検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

占部町に伝わる乙女伝説3  連載小説53

2012年07月18日 | 第2部-小説
   楓が朝10時に占部に来たということは麓で一泊して山を登ってきたか、深夜に家を出たかのどちらかだ。いずれにしても楓は疲れているのに違いない。百姓仕事は夜明け前に始まり、陽が高い日中は昼寝をして体を休める。10時は仕事を終える時間だった。
「わしらは仕事を終えるところだった。楓殿も疲れたことだろう。繁蔵は先に帰らせた。水を浴びて着替えるようにいった。わしの家に来るがいい」といって楓と一行を家に連れてくると、楓を棟続きの離れに案内した。
「後から繁蔵も来る。それで構わないな」と楓に断ると楓は小さくうなずいた。
「あっ、今、風呂を炊かせている。繁蔵やわしらは野良仕事で汗を流しているから水浴びで平気だが楓殿には無理だ。風呂ができたら知らせるから、ゆっくりするがいい」と言い残して母屋に消えた。

 2人分の昼食が運ばれた。小1時間ほどすると下働きの老婆が膳を引き下げにきたがそのあと部屋はひっそりして人の気配を感じさせない。仕事の疲れと、旅の疲れで2人とも深い眠りに入ったようだ。
 西日が樹木の影を長くし始めた頃、老婆が夕食を運んできた。食事が終わったらしく、楓が障子を開けた。日が長くなった空はまだ青みが残っていたが綿雲の縁は朱色に染まり、太陽の沈むところはひときわ輝いていた。じっと見ていた楓は後ろを振り向くと手招きをした。
 すると繁蔵が姿を見せ、楓の肩に手をかけると抱き寄せた。されるままに身を寄せた楓はそのまま紅の空を見つめた。日が沈むと障子はピタッと閉じられ、蜀台の灯も消えた。