中野系

この銀河系の中心、中野で考えること

ドア・イン・ザ・フロア

2005年11月04日 | 映画
好きな作家、ジョン・アーヴィングの小説「未亡人の1年」の映画化。どれだけ優れた原作の映画化も、小説を先に読んでしまうとダイジェストみたいに見えてしまうから、と思い小説自体はまだ未読。

恵比寿ガーデンシネマの客層は他より高めであることが多いけれど、今回は特にそれが顕著。映画のポスターからして難しい表情をした中年夫婦が横に並ぶ写真に「悲しみの扉を開けて、私は、ゆっくり生まれ変わる」のコピー。夫婦の直面する苦悩や葛藤を淡々とじっくり描く文芸作品。いかにも文芸作品然とした印象故、おのずと客層も絞られたのだろう。

映画が始まって最初の1時間くらい、物語の前半部分については宣材のイメージどおりの内容。一夏のアルバイト先として有名作家の下を訪れる作家志望の青年が、そこに見るのは既に終わりかけている冷えた夫婦関係。過去二人の息子を事故で失った傷を癒しきれない美しい作家の妻に青年は惹かれ、そして…

正直言えばこの前半はやや退屈。ニューヨーク、ロングアイランドの静かな夏の風景は良いけれど2時間この調子は少々きついな、と思って見ていると、1時間くらい経過した辺りから物語の展開にスピードを持ち始めてくる。具体的には中盤、青年が作家の妻と情交を持ってしまうあたり。先のコピーで言えば、作家の妻が扉を開けた瞬間、ということか。

この後半部分からはスピードだけでなく内容的にもアービングの「ガープの世界」的な世界。真面目にやっているはずなのにどこかコミカルな人々。その喜劇的な奮闘はジョージ・ロイ・ヒルによる映画の続き的なものを期待する人にも充分満足がいくと思うし、素直に物語を追っていればそれだけで楽しい。

パンフレットを購入して知ったのだけれど、実は映画化されているのは原作の最初1/3くらいの部分まで。原作タイトルが「未亡人の一年」なのに未亡人が出てこないのもその為。パンフレットには小説の「その後」も記されているのだけれど、これによると小説での主人公、実は作家夫婦でないようだ。概要ではあるけれど、いかにもアーヴィング的な物語進行でそうなので是非とも読んでみたくなった。

事情を知らなければ、あくまでも完結した作品として十分に成立していると思うし、その意味では見事な小説の映画化だったと思う。前半と後半の落差が少しバランス悪い気がするので、そこは少々残念。ラストシーン、個人的にはかなり好きな終わり方。この辺は好みも別れるかもしれないけれど。

★★★