命題であるとき、そしてそのときに限る。たとえば、システム〔系体 system〕の形成を、その〔システムの〕構成要素の自己集成 self-assembly によって説明することは、微視還元的な(または下から上への)類いの説明である。組み立て列〔組立作業工程 assembly line〕での作業、または生命の起源についての仕事は、この類いの説明を誘導している。対照的に、システムの構成要素をの振る舞いを、システムにおいてそれが保持する位置かまたはそれが演為する〔遂行する perform〕役割によって説明することは、巨視還元的な(または下から上への)型の説明である。自動車整備士と社会心理学者は典型的に、この型の説明に訴える。最後になるが、理論の還元についての分析は、次のように進めることができよう。二つの理論(仮説演繹的体系)をT1とT2と呼ぼう。両者はいくつかの指示対象を共有すると仮定し、還元的定義の集合をRと呼び、T1またはT2のどちらかには含まれない補助的仮説の集合をSと呼ぼう。すると、(1) T2は、T1に完全に(または強く)還元できる =df T2は、T1とRの和集合からの論理的結果である;そして (2) T2は、T1に部分的に(または弱く)還元できる =df T2は、T1とRとSの和集合からの論理的結果である、と規定される。
【c 理論の還元についての制限】光線光学〔ray optics〕は、『光線〔light ray〕 =df 光波面と直角をなす』という還元的定義を介して、波動光学に強く還元できる。同様に、波動光学は、上記の(a)という還元的定義によって、電磁気学に強く還元できる。他方、気体の運動理論〔運動論〕は、質点力学〔particle mechanics〕に弱く還元できるだけである。というのは、気圧と温度の概念の還元的定義に加えて、気圧の概念は位置と速度のランダムな初期分布という補助的仮説を含むからである。同様に、量子化学、細胞生物学、心理学、そして社会科学は、それぞれの対応する下位の専門分野に弱く(部分的に)還元できるだけである。量子理論でさえ、いくつかの古典的概念(たとえば、質量と時間という概念)だけでなく、巨視物理学的境界についての諸仮説を含んでいる。そのため、完全な微視的還元とはならない。同様に、微視的経済活動は、現行の公定歩合と政治的状況といった巨視的特徴を特定すること無しには、適切に記述することはできない。新古典派の微視経済学によって企てられた微視的還元が不成功であるのはまさに、巨視的環境に対する余地が無いからである。他の多くの還元したという主張も、正当化されない。対照的に、生化学とか認知神経科学といったように、専門分野を学際的専門分野に併合することは、はるかにより一般的であり、また大変成功的であった。【↑還元主義 reductionism】。