検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

広がる話、来た目的は 連載小説46

2012年07月09日 | 第2部-小説
 「おっしゃる通りです。一つは昭和の大合併の名残があります。3村が合併して今の占部町ができたのですが旧村に支所と保育所があり、幼稚園が1つあります。もう1つの事情は占部町は山間の奥に集落があって広域なのです」
 将太は自分が住む市に隣接する町と占部町を比較した。関東平野にあって一面平野だ。面積は15キロ平方メートルで人口は4万人いる。将太の住む市は21キロ平方メートルで12万人だ。ところが占部町の面積は69キロ平方メートルだという。地方の町、村から見ると決して広域ではないが93%が山林だというから道路を除くと平地は役所がある一画だけだ。そして300人近い住民は27集落で暮らしているという。この集落をすべてまわると2日はかかる。
「行政組織数が多すぎるといわれています。幼稚園かなり以前になくなり、保育所は3カ所でなく1カ所にできないか。そうした指導もあって職員数は現在人口千人当たり28人まで下げました」

 将太は「類似団体から見ると」というのは実にくせ者だと思っている。というのは欧米主要国と日本の公務員数を比較した資料を見ると、日本の公務員数はかなり低い。そうした統計と比較すると日本の公務員は逆に増やさなければいけない。
「国が統計を使うときは、いつも作為がありますね」
「でも今、公務員を欧米並みに増やせという住民世論はありませんよ」
「そこが国民もおかしい」
「こういう問題になると冨田さんは結構、熱くなりますね」と松本はカラカラと笑っていった。

 すると公平は「冨田さんは、大体、こんな感じの人です。そうですね冨田さん」と話をつないだ。
「だって、効率だけを問題にするとここに住む人たちは全員、山から下りて町で暮らせということになるでしょ」
「いや、それは与党の国会議員で主張している人がいますよ。介護が必要な高齢者は山から下ろして施設に入れるようにすると」
「それだけを聞いているとありがたく思う人が出ますね」
「そうです。だからその国会議員、前回はダントツのトップ当選でした」
「でもそれをすると山から人が確実に消えて、将来は人がいなくなるでしょ」
「山から人がいなくなると山は本当に荒れますからね。この山梨は山が荒廃したため明治、笛吹市、甲府市が泥流におおわれる大災害が発生しました」

 車の中で話はどんどん広がる。一つ一つは興味のある話だがこの流れはまずい、いかんぞと思った。ここに来た目的はばあさんが蛇を食う話や村の歴史を聞くためではない。中山間地がどうなっているのか。それは来た目的のひとつだが、一番の目的は自然エネルギーについてどんな取り組みがあるのか。将来計画はあるのか、ないのか。あるとすればどういう計画か。話をそっちの方にしぼらなければいけないと思った。

 だが遅かった。松本課長ははるばるここまで来た公平の元上司に町の様子を説明し、町を丁寧に案内するつもりで、気持ちも乗っていた。